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オープンデータ分析で救急搬送短縮を提案した佐賀大大学院がグランプリ【データビジネス創造コンテスト】

デジタル・ネイティブ世代がデータ分析で自治体の課題解決

 11月8日、慶應義塾大学三田キャンパスで第2回「データビジネス創造コンテスト(Digital Innovators GrandPrix(DIG)」(主催:慶應義塾大学SFC研究所データビジネス創造・ラボ、ビジネスパートナー:アクセンチュア)が開催された。このコンテストはデジタル・ネイティブ世代の学生が自治体が提供するオープンデータを分析し、少子高齢化や低い投票率の改善など現実の課題に対する解決方法を提案する。

左から、工藤 卓哉氏(アクセンチュア)、須江 雅彦氏(総務省)、長尾篤志氏(文部科学省)

左から、工藤 卓哉氏(アクセンチュア)、須江 雅彦氏(総務省)、長尾 篤志氏(文部科学省)

 決勝戦には、高校生2チーム、大学生・大学院生7チーム、高校生と大学生の混成1チームの計10チームが進出し、神奈川県、佐賀県、会津若松市、鯖江市、流山市の、観光、医療、教育、少子・高齢化に関する課題に取り組んだ。使用可能なデータは自治体のオープンデータ、統計データ、国内外のオープンデータ、ソーシャルデータなど。分析ツールに制限はなく、本選出場チームへはBuzzFinderとSAS Analytics University Editionが提供された。

 審査するのは、慶應義塾大学 環境情報学部長・教授 村井 純氏を委員長として、総務省、文部科学省、東京大学、慶應義塾大学、統計数理研究所、アクセンチュア、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション、ブレインパッド、SAS Institute Japanなどから参加した総勢17名の審査員である。

高校生チームがトップバッター

 冒頭の挨拶が終わると、さっそく決勝戦に進んだ10チームの発表がスタートした。トップバッターは、異なる高校に属する生徒たちが集まったチーム「M&A」。テーマは流山市の若年層投票率向上だ。

 このチームが着目したのは市内にある公園。別の自治体で公園利用を活性化させたパークマネジメントの手法を使って、公園の利用者を増やし、その流れで投票所へも足を運んでもらおうというアイデア。流山市の航空写真に人口や、投票場、公園、小学校などをマッピングして投票場に近い公園にはウエイトを加味するなどして図解しながらプレゼンを行った。緊張気味の発表が終わると、さっそく審査員から「今回のパークマネジメントにはどこにオリジナリティがあるのか」といった厳しい質問が飛ぶ。質疑応答は、このあとに続くどのチームに対しても活発に行われた。

実践女子大学のチームは、働く女性が輝くための施策を提案

 実践女子大学のチーム「実践人社」は、「SNSからみる女性が求める『真の』ポジティブアクションの把握と導入」について発表した。BuzzFinderを使って働く女性のブログトレンドを調べ、働く女性に近いキーワードの相関性を分析。さらにクラスター分析も行って、女性に響く施策立案に必要なデータを発見していく過程を紹介した。最後に神奈川県の自治体が、働く女性の予備軍である女子大生が注目するキーワードを選んでセミナーやイベントを行うことを提案した。

落ち着いた丁寧な説明でデータ分析の過程を紹介。質問にとまどいながらもしっかり回答していた

落ち着いた丁寧な説明でデータ分析の過程を紹介。質問にとまどいながらもしっかり回答

造形大学大学院は、プレゼン資料も洗練されていた

 大学卒業後に多くの若者に住んでほしいと願っている会津若松の魅力を伝える施策を提案したのは、東京造形大学大学院の「ZOKEI AWP」。会津若松と同じ人口を持つ都市と比較し、アンケートやインタビューを通じて駆使して、何が会津若松で生活することのネックになっているのかを探っていく。

造形大のスライドはデザインが洗練されていた
造形大のスライドはデザインが洗練されていた

 そして、会津若松に住んでいない人にも興味を持ってもらうための新しいサイトを提案。そこでは仮想の市民登録をして、コミュニティに加わり情報を得ることができる。また、地域を改善するアイデアを募集して共有したり、採用されたら地元の工芸品がもらえるような仕組みも作る。構築したサンプルサイトだけでなく、プレゼン資料もデザインが洗練されているのがこのチームの特徴だ。

会津若松の魅力を伝える新サイトも紹介
会津若松の魅力を伝える新サイトも紹介

佐賀大学大学院は、救急搬送の時間短縮を実現する複数の施策を提案

 続いて登場した佐賀大学大学院の「Team Saggest」は、オープンデータの分析による救急搬送プロセスの向上に取り組んだ。佐賀県では救急車にiPadを配備して検索可能にすることで、搬送時間を平均1分短縮することに成功した。しかし本チームはその後、搬送時間に増加傾向が見られたことを指摘し、主な原因である病院での「たらいまわし」を減らすために、救急車を呼ぶべきか迷ったときの相談窓口の番号「#7119」に着目。この番号の運用によってどんな改善が見られるかを分析した。

 また、救急救命士へのヒアリングから、データがない患者は病院側がリスクを感じて受け入れ不可になることが多いことが判明。対策としてお薬手帳の活用促進を提案し、救急搬送の初診に利用することで、平均搬送時間を最大22秒短縮可能との予測を示した。また、高齢者でも正確かつ迅速に状況を伝えられる専用のアプリが必要だとして、お薬手帳機能、体の部位をタップすることで簡単に患者の状況をテキストに変換してメールを送れる機能をなどを提案。こうした施策によってたらい回しを抑制し、40秒の時間が短縮できると発表をしめくくった。

データ分析から施策まで、完成度の高い発表を行った佐賀大学大学院
データ分析から施策まで、完成度の高い発表を行った佐賀大学大学院

 このほかにも、 鯖江市を若者が定着する街にするため、「空き家」と「学生の空き家利活用ニーズ」のマッチングに着目し、若者の拠点形成を提案した「チーム新領域」(東京大学大学院)は、都市計画、空間情報/情報解析、社会学、建築という異なるバックグラウンドを持つメンバーが各人の強みを活かした発表を行った。また、東京大学のチーム「東大経済研統計コース」は、佐賀大学大学院と同じテーマを異なる視点で分析。緊急搬送時間を短縮する救急車の効率的な配置を提案した。また、有田焼の産地を活性化させるため、フードコートを作って観光客の胃袋をつかむ施策を提案した慶応技術大学「Trusteen」など、斬新な視点で次々と発表が行われた。

グランプリは佐賀大学大学院

 半日がかりで行われた全10チームの発表がすべて終了すると、1時間の審査時間を経て、受賞チームの発表が行われた。最優秀賞は「オープンデータの分析による救急搬送プロセスの向上」を発表した佐賀大学大学院のチーム「Saggest」が受賞した。

審査員長の村井氏から賞を贈られた佐賀大学大学院

審査員長の村井氏から賞を贈られた佐賀大学大学院

 村井氏は、地方自治体がどういう課題を抱えているかをよく理解しており、施策の完成度が高かったと評価。また、データを分析し、それを根拠として説得していくことの重要性を指摘し、アプリなどに活かしてほしいと語った。ほかにも、審査員特別賞は東大経済研統計コース、未来創造賞は実践人社、アクセンチュア賞はZOKEI AWPなど、各賞が発表された。

アクセンチュアの工藤氏に、率直なコメントを述べて場内の笑いを誘った造形大学大学院のチーム
アクセンチュアの工藤氏に、率直なコメントを述べて場内の笑いを誘った造形大学大学院チーム

 村井氏は現在、「オープンデータ」と呼ばれる公共データの活用を促進する立場にあり、これからの日本を担う若者たちの取り組みに大きな期待を寄せている。発表の中には、前提と結論の結びつきが弱かったり、説得力に欠ける場面もあった。目の前の課題をクリアすることにこだわる学生たちに、村井氏がより大きな視点から考えることを促す場面も何度か見られた。社会とは何か、社会を良くするためにどんな方法があるのか。村井氏自身が日本でのインターネット普及のために尽力してきたその姿勢が垣間見られる瞬間でもあった。

 今回はアクセンチュアがパートナーとして運営を行ったが、来年はブレインパッドがその任に当たる。そして、企業の協力を得てデータを提供してもらい、ビジネスの現場に近い分析に学生たちがチャレンジすることになるという。第3回には一体どんなチームが参加してどんな分析を見せてくれるのか、今から楽しみだ。

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MarkeZine(マーケジン)
2014/11/12 11:39 https://markezine.jp/article/detail/21348

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