AI導入を成功に導く鍵、そして導入を阻む壁は?
━━グローバルで成長している企業が、このAI時代を見据えて共通して行っている「準備」とは何でしょうか。
企業の成功を左右する一番の要因は、間違いなく「データクオリティ(データの品質)を高めること」にあります。LLM(大規模言語モデル)は、すべてアルゴリズムによってデータを読み込み、それを基に商品のレコメンデーションを行います。そのため、商品の説明文や画像、ユーザーによる口コミなどのデータを、LLMが理解しやすいように正しく構造化し、完全性の高い状態に整えておくことが根本的な大前提となります。

Shopifyでは、企業がFAQ(よくある質問)や出荷ポリシー、返金規定などのテキストを簡単にアップロードできる「ナレッジベース」という機能を提供しています。これらの情報が綺麗に整理されていることが、LLMに対する強力な「信頼のシグナル」となり、結果として自社の商品がAIに優先的にレコメンドされるようになります。
また、成功している企業に共通しているのは、AIを何か特別なものとして捉えるのではなく、「日々の事業運営(オペレーション)の中に一貫して組み込んでいる」という点です。商品の説明文の生成、リアルタイムの価格最適化、プロモーションの作成など、ビジネスのあらゆる側面にAIを当たり前のように溶け込ませています。
━━逆に、多くの企業が陥りやすい「成長を阻む壁」とその乗り越え方について教えてください。
壁には「人間的な問題」と「技術的な問題」の2つがあります。
まず人間的な問題、つまりリーダーシップの課題として大きいのは、「既存のシステムに対する過度なプライドや、変化を恐れる気持ち」です。新しい世界であるエージェンティックコマースの環境を整えなければならないにもかかわらず、「これまでのやり方を変えたくない」という心理が最大の障壁になります。
技術的な課題としては、多くの企業が抱えている「レガシーアプリケーション」の存在が挙げられます。古いシステムの多くは「APIファースト」で設計されておらず、データが構造化されていなかったり不完全だったりするため、LLMとどのようにインタラクション(相互作用)すればよいのかがわかりません。AIは構造が完全で十分なデータでないと読み解いてくれないため、企業は自社のコマースシステムのアーキテクチャそのものを、AIが理解できる言語を話せるインフラへと再検討していく必要があります。
EC担当者の実務への影響は?既存チャネルの拡張とWebサイトの役割の変化
━━AIエージェントが消費者の「代理」として商品を選ぶ時代が本格化していったとき、企業のマーケターは「誰」に向けて、どのような体験を設計すべきだと考えますか。
エージェンティックコマース経由の売上が、最終的に全体の何パーセントを占めるようになるのかは、現時点では誰にも予測できません。しかし、それが「決してゼロにはならない」ということだけは確かです。
かつて小売業界に「モバイルコマース」や「ソーシャルコマース」の波が押し寄せたときと同じように、エージェンティックコマースは既存のチャネルを完全に置き換えるのではなく 、「今あるチャネルに強力な追加のチャネルが加わる(拡張される)」と捉えるべきです。
ECの責任者やマーケターにとって最も危険なのは、「これはまだ現実のテクノロジーではない」と高を括って何もしないことです。自社が対応を怠っている間にも、競合他社は着実に準備を進めています。自社のデータがAI向けに最適化されていなければ、LLMという新しい検索・購買インフラにおいて、自社ブランドが「存在しないもの」として扱われてしまう大きな経営リスクをはらんでいるのです。
━━検索導線や、私たちが日常的に運用しているECサイトのコンテンツ構成のあり方は、AI時代にどう変化していくのでしょうか。
消費者がAIエージェントを通じて衣服や本を買うようになれば、既存のWebサイトの役割は再定義されることになるでしょう。これからの自社ECサイトは、単に商品を並べて決済させる場所から、「ブランドのストーリーを伝え、クラフトマンシップを際立たせ、循環型経済への取り組みをアピールするための場所」へとシフトしていくはずです。
現在のデータを見ると、AIでリサーチを完結させたユーザーであっても、最終的には商品詳細ページを確認するためにWebサイトへ流入し、そこで購入を確定させるという行動が多く見られます。そのため、サイト上のコンテンツは、AIに読み込ませるための構造化データと、人間の心を動かすエモーショナルなコンテンツの双方が、高い次元で両立している必要があります。
また、Shopifyにおける直近の大きなアップデートとして、日本の事業者様もアメリカのAIチャネル経由で自社商品を直接販売できるようになりました。これは日本企業にとっても非常に大きな期待が集まっています。
