レコメンドシステムが生む「拡散の好循環」と他モールへの波及効果
まず注目すべきは、TikTok Shop経由での圧倒的な売上実績だ。神田氏によると、出店からわずか3ヵ月目で月商8,500万円という驚異的な売上を記録したという。初期段階からのこの飛躍的な成長は、TikTok特有のレコメンドシステムとユーザー体験がもたらしたものだ。
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TikTokはユーザーの視聴履歴や興味関心に基づいてコンテンツを表示するパーソナライズ機能が非常に強力だ。神田氏は、このプラットフォームの特性が売上拡大に直結したと分析。「他の関連商品にも接触することができ、様々な商品が発見できるような仕組み」と語る。
松屋の商品を紹介するクリエイターが増えるにつれ、ユーザーが関連動画に触れる機会も広がり、興味を持ったユーザーには他の関連動画も届くようになる。そうして松屋の商品に興味を持つユーザーが増えていき、その熱量が新たなクリエイターの投稿を呼ぶ好循環が生まれた。結果として取り扱うクリエイターが増加し、相乗効果につながった。
さらに興味深いのは、TikTok Shopでの成功が単独のチャネルにとどまらず、企業全体のEC売上にも波及効果をもたらしている点。TikTok Shopへの出店によって他のECサイトの既存客が流出したわけではなく、むしろ他のECサイトでの指名検索が増加し、売上も同時に伸びたという。神田氏は「今までまったく認知が取れていなかった層にTikTok Shopで認知を広げることができ、全体の利用が増えていきました」と述べる。TikTok Shopで購買に至らなくとも他のチャネルでの購買につながっており、動画が強力なトップファネルとして機能したことで、最終的にオムニチャネル全体での顧客接点を底上げしたことを証明している。
3日間で約3,000万円の売上。「ブランドデー」の爆発力
松屋オンラインショップが短期間で巨額の売上を達成した背景には、細かな施策の積み重ねに加え、プラットフォーム側と連携した大型イベントの成功がある。その代表例が、2026年4月末にTikTokと3日間連続で共同開催した「TikTok Shop ザ・ブランドデー | 松屋フーズデー」だ。TikTok Shopの協力で松屋のコンテンツをTikTok Shop内で大々的にフィーチャーし、新商品である「シャリアピンハンバーグ」を同日、TikTok限定で先行販売した。「ザ・ブランドデー」の開催は食品業界としては初の試みだったという。
神田氏によれば、同イベントでは著名なクリエイターからマイクロクリエイターまで、およそ400名のクリエイターが一斉にコラボレーションを実施。このかつてない規模のクリエイター共創により、わずか3日間で約3,000万円の売上を創出するという凄まじい結果を残した。
このイベントの成果は、一時的な売上の急増だけではない。クリエイターとの共創が極めて活発化したことでブランドの露出が劇的に増加し、その余波は翌月の楽天をはじめとする他社ECモールにおける売上にも大きく貢献したという。クリエイターによる同時多発的な発信が、TikTok上での一種のムーブメントを生み出し、消費者の購買意欲を強く刺激したのだ。
この事例は、EC事業者がTikTokを活用する際、単にアカウントを開設して動画を投稿するだけでなく、クリエイターのネットワークをいかに大規模かつ戦略的に動員できるかが鍵となることを示唆している。しかし、数百人規模のクリエイターを統率し、効果的なプロモーションへと導くには、高度なマネジメント体制が不可欠だ。松屋はいかにしてこの課題をクリアしたのだろうか。
