わずか4ヵ月で検証へ。現場に伴走した「AI駆動の内製開発」
このSMARTのプロトタイプの開発段階から協力し、自社店舗での実証実験に踏み切ったのが、日本のファッションアパレル業界をリードする企業の1つ、ユナイテッドアローズだ。
同社では、2026年中にホールディングス化への移行を予定するなど、経営体制の大きな変革期を迎えている。その中で、店舗業務のデジタル化は注力領域の1つだが、とりわけ店舗ごとの週報作成業務には大きな課題を抱えていた。従来の運用では、各店舗が週報を作成するのに毎週2時間から3時間もの時間を費やしており、さらに作成する店長やスタッフによって内容の質にばらつきがあることが問題視されていたという。現場の大切な気づきや顧客の声が十分に活用されず、埋もれてしまう状況を打開したいという強い思いがあった。
ユナイテッドアローズのITソリューション本部でITセキュリティ部副部長を務める加藤大輔氏は、取り組みの背景を「現場の空気感や気づきを鮮度が高いうちにシステムへ吸い上げて戦略立案の土台にしていくことと、業務効率化を図り、店舗スタッフが接客に集中できる環境をしっかり整えていくことが目的」だったと振り返る。これは単なるコスト削減や効率化の文脈ではなく、現場の価値ある声をすくい上げ、顧客と向き合う瞬間を増やすための「攻めのDX」としての位置づけであった。
特筆すべきは、そのプロジェクトの推進スピードだ。同社は2025年12月に企画を立ち上げてから、2026年3月末までのわずか4ヵ月間で、システムの開発から4店舗での実証実験(PoC)の評価までを一気に完了させた。
加藤氏は「正直なところ、当社ではなかなかないスピード感の案件でしたので、実際に完了できるかなという不安はあった」と本音を漏らすが、結果として大きな問題もなく完遂に至った。この驚異的なスピードを実現できた要因として、同社はAWSのプロトタイピングプログラムを全面的に活用したこと、そして生成AIを駆使した「AI駆動の内製開発」へシフトしたことを挙げている。IT部門が自ら手を動かし、現場と伴走しながら素早くプロトタイプをアップデートしていく開発スタイルが、プロジェクトを成功へと導く鍵となった。
現場の8割以上が高評価。スタッフの「意識変革」を生んだPoCの成果
実際の店舗で2週間にわたり実施されたPoCでは、驚くべき成果が得られた。実施後のアンケートにおいて、複数の評価項目を含めても、参加した現場スタッフの8割以上が「システムが良い」と回答した。具体的には、「曖昧な表現や感覚を具体化する質問をAIが投げてくれる」「誰もが直感的に操作できる」「事実や考察に合わせてしっかりフィードバックしてくれる」といった好意的なコメントが現場から多数寄せられた。
なかでも、当初の想定を超えた大きな収穫となったのが、スタッフの教育観点における副次的な効果だ。AIエージェントが店舗スタッフの「壁打ち相手」となり、日々の出来事を問い直すプロセスを経ることで、スタッフの間に「自分で考える習慣や改善の意識が芽生えました」という想定外の声が上がった。加藤氏もこの結果には「意外な効果」と語っている。AIによって要約されたデータをもとに、店舗内での接客対応や翌日の日常的な戦略立案が極めてスムーズに行えるようになった。
さらに、本部側の業務にも劇的な変化が現れた。これまで現場の状況を把握するために費やしていたヒアリングの時間が大幅に削減され、データ化された鮮度の高い定性情報を確認することで、次のマーケティング施策やマーチャンダイジングの選択肢をより解像度高く拾えるようになったという。
現場が直感的に使えて負担が減るだけでなく、AIとの対話そのものが現場のモチベーションや思考力を高め、結果として本部へ良質なデータが還流するという、店舗と本部のポジティブな循環が証明された。
