米国の最新トレンド「酸味」の使い分け
2026年5月にプロジェクトメンバーが実施した米国視察により、現地の食文化における大きなパラダイムシフトが確認された。米国においてサラダは、ダイエットのために我慢して食べる副菜という位置づけから脱却し、自分の好きな味で心と体を満たす「日常の主食」へと進化を遂げているという。
この進化を支える要素として、主食と野菜をボウルにまとめる「一体型サラダボウル」の定着や、サーモンなどのヘルシー食材の積極活用がある。なお、キユーピーが最も注目したギミックは「酸味」の高度な使い分けだ。
米国のトレンドでは、レモンやライムなど柑橘・ハーブ系のフレッシュな酸味である「ゼスティ(Zesty)」と、バルサミコ酢など重厚感のある奥深い酸味である「タンギィ(Tangy)」という異なる特性を持つ酸味を多彩に組み合わせている。この味覚設計が、力強い旨味を持つメイン食材に対し、途中で口の中をリセットさせる爽快感をもたらし、最後まで食べ飽きない体験を生み出している。
このインサイトを日本の消費者向けに最適化すべく、キユーピーグループでは野菜の料理家である西岡麻央氏と共同で2種類のサラダボウルを開発した。
野菜の料理家、国際中医薬膳師。Instagramフォロワー数8万人を誇り、野菜を使った簡単でカラダ想いのレシピ開発やメニュー監修、フードスタイリングや料理教室などを手掛ける。テレビ番組への出演や、メディアやイベントで幅広く活躍。著書は『薬膳の作りおきおかず』『野菜を食べる副菜 あと1品で、ゆる薬膳』など
1品目の「濃厚旨辛ポークボウル」は、スパイスの効いたフルドポークをメインに据え、バルサミコ酢で炒めたきのこマリネなどを添えることで、タンギィのコクのある酸味を活かしている。西岡氏はこの味覚設計について、「豚肉はボリュームがありますが、途中でバルサミコ酢のコクのある酸味が加わることで口の中がリセットされ、最後までおいしく食べられるボウルになっています」と解説する。2品目の「爽快サーモンボウル」は、香ばしく焼いたサーモンにセロリと柑橘のサラダなどを合わせ、ゼスティの爽やかな酸味で魚の脂をリセットする設計となっている。
重厚な主菜と機能的な酸味を1つのボウルで完結させる手法は、小売事業者の惣菜開発や中食市場において、商品単価と満足度を引き上げる有用なアプローチとなる。
幸せは4つの因子から?届けるべきサラダの価値を再考
「with ベジタブル」が目指す顧客体験は、単なる栄養摂取の効率化ではなく、心理的な充足感(ウェルビーイング)を伴う食の喜びの提供である。発表会の第2部では、武蔵野大学ウェルビーイング学部長の前野隆司教授が登壇し、「幸福学」という学術的な観点から、サラダ喫食が人間の心理に与えるポジティブな影響について解説が行われた。
慶應義塾大学理工学部機械工学科教授、慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチ センター長を経て、2024年、武蔵野大学ウェルビーイング学部長就任。慶應義塾大学名誉教授
前野教授の研究によれば、人間の幸福感は「やってみよう(自己実現と成長)」「ありがとう(つながりと感謝)」「なんとかなる(前向きと楽観)」「ありのままに(独立と自分らしさ)」という4つの因子によって構成されている。キユーピーグループが前野教授と共同で実施した「サラダボウルが働く人のウェルビーイングに与える影響」に関するアンケート調査では、サラダを食べた群のほうが、これら4つの幸福感スコアがすべて有意に高くなることが確認されたという。
前野教授はサラダが幸福因子を満たすメカニズムについて、「おいしいから食べようとワクワクするのは『やってみよう』、生産者の方や多様な食材が入っている豊かさへの感謝は『ありがとう』、酸味で元気を出してポジティブになるのは『なんとかなる』、そして様々なトッピングで自分らしく食べるのは『ありのままに』です」と説明する。また、炭水化物過多の食事に抱きがちな罪悪感に対し、サラダを選ぶ行動自体が「自分の体を大切にしている」という自己肯定感につながり、幸福感を押し上げていると分析した。
日々の食事作りを担う層のインサイトについても、西岡氏は「『子供に野菜を食べさせたいけどできていない』と罪悪感や義務感を感じている方が本当に多い」と指摘する。その上で、「この『with』という一緒に寄り添う考え方が浸透すると、そういった方々の心も軽くなるのではないか」と語った。「野菜を食べさせなければ」という抑圧的なストレスから、「おいしい、ワクワクする」という主体的な体験への転換を図ることは、ブランドに対する顧客ロイヤルティを高め、長期的なLTV(顧客生涯価値)の向上につながる本質的なマーケティング戦略といえる。
