起業家のための「完全マニュアル」
笑顔が印象的なハワイ生まれの日系アメリカ人、ガイ・カワサキは、1984年にアップルに入り、パーソナルコンピュータ「マッキントッシュ」の成功に立ち会った。一度同社を離れたのち、90年代に再びアップルフェローとして戻ってきたあと、今度は自らベンチャーキャピタル「ガレージ・テクノロジー・ベンチャーズ」を立ち上げ、CEOとなった。最近はブロガーとしても注目され、ベンチャーキャピタリストの人気ブログランキングでもぶっちぎりで1位になっている。
この全米屈指のベンチャーキャピタリストが、ポジショニングから、売り込み、事業計画作成、人材採用、資金調達、ブランド構築など、起業についての11の奥義をまとめたのが本書『完全網羅起業成功マニュアル(THE ART OF THE START)』だ。
タフなシリコンバレーの世界で、数え切れないほどの事業計画のプレゼンを受けてきた彼が語る奥義は抽象的な理論ではない。起業家がやるべきことは、新たな事業の意義が見えたら、誰にでもわかる簡潔な標語を決めて走り出すこと。ただし、ガイ・カワサキは、転んだり、すべったりしないように、かけひきの仕方や細かな実務のポイントを漏れなくリストアップしてくれる。売り込みのときの「10/20/30ルール」(10枚のスライド、20分、30ポイントのフォント)、事業計画書は20ページ以内、ホチキスで綴じる、財務予測は2ページ以内にする…といった具合だ。
章の末尾には「どうすれば印象的な売り込みができるか」「各ランク(ティア1、2、3)のベンチャーキャピタリストから期待される内部収益率(IRR)はどの程度か」といった幅広い質問に答えるFAQが用意され、鋭い回答にははっとさせられる。また、さりげなく織り込まれた、彼の友人や同僚の言葉も示唆に富んでいる。
我々はジョブズじゃない、でもあきらめる必要はない
ガイ・カワサキには、彼がかかわった「最高のシナリオ」、アップルのマッキントッシュ部門の記憶がある。この社内起業の成功を彼は2語で説明できるという。すなわち、「スティーブ・ ジョブズ」と。
――彼の途方もないデザインセンス、狂気じみた細部へのこだわり、現実歪曲がお手のもののパーソナリティ(と、共同創業者のステータス)がマッ キントッシュを成功させた。スティーブ・ジョブズがいなければ、マッキントッシュは存在していないだろう。あるいは、ごみ箱付きのアップルⅡみたいな体裁 になっていただろう。――
誰もがその場に居合わせたいと思う、マッキントッシュ誕生と成功の軌跡。その輝きがガイ・カワサキ自身をも輝かせてきた。しかし、スティーブ・ジョブズのような人物がどこにでもいるわけではない。ましてや自分は…という読者の心配も彼は十分に承知している。
彼は言う。「起業家というのは肩書きではない、それは未来を変えたいと思う人たちの“心のありよう”だ」と。
もし、あなたがそうであるなら、一度はこの優れたマニュアルに目を通すべきだろう。自らの事業を成功に導くまでのフェーズの中で、確実にやるべきこと、やってはいけないこと、失敗したときの考え方。簡潔な言葉の向こうに、ガイ・カワサキが出会った人々や彼が立ち会った起業家たちのプレゼンの現場が透けて見えるはずだ。
『完全網羅 起業成功マニュアル』(ISBN978-4-903212-12-8) 海と月社
ガイ・カワサキ 著、三木俊哉 訳
定価:本体1800円(税別)
本書はAmazon でご購入いただけます。