小売現場で培った「お客様の体験価値向上」の視点
セッションの冒頭、逸見氏は自らのキャリアを紹介しつつ、世の中の変化と小売業に求められる変化について説明した。
逸見氏は大学卒業後に三省堂書店に入社。以降、ソフトバンク イーエスブックス(現、セブンネットショッピング)の設立やAmazon ジャパンのBooksMDを担当。その後もイオンのデジタルビジネス戦略担当、カメラのキタムラ 執行役員EC事業部長、ローソンマーケティング本部長補佐などを経て2017年オムニチャネルコンサルタントとして独立した。現職のCaTラボではB2C、B2B事業のコンサルティング全般を手掛けている。
「私自身、マーケティングやデジタルを専門で学んだわけではありません。長年、小売現場にいた経験上、生活者であるお客様の体験価値を向上させていくかの視点で考え、自身の経験を活かして人材育成や小売のオムニチャネル化に携わっていきたいと考えています」(逸見氏)
変化するECの役割と停滞
小売・流通におけるECの役割は変化し続けている。1990年代末から店舗売上の成長は鈍化し、カタログ通販、TVショッピング、ネットECが伸びてきた。さらに近年は、CtoCアプリが急速に普及している。逸見氏によると、日本の小売業におけるEC化率は、2013年は3.85%だったが、2021年には8.78%となる約13兆円に成長した。一方、そこから算出する小売市場全体の規模は151兆円前後であり、過去10年間成長していないという。
こうした状況について逸見氏は、「小売のEC化は進んでいますが、全体で見れば9割は既存ビジネスで売上が作られています」と指摘。今後もECには伸びしろがあることを念頭に、「コロナ禍で顧客の購買行動は変化しています。リテールサイドの人たちはこの現実を理解し、変化する現状に対応する施策をビジネスに組み込めるかが課題です」と見解を示した。
リテールが変わるべき3項目
逸見氏はリテールがウィズコロナ・アフターコロナで変わるべき事柄として、「顧客と企業の接点増加によって両者が以前よりも親密になる」「デジタルにより地域の結びつきが強固になる」「LTV(Life Time Value)が評価になる」の3項目を挙げる。
コロナ禍で在宅勤務の機会は増加し、消費者は自分の生活の場に近い情報を検索し、実店舗を使うようになった。一方、外出を控えて生鮮食料品などをECで購入する層も増加している。
逸見氏は「企業は売上一辺倒の評価基準ではなく、お客様のリピート率やエンゲージメント、SNSによるつながりといった指標軸も、評価として捉えるようになっています。今後は社会的な評価など、評価軸が大きく変化することを念頭に、対面とEC双方のよさを掛け合わせて顧客に利用してもらう必要があります」と指摘した。