ヒトは色に影響されるのか?
読者の皆さんは、色がどれほどヒトに影響を与えると思うだろうか?
極端な話を挙げれば『スポーツでは赤い色のユニフォームを着た方が強く見え判定に有利』であるとか『食欲を減退させる青色のめがねをかけて行うダイエット』など、色がヒトに与えるその手の話は枚挙にいとまがない。それほど「色」は、人に多大な影響を与えるモノなのだ。皆さんの周囲に当たり前なモノとして存在する色とは、好むとも好まざるとも、確実に皆さんの体や精神に影響を与えているのである。もっとも影響が分かりやすい例を次に提示させていただこう
私たちは体で色を感じている
さて、皆さんは『トーナス変化』という言葉をご存じだろうか?
これは1910年にシュタインが実証したもので、筋肉に光線を当てると筋肉が緊張・弛緩するといったものだ。面白い事に、筋肉の緊張度合いは光線の色によって変化するのだ。色に影響されていない状況下での筋肉の状態を23と数値化した場合、青の光線を当てると24に変化し、緑は28と変化する。そして赤い光線を当てた場合には42と通常の2倍に至ろうかというほどの身体的影響を引き起こすのである。
しかし、この光線の色に対する効果は視覚からの影響を受けない。つまり感情や経験に左右されず、直接的に我々に影響を与えるのである。多くの人が、色というものは目で見て感じているだけのように思っていたかもしれないが、実は視覚だけではなく、我々は体でも色を感じているのだ。
この筋肉弛緩度はライト・トーナス値によって表される。日本人にとって非常に興味深いデータとして、ベージュのライト・トーナス値は23と緊張に対して影響力が極めて薄い色であるが、「和室は落ち着く」という話をよく耳にするのもうなずけるデータではないだろうか。
なぜ、引越し業者が使用するダンボールは白が多いのか?
もちろん、色がヒトに与える影響はトーナス変化のような直接的影響ばかりではなく、我々の持つイメージを介して変化をもたらすこともある。色による重さの実験をご紹介しよう。
- 100グラムの同型の箱を8個用意する
- それぞれの箱に個別の色をつけた(白・黒・紫・黄色・黄緑・赤・灰色・水色)
- 白箱を持った後、白箱に比べてどちらが「重いか軽いか」を提示してもらう。
白<黄色<黄緑<水色<灰色<赤<紫<黒
白が一番軽く感じ、黒が一番重たいという結果になった。水色や灰色の明度がどの程度だったかにもよるのだが、概ね明度が下がるにつれ、重いといった印象を与えている。黄色い箱は白い箱に比べて1.13倍重く感じ、最も重く感じた黒は1.87倍重く感じたという。余談ではあるが、色彩学の権威であるFaber Birren(フェイバー・ビレン) は、工場作業で使用する箱を黒から白に変更する事によって作業効率が上がったとも宣言している。
現在、我々の生活でもこの応用を見かける機会はある。引っ越しや配送業者が使用する白い箱を、皆さんもよく目にするのではないだろうか。作業効率が上がるばかりでなく、疲労感も軽減されたという報告もある。
このように、色はその色の持つイメージにおいても我々に多大な影響を与えているのである。