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「事業規模の大小問わず、ブランディングは持続的な成長を生む武器」ブランド戦略の達人山口氏が伝授

 3月12日に実施された「SHANON BtoB Marketing Conference」の基調講演「つながるマーケティング」の後半は、インサイトフォース 代表取締役 山口義宏氏が登壇。ブランド・マーケティングに特化して、これまで100社超のコンサルティングを手がけてきた山口氏は「デジタル時代の基礎知識 ブランディング」と題してブランドの定義からブランド戦略、ブランドとセールスについて語った。その内容を紹介する。

あらためて確認しておきたい、そもそも「ブランド」とは?

インサイトフォース 代表取締役 山口義宏氏
インサイトフォース 代表取締役 山口義宏氏

 2018年3月に著書『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(MarkeZine BOOKS/翔泳社刊)を出版している山口氏の講演は、参加者への問いかけから始まった。

 「マーケティングの分野ではよくブランディングが重要と言われますが、ではそもそも『ブランド』とはなんでしょうか? ロゴマークでしょうか? 商標ネームでしょうか? 商品? 広告?

 ブランディングについてお話しするにあたって『ブランド』の定義を明確にしておきたいと思います。ひとことで言えばブランドとは、頭の中で『記号』と『価値』が結びついた集合体を指します。

 文字や音声、形や色、においなど人間が五感で認識するブランドの『識別記号』と、特定の商品やサービスに対して具体的に浮かぶイメージの『知覚価値』の2つが構成要素になります」(山口氏)

 山口氏が一例として挙げたのが「コカ・コーラ」や「スターバックス」。コカ・コーラという商品名やロゴマークを見るだけで、さわやかな味で気分転換できるといったイメージが思い浮かぶ。

 またスターバックスと聞けば、グリーンのイメージカラーとリラックスできる店内のシアトル系カフェという“知覚”が呼び起こされるように「識別記号」と「知覚価値」とが相互に想起されるものが、ブランド力の高い企業であり商品・サービスと山口氏は結論づけた。

 「『クリネックス』のようにブランド名が、あるカテゴリの代名詞のように使われたり、『ググる』(グーグル)のような動詞として使われるレベルになると指名買いされるような『寡占』の状態にあると言えます」(山口氏)

 次いで山口氏は、高いブランド力を獲得するには「体験の魅力度」×「体験の時間(量・頻度)」×「体験の一貫性」の3つの要素の“かけ算”で高まると語り、多くの企業にとって意識が定着していない「体験の一貫性」の大切さについて言及した。

講演資料より抜粋、以下同
講演資料より掲載、以下同

「顧客接点」と「時系列」に“一貫性”をもたせる

 自社、商品、サービスに関わらずブランド力を高めるヒントとして山口氏が強調したキーワードが「一貫性」だ。消費者/ユーザーからみたブランド体験を、次の2つの視点から一貫性をもたせることが重要という。

  • 「顧客接点」の一貫性
  • 「時系列」の一貫性

 「『顧客接点の一貫性』には大きくわけて、企業が直接コントロールできるものとできないものがあります。商品やサービスそのもの、広告・宣伝・キャンペーン、販売店やそこでの接客やスタッフ、自社のウェブサイトなどはコントロール可能ですが、企業内で意思統一ができていなく、意外に各接点で個別最適を目指してバラバラな印象になりがち。

 消費者/ユーザーの口コミやメディアでの紹介のされ方などは、もちろんコントロールできないですが、せめて自社でマネージできる顧客接点は、同じデザイン~カラースキームやキービジュアルを適用し、同じ印象となるような訴求メッセージを展開するなど、一貫性に注意をはらうことがあります。

 スターバックスを例に挙げてみると、どの地域のお店に入っても、「こんにちは」とフレンドリーな接客をされ、同じクオリティのコーヒーが出てきて、表現やレイアウトの多少に違いはあるが、一貫したテイストでリラックスできる内装空間がある。これは日本にスターバックスが上陸してから20年以上変わりません。

 一方で、消費者ニーズ変化に適応して、「スターバックス リザーブ(R) ロースタリー 東京」のような、新しいコンセプトや商品を導入した変化も同時に進めています。つねに同じアプローチで、つねに同じ顧客体験をもたらす顧客接点の一貫性を保ちつつ、自社のポジションを脅かすような大きな市場ニーズの変化にも適応するという、相反する2つを両立させています。魅力ある体験の一貫性と、市場ニーズへの変化対応の絶妙なバランスの両立こそが、高いブランド力を築く鍵です」(山口氏)  

 ここで山口氏が注意を促したのが「ブランドに関する3つの誤解」を払拭することだ。「ブランド=高級品、ブランドを作るにはテレビCMが必須、BtoBビジネスにはブランドは関係ない、という3つの誤解あるいは思い込みは捨ててください。

 なぜなら、高級ではない商品もブランドとして認知されれば競争力を高めますし、スターバックスのようにテレビCMを一切やっていなくてもブランド力をもつ場合もあります。BtoBは高額な単価の取引が増えるからこそ、商品・サービスの信用をブランドで担保するという側面があります。

 極論を言えば、成熟して商品・サービスの差が縮まった多くの市場では、ブランド力がなければ、価格の安さで勝負するしかありません。つまり、業種を問わず高いブランド力を築くことは利益をともなった事業成長の基盤になるのです」(山口氏)

 図式で紹介されたその構造は、強い(高い)ブランドを築くことで「競合に埋もれずに選ばれる」「有利な取引条件(価格)」「取引のリピート率向上」に結びつき、利益を生むとともに企業を成長させていく確かな基盤になるというものだ。

 あわせて山口氏は、このサイクルが確立されれば対顧客だけでなく、従業員や株主など企業にとって重要なステークホルダーに対しても同じ効果が期待できると話した。

ブランドの「知覚価値」を構成する“生活者主語”と“ブランド主語”

 ブランドの定義と重要性について語った山口氏が、次に挙げたテーマが「ブランド戦略」の定義と成功のためのヒントだ。ブランドを構成する要素の1つ「知覚価値」のとらえ方が重要なのだという。

 「マーケティングには『商品・サービス』『プロモーション』『販路』『価格』のいわゆる“4P施策”があります。具体的なマーケティング施策に一貫性をもたせるのに欠かせないのが、先ほど紹介したブランドの『識別記号』と『知覚価値』を踏まえたブランド戦略です。

 商品やサービスを提供する側の企業は、えてして優れた商品・サービスにこそ“価値”があると考えがちです。ところが顧客側は『知覚認識』で商品やサービスを選びます。つまり商品・サービスではなくて、“知覚”にこそ価値があるわけです。優れた商品・サービスは、知覚をつくるための事実・エビデンスの一つです。この違いを認識することが大切です」(山口氏)

 ここで山口氏は「ブランド知覚価値」の構造を図式で説明。「生活者主語の知覚価値」と「ブランド主語の知覚価値」とに分け、生活者主語の知覚価値として象徴的な顧客像や本音などブランドターゲットやインサイトによって構成されていると説く。

 一方、ブランド主語の知覚価値を構成するのは核となる価値(コアバリュー)、人格としての印象(パーソナリティ)、物理的・心理的な便利さやメリット(ベネフィット)、裏づけになる論拠・事実・スペック(エビデンス)などだという。

 「構成する要素が多いので、『ダイソン』を例に挙げるとダイソンの掃除機は理知的でハイテク製品好きというブランドターゲットがあり、高い吸引力の掃除機が欲しいというインサイト、生活者主語の知覚価値を満たしています。

 さらに吸引力が下がらないというコアバリューや先進的・合理的なプロフェッショナルというパーソナリティのほか、十分なベネフィットやエビデンスも備えています」(山口氏)

「ターゲット顧客設定」は、ブランド戦略の一貫性を保つ生命線

 山口氏が重視する一貫性のあるブランド戦略と、ブランド施策に欠かせないのが「ターゲット顧客」の設定だ。

 「ターゲット顧客の設定にあたって、これもよく誤解されがちなのが顧客を絞りこむことで減らしてしまうことです。理想的なブランド戦略は、一貫性を保つとともにブランドの思想や世界観でユーザー像そのものを魅力的に見せることも必要だからです。

 理想的なユーザー像を創出することで、企業とユーザーとがともにブランドを創出していくのが『ブランドターゲット』、ブランドターゲット像へのあこがれ、機能や性能、価格など多彩な切り口で購入へといたるターゲット顧客を『セールスターゲット』と位置づけます。セールスターゲットは市場シェアが高いブランドほど、購買理由の切り口の多彩さに応じて、複数の層を設定します」(山口氏)

 ブランドターゲットとセールスターゲットとに分けた、具体的なマーケティング施策として次の2つが紹介された。

  1. リーチの広い企業主体の媒体は、ブランドターゲットを厳格に適用……テレビCMや企業・メーカーの公式ウェブサイト、企業・メーカー作成のカタログなどがこれにあたる
  2. リーチがせまく個別対応が可能な媒体は、セールスターゲットの適用も……セールスマンが作成する提案書、地域・エリアの事業所・営業所ごとのカタログ、ユーザー主導のウェブメディアなどがこれにあたる

 この施策の具体例として紹介があったのが、生活者主語の知覚価値を構成する「インサイト」に訴えかけるチャンス喚起とリスク喚起のアプローチだ。

 「この商品・サービスを使えばいいことがある、楽しいことがあると思わせる『チャンス喚起』、逆にこの商品やサービスを使わずに放置すると自分の生活の課題が解消できないかもと思わせる『リスク喚起』は、生活者主語の『インサイト』に訴えかける典型的なアプローチの1つです」(山口氏)

 ブランド戦略の策定にあたって、山口氏が注意点として指摘するのが典型的な“失敗例”だ。

 「最初に紹介した『識別記号』と施策の両方に一貫性があるかどうかが重要なチェックポイントです。ブランドのロゴばかりを整えても施策との一貫性がなければ、ユーザーの知覚に価値として蓄積されませんし、せっかくいい施策に取り組んでいてもロゴマークやカラー、キャラクターなどの識別記号との一貫性がないとこれまた同じブランドとして認識されません。よくある失敗例なので注意していただきたいですね」(山口氏)

目的は同じ 時間軸とアプローチが異なるブランディングとセールス

 山口氏の基調講演で最後に語られたのが「ブランドとセールスの関係性」だ。売上をつくり、売上アップをめざすという目的は同じだが時間軸とアプローチが異なる点がポイントと山口氏は言う。

 「セールス施策は、月次や期次など決められた期間中にユーザーに購入していただくという制約がありますから当然、アプローチも違ってきます。ブランド施策が中・長期的な視野で、ときには間接的かつ長期的な効果をねらうのに対して、セールス施策の場合は期間限定や数量限定、特典や割引など緊急性や優先性を強調するアプローチが求められます」(山口氏)

 ここで紹介されたのがユニクロのアプローチだ。テレビCMでは魅力的なタレントやモデルを使ったイメージ優先のアプローチでブランド知覚価値を形成することに特化しているのに対して、新聞の折り込みチラシやECサイトへの誘導メールでは、期間や数量限定のセール品が大きなサイズの金額表記と共に表示されている。

 「とても同じ企業、同じブランドとは思えないほどアプローチが異なります。それでもブランドとしての地位を確立している点に注目していただきたいと思います。つまり、ブランディングで一貫性を保った施策が実現できていれば、セールスで多少は販売促進のために煽る要素があっても、ブランドを毀損しないケースの1つです」(山口氏)

 ブランド施策とセールス施策との決定的な違いもここにある。ブランディング、ブランド戦略の目的は、ターゲット顧客へ知覚価値を浸透させコンバージョンを高めること。さらにコンバージョンとLTV(顧客生涯価値)をともに高めていく施策こそが、企業とビジネスとを成長させていくカギになるという。

コンバージョンとLTVを高めるブランディングが持続的成長を生み出す

 基調講演の締めくくりとして山口氏は、一貫性のあるブランド施策でコンバージョンとLTVを高めることが、企業とビジネスの持続的成長につながるポジティブなスパイラルが生み出せると語った。

 「ここまで話した内容を踏まえて、企業の商品・サービスとブランド施策とユーザーが知覚していることとの間には少なからずギャップがあることを理解していただけたと思います。

 このギャップを埋めて、ユーザーから選ばれるブランドとしての価値を高めるためには正しく伝えるのではなくて、わかりやすく伝えていく施策が必要というのが大きなポイントです。

 先ほども触れたようにマス媒体を使ったテレビCMなどだけが効果的なのではなく、事業に適した規模で一貫性のあるブランド施策を手がけることで顧客を獲得するコスト=CPAの低減とLTVのアップが実現できます。このことが売上・収益のアップをもたらして、さらなる成長への再投資というスパイラルを生み出すことにつながります。

 このポジティブスパイラルを実現するためには、設定したKPIを見える化=視覚化してつねに確認できるようにしておくことも大切です。よく売上や収益が“踊り場”で成長への突破口が見えないという課題を聞きます。

 その原因の1つが、セールス施策とブランド施策のバランスです。セールス施策ばかりに注力していると効率が下がりますし、ブランド施策ばかりでは特定の顧客層ばかりにとどまってしまいます。

 両方に力を入れていても、連携不足ではROIの低下を招きかねません。ここで思い出していただきたいのが、先に紹介したブランド力は3つの要素の“かけ算”で高まるという考え方です。実は企業とビジネスの成長を左右する要素も“かけ算”です」(山口氏)

 最後に山口氏は次のような言葉で基調講演のまとめとした。

 「企業とビジネス成長の要素で重要なのは、それぞれの要素が“かけ算”で効いてくるということです。つまり、どれか1つでも極端に弱いと成長のためのパフォーマンスが落ちてしまいます。ブランド力を高めることは事業規模の大小、BtoC・BtoB関わらず有効です。ブランド戦略とセールス戦略の策定と一貫性を意識することは、どの企業にとっても今すぐ実行可能な施策の1つです。ぜひ、試していただきたいと思います」

デジタル時代の基礎知識『ブランディング』

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デジタル時代の基礎知識『ブランディング』
「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール

著者:山口義宏
発売日:2018年3月15日(木)
価格:1,598円(税込)

本書のポイント

●「ブランドとは何か?」からやさしく解説
●どんな会社のマーケティング担当者でも役立つ内容
●ブランド戦略におけるPDCAの実務もバッチリ
●デジタル活用を踏まえた最新のブランド戦略がわかる
●新時代のキーワードである「顧客体験」をカバー

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この記事の著者

浦野 孝嗣(ウラノ コウジ)

 2002年からフリーランス。得意分野は経済全般のほかIT、金融、企業の経営戦略、CSRなど。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/04/09 11:00 https://markezine.jp/article/detail/30658