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富士通が実践するBtoB事業成長に効くコンテンツマーケティング イントラサイト刷新で営業機動力を強化

 「豊富なマーケティングコンテンツがあるのに、顧客に伝わらない。そもそも自社の営業担当にもコンテンツの存在自体が知られていない」。こんな悩みを抱えていたのは、ICTサービスやシステムイングレーションなど幅広いICTソリューションを提供する富士通だ。動的CMSの「Sitecore Experience Platform(以下、Sitecore)」導入によってWebサイトをデジタルマーケティング基盤へと再構築し、自社の営業機動力を強化させた同社の事例に迫る。

なぜBtoB企業はコンテンツマーケティングに注力すべきか

 ここ数年、BtoB分野のマーケティング手法として、Webサイトをチャネルとしたコンテンツマーケティングが改めて注目されている。その成功例の一つが、Sitecoreを活用して営業機動力を強化させた富士通だ。

 同社シニアエバンジェリストの西本伸一氏はコンテンツマーケティングによるセールスイネーブルメント(営業プロセス改善)が重要になっている背景として次の2点を挙げる。

富士通 グローバルマーケティング本部 エバンジェリスト推進室 シニアエバンジェリスト 西本伸一氏
富士通 グローバルマーケティング本部 エバンジェリスト推進室 シニアエバンジェリスト 西本伸一氏

 「一つは、少子高齢化によって働き手が減少するなか、かつてのような人海戦術の営業だけに頼れなくなってきたためです。今の時代、BtoBにおいてもまずインターネットで検索する所から入ります。まだニーズが確定していない情報収集段階の方に対しては、人の代わりにデジタルツールで補完していくというやり方が主流になってきました。デジタルのアプローチに対しては、デジタルでフォローする、という考え方です。

 もう一つは、働き手の変化です。働き方改革、子育てや介護など様々な事情によって多様な働き方が増えるなか、効率性がより重要になっています。そこでデジタルを活用するという考え方が増えてきました」(西本氏)

 富士通の成功要因はどこにあるのか。同社ではWebサイトをマーケティング基盤にするために(1)顧客理解、(2)マッチング、(3)最適化という3つのポイントを大切にしているという。

 言い換えると、ユーザーがどんなニーズでWebサイトを訪問し、どんな情報を探しているかを掘り下げる「顧客理解」を元に、ふさわしいコンテンツを個々の顧客に向けて提示する「マッチング」を行い、そのコンテンツがきちんと閲覧されているかを分析して「最適化」するサイクルを回すことを重視しているのだ。

 3つのポイントについて、デジタルマーケティングビジネス部の平野早紀氏は「Webサイトを、情報を一方的・画一的に表示する『掲示板』ではなく『デジタルマーケティング基盤』へと昇華させるために必須のプロセス」だと説明する。

 では富士通はどのようにして自社サイトを再構築し、営業機動力を強化したのだろうか。

富士通 次世代営業本部 働き方改革&顧客接点ビジネス統括部 デジタルマーケティングビジネス部 平野早紀氏
富士通 次世代営業本部 働き方改革&顧客接点ビジネス統括部 デジタルマーケティングビジネス部 平野早紀氏

イントラサイト刷新で営業機動力を強化した富士通

 動的CMSを活用すれば、HTMLの知識がなくてもコンテンツを編集できるのはもちろんのこと、顧客ニーズに基づいて情報を適切に出し分けることが可能だ。会員情報、アクセス元のIPアドレスや過去の閲覧履歴を元に顧客像を割り出し、コンテンツを出し分けることが基本的なフレームワークとなる。

 富士通はこのフレームワークのもと、社内営業/システムエンジニア(SE)向け社内イントラサイトと、パートナーディーラー向けのBtoB会員制サイトを変革した。

 Sitecoreの導入によってコンテンツ作成にかかる工数は8割削減し、クライアントに提案するために有用なコンテンツにアクセスしやすくなったことで、営業プロセスが大幅に効率化した。

 「富士通の商材はハードからソフト、セキュリティやAI関連のサービスなど多岐にわたり、情報のアップデートも頻繁にあります。そのため顧客提案用の拡販・技術コンテンツが膨大になります。かつ、Webサイトは商材ごとに乱立していたので、社員もパートナーディーラーも必要な情報を探し当てるのに四苦八苦していました。そのうえコンテンツの見た目や編集方針もバラバラで、サービス名や資料名も不統一でした。

 コンテンツへのアクセシビリティを改善することで、営業提案の質を高め機動力を強化できると考えました」と、デジタルマーケティング部 エキスパートの中村修氏は説明する。

富士通 次世代営業本部 働き方改革&顧客接点ビジネス統括部 デジタルマーケティングビジネス部 エキスパート 中村修氏
富士通 次世代営業本部 働き方改革&顧客接点ビジネス統括部 デジタルマーケティングビジネス部 エキスパート 中村修氏

 だが、膨大なコンテンツを動的CMSで出し分けるといっても、ツールを導入すれば万事解決するほど甘くはない。富士通の成功を決定づけた要因はどこにあったのだろうか。

CMS導入を成功に導いた「コンテンツガイドライン」

 変革にあたって富士通が意識したのは、「常に利用者起点で」という合言葉だ。コンテンツを作成する事業部門側の視点ではなく、サイトを利用する営業・SEやパートナーディーラーの視点に立って全体設計を行い、個々のコンテンツが利用者にとって使いやすいものとなるよう工夫を行った。

 成功の最大の要因は、コンテンツガイドラインを策定したことにあったという。複数の部門が制作するコンテンツの標準化を進めることで、必要なコンテンツをモレなくダブりなく準備し、利用者が容易にアクセスできるようにした。

 コンテンツの標準化にあたっては、以下の項目を具体的に定めたという。

  1. コンテンツの定義
  2. 資材や資料の命名規約
  3. 各ファイルの表紙への情報記載
  4. プロパティの定義内容
  5. 秘密情報や著作権表示などの留意事項
  6. 用語、外来語、用字の使い方

 「1. コンテンツの定義」では、コンテンツを富士通の商談プロセスに従って、「企画フェーズ」「選定フェーズ」「導入フェーズ」「運用フェーズ」などに分類した。

 たとえば、営業が社内の拡販情報を収集する段階の「企画フェーズ」向けには、ホワイトペーパーやカタログ、導入事例を提供する。商談が進み提案商材を絞り込む「選定フェーズ」の営業には、競合他社比較表やデモ、システム構成図を利用してもらう、といった具合だ。

 「こうして商談プロセスに沿ってコンテンツを整備することで、利用者は情報を探しやすくなりますし、動的CMSの機能を用いた『営業プロセスに応じたパーソナライズ』によって有益なコンテンツをタイムリーに発見できるようになります。コンテンツ制作者としても、準備するCMSのテンプレート数を絞り込めます」と中村氏は語る。

 ガイドラインの整備によって、ユーザーが求めている資材や内容にアクセスしやすくなるとともに、コンテンツ制作者の負担も軽減された。資料名や目次の書き方を揃え、用語の不揃い・バラツキをなくし、資材ごとの記載内容を明確化したことで、制作プロセスに迷いがなくなり、資材作成を効率的に行えるようになったからだ。

 次のページでは、中村氏が言及したパーソナライズが具体的にどのように実践されているかを見ていこう。

ログインIDに基づくコンテンツ出し分け

 社内営業・SE向けイントラネット、パートナーディーラー向けの会員制情報サイトはいずれもIDでシステムにログインする仕組みになっている。このログインIDがパーソナライズの核となる。

 社員IDの場合は富士通社内の人事データベースと連携しているため、利用者が「どの業界を担当し、どんな職種なのか」をシステム側で自動判別し、金融業界の担当営業なら金融業界向けソリューションの情報や最新業界ニュースなどをトップページに表示できる。

 パートナーディーラーの場合は、ログインIDから扱っている商材がハードウェアか、それともソフトウェアなのかを判別し、ディーラーごとに適切な商材の拡販情報をトップページに表示する。

 なお、こうした属性ベースのコンテンツ出し分けは富士通独自のAI技術を活用することでさらなる精緻化を模索しているという。

 またトップページには、コンテンツの閲覧履歴を元に「この情報を見た人は、こんなコンテンツも読んでいます」というレコメンド機能も加えている。

 「レコメンドは、ECサイトには当たり前のようにある機能ですが、これを追加することで、これまで気づかなかった休眠コンテンツが掘り起こされるようになりました。一般にWebサイトは、クリックするごとに離脱率が高くなるといわれており、深い階層にあるコンテンツは閲覧されなくなりがちなので、BtoBサイトでのレコメンドは非常に有効です」(西本氏)

コーポレートサイト改善の好事例

 富士通ではコンテンツガイドラインやプロジェクト推進体制などといった自ら蓄積したノウハウを元に、外部企業に対して戦略立案からデリバリーまでをカバーしたSitecore導入支援を手掛けている。

 平野氏によると、イントラネットや自社パートナー向けWebサイトではない普通のコーポレートサイトでも、「顧客理解」「マッチング」「最適化」はWebサイトをデジタルマーケティング基盤に変革したい企業の基本になるという。

 BtoB向け不動産事業を展開するとある海外法人のコーポレートサイト改革事例を見てみよう。

 このコーポレートサイトには、投資家やビジネスパートナーなど世界中から様々な利用者がアクセスしていたが、いずれも匿名状態で、属性などパーソナルな情報を取得できていない状態だった。

 そこでWebサイト訪問者を、訪問目的に沿って「ビジネスパートナー」「転職希望者」「不動産投資家」など5つに分類し、コンテンツの閲覧履歴を元にセグメント化して、それぞれの目的に応じたコンテンツを自動で出し分けた。たとえば「不動産投資家」と思われる訪問者に対しては、「お問い合わせページ」の項目で「投資に関するお問い合わせ」を表示する、といった具合だ。

 「Webサイト全体を変えなくても、トップページから第二階層まででコンテンツのマッチングを行えば、インパクトのある成果が得られます。Webサイトである程度ニーズが熟成するまでカバーできるので、少ない人手でも営業効率が上がり、売上向上につながります」(西本氏)

 富士通では今後MAやSFAのSitecore連携のほか、AI活用によるパーソナライズの高度化、機械学習による運用の負荷削減といった連携ソリューションを提案し、クライアントのWebサイトを起点としたマーケティング力向上に全力を注いでいくという。

 同社の実践は、イントラサイトやコーポレートサイトがBtoBビジネスを根本から立て直す、重要なデジタルマーケティング基盤だということに気づかされる貴重な事例だといえるのではないだろうか。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/02/28 11:00 https://markezine.jp/article/detail/32664