SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第100号(2024年4月号)
特集「24社に聞く、経営構想におけるマーケティング」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

MarkeZine Day 2020 Spring(AD)

AIで人のモチベーションは上がらない 「人とAIの共存」でビジネスを加速させるヒント

 法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を提供するSansan社は、MAツール「Marketo」と機械学習自動化プラットフォームの「DataRobot」、データ統合ソリューションの「Sansan Data Hub」を連携させることで、これまで不可能だった多角的なリードスコアリングを実現した。しかし、これらをシステム的に連携しただけですべてを実現できたわけではなかったという。2020年3月10日に行われた「MarkeZine Day 2020 Spring」には、Sansan事業部でマーケティングデータの統合・分析・可視化に従事する新名庸生氏が登壇。データ間の見えない関連性を捉えるAIを運用に載せ、目に見える形でビジネスインパクトにつなげるために同社が行ったプロセスが語られた。

世界初となった、MarketoとDataRobotの連携

 Sansan社が提供する「Sansan」は、これまで個人が個別に所持、管理していた名刺をデータ化し、企業内での共有を可能にするクラウド名刺管理サービスだ。業種業態問わず様々な企業で導入が進み、現在Sansanの利用企業数は6,000件を超え、クラウド名刺管理サービス市場シェアはおよそ83%にも上る。主に営業、マーケティング部門の生産性向上をサービスの強みとして掲げており、その一環として、Sansan内で管理されている名刺データを最大限に活用するための外部システム連携に注力しているという。

 Sansan事業部でマーケティングデータの統合・分析・可視化に従事する新名庸生氏によるセッションでは、MAツール「Marketo」と機械学習自動化プラットフォーム「DataRobot」、そしてSansanとの連携とその裏側について語られた。

Sansan株式会社 Sansan事業部 マーケティング部 戦略企画グループ データアナリスト 新名庸生氏
Sansan株式会社 Sansan事業部 マーケティング部 戦略企画グループ データアナリスト 新名庸生氏

 はじめに新名氏は、世界初の事例となった、MAツール「Marketo」と機械学習自動化プラットフォーム「DataRobot」の連携が実現した過程について説明する。

 「弊社のマーケティングシステムではMarketoとSalesforceを2015年から使っており、常時同期されている状態です。 フォームや名刺、リスト経由で獲得したリードの見込み顧客情報が入ってくると、まず一括してMarketoに投入されます。インサイドセールスや営業の担当者は、Salesforceを通してリードの情報を確認し、アポイントの架電から営業活動へとつなげていきます」(新名氏)

 しかし、リードの量が増えてきたことで、「どのリードから架電すればよいのか、その優先順位がわからなくなる」という問題がインサイドセールスで起こり始めた。Marketoには「スコアリング」という概念があり、リードの情報や特定の行動によって点数が加算、減算される機能が実装されている。

 「Sansanではこのスコアリングが100点を超えた場合に架電を行うというルールを設けていましたが、まったく異なる施策やチャネル経由で集められたリードを一律の基準で判断してよいのだろうかと疑問がでてきました。また、メール開封率やサイトへの滞在時間など、別の指標は考慮しなくてよいのかという別の疑問もありました。

 Marketoで捉えられるリードの属性は無数にありますから、スコアリングの基準はトレンドや事業の状態に合わせてアップデートさせていくことにしました。しかしそれを人で対応するのは無理だと判断し、DateRobotで予測モデルを作成していくことにしたのです」(新名氏)

AI予測モデルでアポ獲得効率を約2倍に改善

 過去の架電結果からDataRobotで予測モデルを作成し、リードの属性・アクション全体からスコアを自動で算出しようとしたところ、別の課題が出てきた。DataRobotで高精度な予測モデルを作成しようとしても、正確な情報が十分に集まっていないと意味がなかったのだ。

 そこでSansan社が提供しているデータ統合ソリューション「Sansan Data Hub」が紹介された。顧客データを統合するものであり、新名氏によれば、機能は大きく3つあるという。

正規化……Sansan独自の正規化ノウハウにより表記の揺れをなくし、より正確な顧客データ管理を実現。

データ統合……名刺管理ビジネスで培ったノウハウ・ナレッジ・オペレーションを活用し、異なるシステム間の顧客データを半自動的に統合。

リッチ化……登記情報、法人番号、帝国データバンクの情報を付与し会社情報をリッチにするだけでなく、役職ランクや部署分類など人に関する属性も付与し、情報の価値を向上。

 「過去にどのような接触をしてきたのか、メールは何回開いたのかといったすべての情報を架電の結果とセットでDataRobotに投入して予測モデルを作成し、どの項目が一番予測に効いているかを特定しました。DataRobotの場合は、どれか1つの変数でスコアを作るのではなく、すべてを加味した上でアポ獲得率をはじき出してくれます。ROC曲線で予測モデルの精度を確認しても、十分精度が高く、実用できると判断しました。

 これをMarketoに連携するためには、煩雑なプログラミングが必要になるんじゃないかと思われるかもしれませんが、それは一切ありません。MarketoとはWebhookによって連携するため、実装が非常にやりやすいのです」(新名氏)

 MarketoのスコアリングをDataRobotによる予測モデルに置き換えた結果が、下記の図である。

 「実際にアポが取れた人たちと重なってる範囲が、『従来のスコアリング』よりも断然多くなっていることがわかっていただけると思います。アポが取れる確率が、1.12倍ほど精度が向上しているということが大事なところです。また、アポの獲得が見込めるサジェスト数も1.92倍になっており、DataRobotによるスコアリングの切り替えで、約2倍相当のアポ獲得の改善を実現しました」(新名氏)

導入のハレーションを乗り越え、AIをビジネスに貢献させるために

 DataRobotによるスコアリングの切り替えの結果、どのようなビジネスのインパクトにつながったのだろうか。SansanではDataRobotとMarketoによるデータ連携について、3つのフェーズを経験したという。

AI激推し期:スコアリングロジックをAIに置き換え、架電リードをAIの判断に一元化する仕組みをマーケ側で一気に構築。

揺り戻し期:インサイドセールス側としては架電リードは自分たちで決定したい。Marketoベース・DataRobotベースに関わらず、スコアリングというマーケ依存の仕組み自体を撤廃する流れに……。

共存期:AIの助けがあって初めて実現できるフローを見つけることで、人の判断とAIの判断の共存を実現。

 「当初は過去の架電結果をすべて学習したDataRobotから作成された、アポ獲得率の高いリストを、インサイドセールスに激推ししていました。しかし、『DataRobotで低いスコアだったからと言って、架電しないのはちょっと嫌だ』という反応がインサイドセールスからは返ってきてしまい……。インサイドセールスにとっては、いきなりAIでの予測モデルと言われてもなかなかピンとこず、架電のモチベーションが上がりにくかったんです。つまり、AIによる予測モデルに人の意思を入れ込む余地がないことが、導入に際してのハレーションを生んでしまいました」(新名氏)

 導入当初からAIの予測モデルによるインサイドセールスの効率化は運用に乗ったとは言いがたい状態だった。そこから「揺り戻し期」となり、インサイドセールスからはスコアリング自体もう必要ないと言い渡されてしまったという。結果、インサイドセールスではこれまでの成功体験をもとにした架電が行われた。そうすると、再び架電対象にならないリードが増え、重要なアクションも見逃している可能性が高くなる状況に逆戻りだ。

 「2つのフェーズを経験してわかったことは、事実としてAIの精度がよくても、モチベーションにはつながりにくいということ。いきなりAIドリブンで飛ばそうとするのは非常に難しいので、行動の判断は人に任せて、そのヘルプとしてAIの判断がヒットする場所を探す必要があるなと思いました。

 具体的には、サイトを再訪問している過去に獲得したリードという、架電する理由は十分強いが、すべてに対応するには効率が悪いリードに対してAIがふるいをかけることで効果的な架電対応を可能にしました」 (新名氏)

 このAI共存期における最適なAIの活用法を見つけた結果、アポ獲得率は約2倍に改善し、総受注額もDataRobotライセンス費用を上回ったという。ビジネス的にも、ペイできたと言えるだろう。

 「人が関わるフローの一部にAIを導入しようとすると、どんなに準備して話を通していたとしても、ハレーションが必ず起きるのではないかと思っております。しかしそこで諦めないでください。AI だからこそ解決できるテーマはどこか必ずあるはずなので、そこを辛抱強く探っていくことが大事なのではないでしょうか。弊社の事例をそのヒントとしてご提供できたのであれば嬉しいです」(新名氏)

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket
  • note
関連リンク
この記事の著者

大木 一真(オオキ カズマ)

モジカク株式会社 代表取締役。株式会社サイバーエージェントに新卒で入社し、Webメディア「新R25」の立ち上げにディレクター兼編集職として参画。Webマーケティングを手掛ける株式会社AViC(2022年7月に東証グロース市場へ上場)の創業期に参画し、執行役員を務める。2019年1月にBtoBサービスやSaa...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2020/04/13 11:00 https://markezine.jp/article/detail/33056