コロナ・ショックが広告市場に与える影響
コロナ・ショックが世界に大きな影響を及ぼす中、広告市場もその例外ではいられない。感染はいまだ拡大しており、終結が見えない中、今回のコロナ・ショックのマグニチュードがわかる人はいないだろう。したり顔で「こうだ!」という記事は信じないほうがよいし、この記事でもそうした発言があれば噓だと思ったほうがよいぐらいである。
とはいえ、結論付けるのは尚早でも、行く末を考えるためのヒントはあちこちにある。本稿では、行く末を考えるうえで最もベーシックな要素となる「過去データ」「トレンド」「足元の動き」を取り上げ、考察していく。
リーマン・ショック時の広告費はどうだったか?
まずは過去データから。過去の出来事で、現在と近しい状況を考えてみると、2008~2009年のリーマン・ショックが比較の対象となるだろう。リーマン・ショックの最中に、日本の広告費はどうなっていたか。以下の表にまとめてみた。
2009年、日本の広告費は全体で前年比-12%だった。ほとんどの項目が10%以上のマイナス成長となる中、インターネットの1%増が目立つ。急成長していたインターネット広告は、総広告費全体が大きな打撃を受けた中でも、しぶとく成長を続けていたのだ。その他のカテゴリーはすべて前年比減だったが、総広告費全体よりは少ない減少率で、「踏みとどまった」と言えるのが、テレビ、DM、POPの3つのカテゴリーだ。マクロ環境の影響で広告費が減る中でも、まだまだ広告主に「選ばれている」媒体ともいえる。
次にトレンドを取り上げたい。下の表に、リーマン・ショック以前の2007~2008年間の変化(※)と、今から見た直近二年間、2018~2019年間の変化を並べてみた。
※厳密にいえば、2008年の秋からリーマン・ショックは起こっており、総広告費の減少など、影響は多少出ている様子が見える。
2007~2008年間の変化(図表左)と2018~2019年間の変化(図表右)を見比べてどうだろう。意外と似ているという印象を持つ方が多いのではないだろうか。もちろんまったく一緒とはいかないものの、多くのカテゴリーでは変化のトレンドが近いことが、数字から見えてくる。昨年には、インターネットがテレビの広告費を抜いたので、「世代交代」「テレビの減少が加速した」といった印象はもたれやすいが、成長のトレンドだけを見れば、インターネットにしろテレビにしろ、大きくトレンドを外れた形はないとも言える。
とはいえ、現在のインターネットの市場規模はリーマン・ショック時と3倍以上違い、広告費のカテゴリーで最大になる中、今回のコロナ・ショックで、リーマン・ショック時と同様に粘り強さを見せられるかは、慎重に考える必要がある。また、米国で発表されたレポートによると、昨年後半時点でインターネット広告の伸びは鈍化している。日本でも、動画広告が伸びる一方で、ディスプレイ広告の減少などが見られる。こうした動きも、考慮すべきポイントと言えるだろう。インターネット内のサブカテゴリーの中でのシフトとも絡めて、今回は、10年前よりも大きな変化が現れる可能性が充分にあるだろう。
最後に足元の変化を考える場面をいくつか挙げたい。消費者とのタッチングポイントがベースとなる広告。外出自粛の中、各カテゴリーの中でも影響を受けやすいのがプロモーションで、特にカテゴリーでいうとPOP/イベントの影響度合いは大きいだろう。イベント業者の苦境のニュースも事欠かない。このカテゴリーは数ヵ月間分の純減は最低限起きるので、広告市場全体以上の落ち込みは想定したほうが良さそうだ。