大学生で起業「社会課題に向き合うプレーヤーを増やしたい」
斉田:マーケティング、広告の業界でも「SDGs」はビッグワードになっており、今後「SDGs消費」は大きなテーマになってくるはずです。2021年にMERYユーザーに対し行った調査では、「約9割の回答者がSDGsに興味があり、取り組みたいと思っている」と回答。また、MERYユーザーを「20代社会人(20~29歳)」と「2023年3月卒業予定の大学生・大学院生」で分けてみると、後者のほうがSDGsへの認知度が高いことが明らかになりました。
こうしたデータや昨今の潮流を踏まえ、これから「Z世代×SDGs消費」は非常に注目されるテーマになっていくと私は見ています。そこで今日は、「Z世代は本当にSDGs消費をするのか?」という問いを立ててみました。taliki(タリキ)代表の中村さんと一緒に、SDGs消費を促す際のヒントを探っていきたいと思います。まずは、中村さんの自己紹介からお願いできますか?
中村:talikiの代表取締役 CEOの中村です。talikiは2017年、大学生の時に立ち上げました。talikiでは社会課題の解決にビジネスで取り組むプレーヤーを支援しており、具体的には、ビジネス立ち上げ時の伴走および投資、後に大手企業との連携を促すオープンイノベーションの事業を展開しています。
斉田:もともと中村さんがソーシャルビジネスに興味を持ったきっかけは何だったんですか? 投資ファンド事業を始められるまでの経緯を教えてください。
中村:最初は、カンボジアに小学校を建設するプロジェクトを始めたのがきっかけでした。当初は“社会課題の解決”なんてたいそうな思いがあったわけではなく、就活に有利になりそうだし、国際協力とかカッコイイし、何より大学入学後に目標を見失っていたので、これはちょうどいい機会だと思って、すごくライトな感じで始めたんです。
そうして実際に現地に行って活動をしてみると、「社会課題というものに対する人々の意識の距離の遠さ」をまず実感しました。物理的には意外と近いところにあるんだけど、意識の距離のほうが遠いんです。また、社会課題の解決にリソースを流すこと、活動を持続することがいかに難しいかを痛感し、「行政や経済発展など構造的なところから解決しないといけない。草の根の活動だけをしていくのでは不十分かもしれない」と考えて、ニューヨークに留学しました。
斉田:そうだったんですね。ニューヨークでは何を?
中村:当時はちょうどトランプ氏とヒラリー・クリントン氏の大統領選が行われていた時だったので、ビジネススクールに通いながら、報道局でインターンをするという経験をしました。大きいセクターのほうが社会課題を解決できるのではないか? という仮説を持ってニューヨークに行ったわけですが、アメリカ政府、国連本部などにも取材で携わる機会がある中で、自分の仮説が外れていたことに気づきます。
たとえば、メキシコに壁を作っても、移民問題の当事者を取り巻く様々な問題は何も解決しない、ということがわかってしまったんですね。大きいセクターにいれば社会課題の解決に近づけるのではないかと思っていたんですが、実際は全然そんなことはなく、社会課題に向き合うプレーヤーや事業の絶対数が増えないと、そしてそれぞれが育たないといけない、ということを改めて認識して。それならば、自分はそれを促す側になろうということで、talikiという会社を作りました。
インセンティブを付与して、人が動く仕組みを作るのは事業者の役割
斉田:そんなストーリーがあったんですね。社会課題は、ビジネス側から解決を図るべき部分もあれば、生活者の日々の行動で図られる部分もあります。「社会課題の解決は大切だよね」と言いながら、実際の行動は伴っていない人々がまだまだ多いのが現実ですが、こういう現状を見て中村さんはどんなことを思われるんですか? 長年、ソーシャルビジネスをやられている立場からすると、残念な気持ちになるんでしょうか?
中村:いえいえ。そもそも、今日まで様々な社会課題が解決に至っていないのは、「しなきゃいけない」で人間は動かないからだと思います。だから、「なぜわかってくれないの?」「みんなでやらなきゃいけないんだよ」というようなコミュニケーションを見ると、それだけでは不十分だなと、私は思ってしまいますね。
そうではなく、インセンティブによって人が動くという仕組みを、事業者側が作らないといけない。もちろん、社会から呼びかけてみんなが問題に向き合うのが一番いいのですが、そうはならないのが人間の性です。ですので、斉田さんの質問にお応えすると、「まだまだこちら側がインセンティブを付与できていないんだな」という気持ちになりますね。