サービスへの願いや想いをベースにコンセプトを考える
前回の記事「『テコの原理』を使った体験設計 企業のイシで生活者のイヤを解決する」では、ファンを生み出す仕組みについてテコの原理を使用しながら解説しました。最終回となる今回は、これまでお話ししてきた発想〜設計のプロセスを、実際に博報堂が開発した3Dアバター試着サービス「じぶんランウェイ」をベースにしながら再現していきます。
このサービスは、コロナ禍によりリアルで試着がしにくい環境下で生まれたバーチャル試着の体験です。
自分自身を3Dスキャンして、フォトリアルな自分のアバターを生成し、そのアバターが様々なファッションコーディネートを着てランウェイ上を歩き、自分を360°自由自在に確認できます。試着した複数の自分がランウェイ上を続々とウォーキングして登場し、比較しながら試着を楽しむことが可能です。
これにより、試着した自分を比較して見たいといった要望や、試着が面倒くさい、動いてみたらどうかがわからないといった試着に対する不満の解決ができます。
実際に、サービスの体験を考えていくときのSTEPは7つです。
まずSTEP1〜3は前回説明した支点(サービスの目的)を定めるSTEPです。
STEP1では、自分たちのサービスに込める想いや願いを記入します。段階が進むごとに精緻化していけば良いので、簡潔な一言である必要はなく、飲食業をやりたい、ファッション関連のサービスをしたいなど、想いベースでの記入になります。
今回は、「ファッション関連、特に試着をもっと気軽に楽しめるサービスをやりたい!」という想いから入りました。
体験価値のヒントは生活者が抱える何気ないモヤモヤ
試着に関するテーマで何をやりたいか決まりました。STEP2では“試着に関する不平や不満”を箇条書きにしていきます。「色々なお店を回るのは面倒くさい」「試着室でも後ろ姿や全身が見にくい」など、日々の生活の中で自分を含めた周囲の人が不満に思っていることを書きだします。その中で1つ重要なのが生活者の日常生活における“モヤモヤ”を発見することです。このモヤモヤすることが新しいサービスや体験のヒントになっていきます。
次に、STEP3ではイシとイヤの2つが重なる部分を見つけて、「生活者にとって意味があること」を考えていきます。
具体的な思考フローとしては、「試着の体験は改良点がありそう」、「でもコロナでお店に行きにくい」、「デジタル上での新しい試着体験を考えればニーズがありそう」、「服の廃棄問題にも貢献できて、生活者の気持ちに寄り添えそうだ。(支点の位置が左に寄ってファンになってくれそうか?を確認)」。それを踏まえて、今回の目的を「デジタル技術で人と地球にうれしい試着体験を提供する」に設定してみるといった流れです。