ファンになる体験は「テコの原理」で考える
前回の記事「体験価値を具体的にどう発想する? 商品・サービスと生活者の関係を構築する3つのデザインアプローチ」では、体験価値を発想する上で使用する「3つのデザインアプローチ」について事例と共に解説しました。今回は、実際に生活者から求められる体験を設計する上で、必要なステップについて全体像を俯瞰しつつ、解説していきます。
まずファンになる体験が生まれる構造は、体験設計が人の気持ちを動かす仕組みをテコの原理を使って考えることでわかりやすくなります。
支点は「パーパスに基づいた商品やサービスの目的」になります。これは、テコ全体を効かせやすくするためのポイントになってきます。次に力点はテコ全体に力を加える「体験」です。そして、作用点で支点と力点の2つの力が作用しファンになる気持ちが生み出されます。
実際のテコの原理と同じで、支点の位置が重要になります。パーパスや目的が生活者の気持ち(作用点)に近いほど、レバレッジが効き、ファンになる気持ちは動きやすくなります。
支点は、できるだけ生活者の気持ちに寄り添って、図で言う左側(作用点)に寄せていくことが大切です。
逆に生活者の気持ちから遠い位置にあると、どんなに良い体験を提供しても心は動きにくくなってしまいます。
ですが、それだけでは十分ではありません。目的(支点)と具体的な体験(力点)の両方を一連の流れで考えることが必要になります。
近年、多くの企業やブランドで、「パーパス」という言葉・概念が重要視されるようになっています。
この「パーパス」は規定するだけでは意味はなく、達成のために具体的に「体験アイデア」までを考え、アクションすることで初めてブランドとしての活動になります。
このように、企業やブランドとして、何を言うか(パーパス)と何をやるか(体験アイデア)をセットで設計し、体験部分を一言発想で考えていくことが重要です。
企業のイシで生活者の気持ちをファンに持ち上げる
前述のように、支点は、企業やブランドが目指すものを示しています。これは、企業やブランドが生活者や世の中に対し提供できるメリットすなわち、ブランドや商品の目的(提供価値)になります。
この目的が生活者にとって有益で、共感でき、応援したいものであれば、支点の位置が左側に寄り、生活者に寄り添うことになります。結果として、テコの原理により、大きな力で生活者の気持ちをファンになるように持ち上げてくれます。
その上でポイントになるのは、企業のイシ(パーパス)と生活者のイヤ(不平・不満)の両方が重なる部分を考えることです。
イシは企業が考える自社商品やサービスの「存在意義」や、「世の中にどんな良いことを提供するのか?」という想いの部分になります。
一方、イヤは生活者が抱える「不平」や「不満」です。このイヤは生活者と近くなるための大切な視点で、これを解消することで生活者の課題を解決したということができます。
この2つが重なったところに、生活者から本当に喜ばれる「視点」が生まれ、ファンになる気持ちにより近い目的が生まれます。このように支点の位置を探すことは、イシとイヤの両方を満たす部分を見つける「視点」と捉えることが大切になります。