“ミステリーフレーバー”の種はTikTokにあった
今回のキャンペーンの背景には、TikTokで盛り上がっていた“ピクルス愛”があった。
Z世代のTikTokユーザーたちの間では、数年前から“#picklechallenge”と呼ばれるピクルスを使った動画が話題になり続けていた。スパイシーな調味料と合わせたり、炭酸と組み合わせたり、あるいはそのまま丸かじりしたりと、ピクルスは「クセになる味」カテゴリーの主役として支持されていた。
さらに欧州では、発酵食品や酸味のあるフレーバーがトレンドとして台頭していた。そこに若年層の“刺激的な味”志向が加わり、ピクルス味にハラペーニョやガーリックなどのスパイスを加える「強い味」のニーズが形成されていた。
プリングルスは、この味覚トレンドとTikTok文化の交差点に狙いを定めたのである。
プリングルスが仕掛けた“正解のないフレーバー”
2025年1月、プリングルスは「ミステリーフレーバー」と称する製品を英国市場に投入した。パッケージには味名が記載されておらず、「何味か当ててみて」とだけ書かれていた。
TikTokやInstagramなどでは「#WhatIsThisFlavor」のようなタグとともに、開封→実食→推理→投稿という一連のムーブメントが広がっていった。
この仕掛けが巧妙だったのは、「ブランドが味を語らないこと」で消費者の“語り”を引き出した点である。つまり、会話の起点を消費者側に渡したのだ。
@nicht.muhamed Pringle’s was soll das? #chips #schmeckt #nicht #fyp #foryoupag #goviral #nichtmuhamed ♬ ショパン ノクターン第2番 ピアノ モノ - moshimo sound design
推理する消費者たちとUGCの波
「酸っぱい?」「ハーブ?」「これ、絶対ピクルスでしょ!」といったコメントがTikTokやX上に次々と投稿され、関連タグは数千件規模で拡散された。
正解発表前には、ブランド公式があえて沈黙を貫いたことで、憶測と期待感が加速し、“外れてもOK”な安全な遊び場が形成された。
結果的に、「ミステリーフレーバー」は60万本以上が販売され、6,000件以上の味予想が集まったという。最終的な正解者は全体の1%未満だったと報じられているが、それもまた「話したくなるネタ」として機能した。
答え合わせ:Spicy Pickleという選択
2025年5月、プリングルスは正式にこのミステリーフレーバーの正体を「Spicy Pickle」であると発表した。
製品開発責任者であるMartha O'Reilly氏は、「TikTokや消費者の発信から“酸っぱくてスパイシーな味”が支持されているのを見て、挑戦的なフレーバー設計を行った」とコメントしている。
味の構成要素は、ピクルスに加えて、赤唐辛子、ガーリック、パプリカ、トマト、玉ねぎなど。万人受けするものではないが、“クセになる人”にとっては忘れがたい複雑な設計である。
まさに、賛否が分かれることを前提にした「語られる味」だった。