「心を動かす体験」を生み出す
安成:本日は、ハウス食品の「ルウ混ぜ合わせキャンペーン」についてお話をうかがってまいります。カレーのルウを混ぜ合わせて使った経験がある人は多いと思いますが、メーカー自ら混ぜ合わせを提案する施策には驚きました。
具体的な取り組みのお話に入る前に、本連載のテーマ「CX-Connect」について、改めて全体像を教えてください。また、その中で今回の取り組みをどう位置付けていますか。
工藤:dentsu Japanが推進する「CX-Connect」では、企業と顧客のつながりを強めることを目標としています。戦略としては大きく2つあります。まず、顧客体験の場を拡張することで関係を構築しLTV(顧客生涯価値)の最大化を目指す、ストック型マーケティングの推進です。2つ目は、顧客体験を統合・変革することで“心を動かす体験”を提供することです。顧客に「おもしろい」「楽しい」と感じていただき、ブランドとつながるきっかけを作ることが大切だと考えています。
今回のプロジェクトでは、特に後者を重視しています。また企業と顧客のつながりだけでなく、ハウス食品様の社内で連携して取り組んでいただくことで、部署間のつながりを深める点にも貢献したいと考えました。
電通のマーケティング局に所属し、企業やブランドの戦略設計から実装まで一気通貫でサポートする。本プロジェクトでは、コミュニケーション全般の設計や施策推進を担当。
4割がルウを混ぜ合わせて利用?調理型ルウの新たな価値を探求
安成:まず、プロジェクトの実施背景を教えてください。
安達:調理型ルウカレーは、「たくさん作ることができて、家族みんなが喜ぶ」商品としてご愛用いただいています。一方で、世帯構造の変化や嗜好の多様化、タイパ・コスパ重視など、調理型ルウを取り巻く環境は大きく変わっています。
たとえば、核家族化によって大量に調理する必要がない家庭が増え、調理型ルウに慣れ親しんできた層の高齢化も進んでいます。そのため、調理型ルウでこれまでにない「新しい体験」を提供する必要があると感じていました。
ハウス食品のブランドコミュニケーションやプロモーション全般を担当。マス広告、デジタル施策、イベントなどあらゆる顧客接点における施策の立案から実行までを担う。
安成:dentsu Japanでは、この課題に対してどのような提案をしたのですか。
工藤:ハウス食品様の課題感を踏まえ、2つの戦略を提案しました。まず、調理型カレーの「新しい価値」を定義すること。次に、実際に喫食する機会を創出することです。つまり、ブランディングと販促の両面で施策を進められるよう設計しました。
カレーは既に国民食として定着しており、今から新しい価値を生み出すのは簡単ではありません。それをどう見つけていくかが取り組みのカギでした。ハウス食品様で実施された市場調査やお客様相談センターに寄せられた声、SNSで投稿された内容など、顧客のインサイトや喫食実態を深掘りしながら模索していきました。
安達:調理実態に関する調査を実施したところ、お客様の4割が複数のルウを混ぜ合わせて調理していることがわかりました。この事実を足掛かりに、新しい楽しみ方を提供できるのではないかと考え、ルウの混ぜ合わせによるオリジナルカレーの調理体験を提案する施策アイデアが生まれました。また本施策は、購入点数の増加を見込める点でも、可能性があると考えました。

工藤:SNSで「カレールウの混ぜ合わせ」について言及している投稿を調べると、「カレー」に関する投稿の中でわずか0.01%でした。これまで、混ぜ合わせに関する新しい価値提供がなかったため、4割の調理実態があるにもかかわらず、まだ注目されていない。そこにチャンスがあると仮説を立てました。

