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MarkeZine Day 2026 Spring

電通グループが掲げる「CX-Connect」から紐解く、顧客とつながり続けるために大切なこと(AD)

なぜ、ハウス食品は“ルウの混ぜ合わせ提案”をしたのか?顧客体験から価値を再設計した挑戦

 ブランドが新しい発見や快適な体験を顧客に提供する取り組みは、新規層の開拓やロイヤルファンの増加に欠かせない。市場環境の変化や消費行動の多様化が激しい昨今、定番ブランドであっても新たな価値を生み出し続けることが求められている。dentsu Japan(国内電通グループ)が掲げる「CX-Connect」を体現する取り組みを取り上げる本連載、今回はハウス食品がカレールウブランドにおいて展開したキャンペーンを取材。ブランドを横断し「ルウを混ぜ合わせる」という、メーカーとしてチャレンジングな施策について、MarkeZine編集長の安成がインタビューした。

「心を動かす体験」を生み出す

安成:本日は、ハウス食品の「ルウ混ぜ合わせキャンペーン」についてお話をうかがってまいります。カレーのルウを混ぜ合わせて使った経験がある人は多いと思いますが、メーカー自ら混ぜ合わせを提案する施策には驚きました。

 具体的な取り組みのお話に入る前に、本連載のテーマ「CX-Connect」について、改めて全体像を教えてください。また、その中で今回の取り組みをどう位置付けていますか。

工藤:dentsu Japanが推進する「CX-Connect」では、企業と顧客のつながりを強めることを目標としています。戦略としては大きく2つあります。まず、顧客体験の場を拡張することで関係を構築しLTV(顧客生涯価値)の最大化を目指す、ストック型マーケティングの推進です。2つ目は、顧客体験を統合・変革することで“心を動かす体験”を提供することです。顧客に「おもしろい」「楽しい」と感じていただき、ブランドとつながるきっかけを作ることが大切だと考えています。

 今回のプロジェクトでは、特に後者を重視しています。また企業と顧客のつながりだけでなく、ハウス食品様の社内で連携して取り組んでいただくことで、部署間のつながりを深める点にも貢献したいと考えました。

株式会社電通 第6マーケティング局 CXコンサルティング1部 マーケティングコンサルタント 工藤亮氏電通のマーケティング局に所属し、企業やブランドの戦略設計から実装まで一気通貫でサポートする。本プロジェクトでは、コミュニケーション全般の設計や施策推進を担当。
株式会社電通 第6マーケティング局 CXコンサルティング1部 マーケティングコンサルタント 工藤亮氏
電通のマーケティング局に所属し、企業やブランドの戦略設計から実装まで一気通貫でサポートする。本プロジェクトでは、コミュニケーション全般の設計や施策推進を担当。

4割がルウを混ぜ合わせて利用?調理型ルウの新たな価値を探求

安成:まず、プロジェクトの実施背景を教えてください。

安達:調理型ルウカレーは、「たくさん作ることができて、家族みんなが喜ぶ」商品としてご愛用いただいています。一方で、世帯構造の変化や嗜好の多様化、タイパ・コスパ重視など、調理型ルウを取り巻く環境は大きく変わっています。

 たとえば、核家族化によって大量に調理する必要がない家庭が増え、調理型ルウに慣れ親しんできた層の高齢化も進んでいます。そのため、調理型ルウでこれまでにない「新しい体験」を提供する必要があると感じていました。

ハウス食品株式会社 食品事業本部 事業戦略企画部 ブランドプロモーション企画課長 安達 晋氏ハウス食品のブランドコミュニケーションやプロモーション全般を担当。マス広告、デジタル施策、イベントなどあらゆる顧客接点における施策の立案から実行までを担う。
ハウス食品株式会社 食品事業本部 事業戦略企画部 ブランドプロモーション企画課長 安達晋氏
ハウス食品のブランドコミュニケーションやプロモーション全般を担当。マス広告、デジタル施策、イベントなどあらゆる顧客接点における施策の立案から実行までを担う。

安成:dentsu Japanでは、この課題に対してどのような提案をしたのですか。

工藤:ハウス食品様の課題感を踏まえ、2つの戦略を提案しました。まず、調理型カレーの「新しい価値」を定義すること。次に、実際に喫食する機会を創出することです。つまり、ブランディングと販促の両面で施策を進められるよう設計しました。

 カレーは既に国民食として定着しており、今から新しい価値を生み出すのは簡単ではありません。それをどう見つけていくかが取り組みのカギでした。ハウス食品様で実施された市場調査やお客様相談センターに寄せられた声、SNSで投稿された内容など、顧客のインサイトや喫食実態を深掘りしながら模索していきました。

安達:調理実態に関する調査を実施したところ、お客様の4割が複数のルウを混ぜ合わせて調理していることがわかりました。この事実を足掛かりに、新しい楽しみ方を提供できるのではないかと考え、ルウの混ぜ合わせによるオリジナルカレーの調理体験を提案する施策アイデアが生まれました。また本施策は、購入点数の増加を見込める点でも、可能性があると考えました。

工藤:SNSで「カレールウの混ぜ合わせ」について言及している投稿を調べると、「カレー」に関する投稿の中でわずか0.01%でした。これまで、混ぜ合わせに関する新しい価値提供がなかったため、4割の調理実態があるにもかかわらず、まだ注目されていない。そこにチャンスがあると仮説を立てました。

234通りの組み合わせから提案!「AIルウミックスメーカー」で目指した顧客の“気づき”とは

安成:「ルウを混ぜ合わせる人が4割いる」というデータに基づいた施策だったのですね。具体的に、どのようなキャンペーンを実施したのですか。

安達:2025年夏の需要期に向けて「夏のカレーをもっと自由に楽しもう!」というテーマを掲げ、喫食機会の創出と裾野拡大を目指しました。具体的な取り組みは大きく2つあります。

 1つ目は、人気アーティストの「Mrs. GREEN APPLE」を起用したクローズドキャンペーン(特定の条件を満たすと参加できるキャンペーン)です。テレビCMも用意し、オリジナルグッズが当たる販促キャンペーンを展開しました。CMオンエア当初からメディアでも取り上げていただき、応募総数は目標の2.4倍となりました。

 2つ目は、2025年6月末から特設サイトで公開している「AIルウミックスメーカー」です。これは、当社のブランド「バーモントカレー」「ジャワカレー」「こくまろカレー」の計13品目を使った234通りのルウの組み合わせの中から、気分や好みに合った組み合わせを診断できるサービスとなります。お客様が普段使っているルウ以外にも、当社が展開する商品が数多くあることに気づいていただき、興味を持っていただく体験を目指しました。また、診断結果の組み合わせを話題にしていただくことで、夏場にカレーの発話総量を増やしたいという狙いもありました。

診断の設問と結果の例(クリックして拡大)

安成:実際に「AIルウミックスメーカー」で診断してみると、思っていたよりも商品の種類がたくさんあることに気づきます。「使ったことがない商品を買う」という心のハードルを下げる施策だと思いました。

安達:調理型ルウは家族皆で食べるといった特性上、初めての商品を手に取るという冒険を普段はなかなかしづらいかもしれません。だからこそ、診断で提案された組み合わせにトライする体験を、新たな楽しみ方にしていただきたいですね。診断を体験した方からは「実家で食べていた組み合わせと同じ」「昨日食べた組み合わせがこれだった」といった声も上がりました。

こだわって生まれた商品を混ぜてよいのか……メーカーとしての葛藤も

安成:メーカー目線では、一つの商品として完成させて世に出していると思います。あえてそれをミックスする提案は、社内でどう受け止められたのでしょうか。

安達:もちろん、商品をそのままおいしく味わってもらいたいというメーカーとしての思いはあります。一方で4割もの人たちがルウを混ぜて楽しんでくれている実態を尊重するとともに、まずは新しい“気づき”を提供して、お客様に自ら楽しんでもらうきっかけを作る施策としてスタートしました。

 それぞれのブランドの思いを尊重しながら、混ぜ合わせをどこまで押し出すべきか、社内でも議論を重ねました。最終的には「きっかけ」として楽しんでいただくことを大切にして、混ぜ合わせキャンペーンをやってみようとなりました。

安成:体験設計で重視したポイントは何ですか。

工藤:まずは、顧客とブランドの距離を近づけることを重視しました。また、ブランドに触れるハードルを低くして間口を広げることと、心を動かす体験を提供することの両輪で進める点も重要でした。

 そのために、「AIルウミックスメーカー」誕生にまつわる社内の葛藤や苦労についても動画で紹介し、SNSなどを通じて発信しました。ハウス食品様がメーカーとして苦悩しながら、234通りの組み合わせを検証しサービスを作り上げた姿を積極的に見せ、共感いただくことを目指しました。

開始1ヵ月で十数万回の診断件数に!ポジティブな反響が多数

安成:キャンペーンを設計する上で、目標設定はどのように行いましたか。

工藤:「AIルウミックスメーカー」では、まず実際に診断された回数を重視しています。結果は、開始1ヵ月で十数万回の診断件数となり、他メーカーなどの診断系サイトと比較しても大きな成果となりました。

 また、キャンペーンを通じた話題の総量も見ており、SNSでの発話から生まれた総リーチ数は約20倍に増加しました。今回のキャンペーンに関するSNS投稿を分析したところ、ポジティブな投稿が9割を占め、残りの1割はニュートラル(中間)という結果でした。本当にたくさんの方に楽しんでいただけたキャンペーンになりましたね。

安達:新たな商品への気づきと、試してみたいと感じていただける体験を提供できるサービスになったと考えています。また、お客様に加えて、営業現場でも反響がありました。「エリアの特性を反映した組み合わせはできないか」「食材や関連商品との組み合わせを提案できないか」といったリクエストもあり、非常にポジティブに受け止めてもらえています。

実際に商品を「試してみたい」と思わせる施策の強化へ

安成:来年以降に向け、どのように取り組みを広げていきますか。

安達:今回、商品の種類や新たな楽しみ方について知ってもらえたので、次は様々な商品や混ぜ合わせを実際に試してもらう施策の強化が課題です。そのためには、店頭でのプロモーションやレシピの考案など、「試してみたい」とお客様に感じていただける取り組みが必要となります。営業現場で出てきたアイデアも参考にして、社内で議論しながら推進してまいります。

 「AIルウミックスメーカー」の設計も、設問や回答でまだまだ工夫する余地があると思います。さらにパワーアップさせていきたいですね。

工藤:今回の取り組みは、ハウス食品内の各部署の皆様に社内調整などでご協力をいただき、dentsu Japan各社の専門性を集結させたことで推進できました。部署を越えて同じ顧客体験を目指して取り組むことで、より良い体験を生活者に提供できるという手応えを、私たち自身も強く実感しています。今後も、専門的な知見を持つメンバーと一緒に、ハウス食品様の体験作りに伴走していきたいと考えています。

安成:今回の取り組みは、ハウス食品の新しい一面が見えたのが印象的でした。長年培ってきたブランドイメージを維持しながら、ユニークな面を打ち出したことが楽しい施策につながったのですね。本日はありがとうございました。

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この記事の著者

加納 由希絵(カノウ ユキエ)

フリーランスのライター、校正者。

地方紙の経済記者、ビジネス系ニュースサイトの記者・編集者を経て独立。主な領域はビジネス系。特に関心があるのは地域ビジネス、まちづくりなど。著書に『奇跡は段ボールの中に ~岐阜・柳ケ瀬で生まれたゆるキャラ「やなな」の物語~』(中部経済新聞社×ZENSHIN)がある。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通コーポレートワン

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/12/19 11:00 https://markezine.jp/article/detail/50013