長らくBtoBマーケティングの定石だった「有益な情報を渡す代わりに名刺情報(リード)を受け取る」という手法が、生成AIの台頭によって限界を迎えつつある。公開されているあらゆる情報がAIに学習され、検索行動の入口がAIへと移るなか、いまだに情報を囲いたがる日本企業の姿勢は非効率であるだけでなく、情報を出さないことで“見捨てられる”リスクすら増大させている。AI時代のBtoBマーケティング・Webサイトの在り方はいかにあるべきか。マーケティングコンサルタントとして長く経験し、2025年4月から同志社大学ビジネススクールの教授に着任した高広伯彦氏と、マツリカの中谷真史氏がその本質に切り込む。
AI時代、リード獲得のための“情報隠し”は終焉する
MarkeZine編集部(以下、MZ):BtoBマーケティングでは長らく、重要な情報をあえてWeb上に公開せず、フォーム入力と引き換えに提供する「リード獲得」の手法が続いてきました。しかし、AIによって情報がオープンになりつつある今、この「クローズドな状態」をどう捉えるべきでしょうか。
中谷:グローバルな視点で見ると、情報をできるだけWeb上で公開することがトレンドになっています。日本では現在もホワイトペーパーのダウンロードに個人情報の入力が必要ですが、世界的に見ればこの手法は減少傾向にあります。特にLLM(大規模言語モデル)の登場以降、あらゆる情報がAIに学習される時代になりました。情報を出していかなければ、AIの回答ソースに含まれず、認知すら取るのが難しくなっているのです。
高広:そもそもインターネット黎明期の企業サイトは、広報や企業紹介が主目的でした。そこから商品紹介、ブランディング、コマース、そしてFAQなどのナレッジベースへと発展してきました。一部に会員限定コンテンツはあれど、基本的には「オープン」であるのがインターネットの前提です。
一方で、企業側には「お客さんには伝えたいけれど、インターネット上にはオープンにしたくない」という情報が山ほどあります。「情報を出すと競合他社に見られてしまう」という懸念から、企業側が情報の公開に躊躇しているわけです。しかし、生成AIが学習リソースとしているのは、基本的にオープンなインターネット上のコンテンツです。スクレイピング(情報収集)されることを恐れて情報を隠していると、AI時代には存在しないも同然になってしまう。それにもかかわらず、情報開示に拒否反応を示す企業が多いのが現実です。
日本企業はなぜ情報を隠すのか?「情報の非対称性」の誤解
MZ:なぜ企業はそこまで情報を隠したがるのでしょうか。
中谷:現場でマーケターの方と話していると、情報を出し惜しみする理由は大体次の3つに集約されます。第1に、「営業部門からのプレッシャー」です。「何でもいいから、とにかくアポイントを」という要求があり、情報の対価としてリードを取らざるを得ない状況です。これが最も多い理由でしょう。
第2に、先ほど高広さんも指摘された「競合他社への警戒心」です。「手の内を見られたくない」という意識が強く働いています。そして第3が、「コンバージョン減少への懸念」です。「Web上で情報を出しすぎると、お客さんがそれで満足してしまい、問い合わせをしてくれなくなるのではないか」という不安です。ほとんどがこの3点に起因しています。
高広:要するに企業側は、「自分たちのほうがお客さんよりも情報を持っている」という“情報の非対称性”を守りたいんですよね。情報量で優位性を保ち、それを武器にマーケティングや営業をコントロールしたいという意識が根底にあるのでしょう。
中谷:個人的には、それが企業の進化を妨げている気がします。Web上に情報がないため、かえってお客さんが集まってこない。その結果、本来マーケティングが伝えるべき情報を、営業担当者が人力で伝えに行かなくてはなりません。これが日本企業の営業生産性の低さにつながっていると思います。
高広:まさにその通りで、現代のお客さんは非常に賢いですから、情報を隠すような駆け引きをしても無駄です。むしろ、「自分たちはこれだけの知見を持っています」と惜しみなく見せたほうがいい。「情報の非対称性なんてもうないんだ」「お互いに情報を持ち寄ったほうが、より高い価値が生まれるんだ」という認識に切り替えていくべきです。
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岩崎 史絵(イワサキ シエ)
リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
提供:株式会社マツリカ
【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社
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