AI時代、リード獲得のための“情報隠し”は終焉する
MarkeZine編集部(以下、MZ):BtoBマーケティングでは長らく、重要な情報をあえてWeb上に公開せず、フォーム入力と引き換えに提供する「リード獲得」の手法が続いてきました。しかし、AIによって情報がオープンになりつつある今、この「クローズドな状態」をどう捉えるべきでしょうか。
中谷:グローバルな視点で見ると、情報をできるだけWeb上で公開することがトレンドになっています。日本では現在もホワイトペーパーのダウンロードに個人情報の入力が必要ですが、世界的に見ればこの手法は減少傾向にあります。特にLLM(大規模言語モデル)の登場以降、あらゆる情報がAIに学習される時代になりました。情報を出していかなければ、AIの回答ソースに含まれず、認知すら取るのが難しくなっているのです。
高広:そもそもインターネット黎明期の企業サイトは、広報や企業紹介が主目的でした。そこから商品紹介、ブランディング、コマース、そしてFAQなどのナレッジベースへと発展してきました。一部に会員限定コンテンツはあれど、基本的には「オープン」であるのがインターネットの前提です。
一方で、企業側には「お客さんには伝えたいけれど、インターネット上にはオープンにしたくない」という情報が山ほどあります。「情報を出すと競合他社に見られてしまう」という懸念から、企業側が情報の公開に躊躇しているわけです。しかし、生成AIが学習リソースとしているのは、基本的にオープンなインターネット上のコンテンツです。スクレイピング(情報収集)されることを恐れて情報を隠していると、AI時代には存在しないも同然になってしまう。それにもかかわらず、情報開示に拒否反応を示す企業が多いのが現実です。
日本企業はなぜ情報を隠すのか?「情報の非対称性」の誤解
MZ:なぜ企業はそこまで情報を隠したがるのでしょうか。
中谷:現場でマーケターの方と話していると、情報を出し惜しみする理由は大体次の3つに集約されます。第1に、「営業部門からのプレッシャー」です。「何でもいいから、とにかくアポイントを」という要求があり、情報の対価としてリードを取らざるを得ない状況です。これが最も多い理由でしょう。
第2に、先ほど高広さんも指摘された「競合他社への警戒心」です。「手の内を見られたくない」という意識が強く働いています。そして第3が、「コンバージョン減少への懸念」です。「Web上で情報を出しすぎると、お客さんがそれで満足してしまい、問い合わせをしてくれなくなるのではないか」という不安です。ほとんどがこの3点に起因しています。
高広:要するに企業側は、「自分たちのほうがお客さんよりも情報を持っている」という“情報の非対称性”を守りたいんですよね。情報量で優位性を保ち、それを武器にマーケティングや営業をコントロールしたいという意識が根底にあるのでしょう。
中谷:個人的には、それが企業の進化を妨げている気がします。Web上に情報がないため、かえってお客さんが集まってこない。その結果、本来マーケティングが伝えるべき情報を、営業担当者が人力で伝えに行かなくてはなりません。これが日本企業の営業生産性の低さにつながっていると思います。
高広:まさにその通りで、現代のお客さんは非常に賢いですから、情報を隠すような駆け引きをしても無駄です。むしろ、「自分たちはこれだけの知見を持っています」と惜しみなく見せたほうがいい。「情報の非対称性なんてもうないんだ」「お互いに情報を持ち寄ったほうが、より高い価値が生まれるんだ」という認識に切り替えていくべきです。
Webサイトは「閲覧」から「対話」へ。ポスト・インバウンドのアプローチ
MZ:情報を隠すのではなく、積極的に知見を公開していくべきとのことですが、そうなると企業のWebサイトの役割はどのように変化するのでしょうか。
高広:大きく2つの道があると考えています。1つは、生成AIに拾ってもらうために、あえてオープンインターネット上に情報を出していくというシンプルなアプローチです。しかしこれだけでは、SEOと同じく「AIに拾われて回答の一部に出る」だけに留まります。
企業が本当にやりたいのは「自分たちの顧客だけに、特別な情報を届けたい」ということですよね。そこで私が提唱しているのが、「ポスト・インバウンドマーケティング」という2つ目の道です。これは、オープンなネットには情報を出さず、RAG(検索拡張生成)技術を使って「自社のAI」にだけ学習させる方法です。ここに、企業と顧客との関係をアップデートする大きなチャンスがあります。

MZ:具体的にはどのような形になるのでしょうか?
高広:これまでのインバウンドマーケティングは、「資料をダウンロードしてもらう代わりにメールアドレスを得る」という交換条件でした。これからは、「ユーザー情報を登録した人だけが、その企業の独自データにアクセスできるAIと話せる」という形に変わります。
その対話型AIは、オープンなインターネットにはない、企業側の独自情報を学習しています。つまり、各社が持っている深いナレッジを「顧客専用のAI」として提供できるようになるわけです。こうなると、Webサイトの役割も激変します。単なる会社情報やカタログではなく、「その企業独自の生成AIポータルの入り口」になるイメージです。Webサイト自体がユーザーとの「対話のためのツール」となり、そこで行われるやり取りこそが「ポスト・インバウンドマーケティング」になると考えています。
中谷:高広さんが指摘した通り、これまでのLPやWebサイトは、単なる「看板」や「チラシ」のような存在に過ぎず、ユーザーに対して「書いてあることを自力で読み解いてください」と強要し、誰に対しても同じ情報を届けるものになっていました。
一方、ユーザーは明確な目的を持ってWebサイトを訪れています。そこで私たちマツリカでは、ユーザーが「その時に知りたいこと」をAIが即座に回答するAIエージェント「Mazrica Engage(マツリカエンゲージ)」というソリューションを開発しました。これは、ユーザーが求める「価値ある情報」をAIが提供し、その対価としてユーザーから「顧客情報」を提供していただく仕組みです。重要なのは、情報の提供と個人情報の提供を『等価交換』にするという点です。「双方が価値を感じられる」という新しい関係性を築くためのプロダクトです。
高広:料金を知りたいだけなのに、何も書いていないWebサイトは山ほどありますよね。「料金を知りたければ問い合わせフォームへ」というのは、意外とハードルが高いものです。対話型AIで何でも聞けるとなれば、心理的なハードルが下がり、これまで取りこぼしていた潜在層も拾い上げることができるはずです。
価値交換から「価値共創」へ。マーケティングの本質回帰
MZ:AI時代の次なる一手として、マーケターは顧客にどう接するべきだとお考えですか?
高広:マーケティングの本質に立ち返る必要があります。コトラーもドラッカーも「マーケティングは売上を上げるものだ」と直接的に入っておらず、「見込み顧客を獲得するものだ」とは言っていません。彼らが語っているのは顧客にとっての「価値」の話です。
BtoBマーケティングでは「リード獲得」や「セールス連携」が重視されがちですが、より上位の概念としては「いかに価値を生み出すか」の一点に尽きます。経済学的な「価値交換」の考え方では、企業が作った製品(価値)を、顧客がお金と交換していました。しかし、ここ20年ほどの潮流は「(売り手側の)企業だけでは価値を作れない。価値は顧客と共に創るもの」という考え方、すなわち「価値共創」へとシフトしています。
「価値共創」では、お客さんが製品を「どう使うか」「どう判断するか」という部分が重要になります。これには、お客さん自身の持つ知識やスキルが大きく影響します。つまり、「企業側の知識・スキル」と「お客さん側の知識・スキル」を掛け合わせることで初めて価値が生まれるのです。
私が行うマーケティングセミナーでは、「想定するお客さんが、御社の商品を使いこなすために必要な知識やスキルは何か?」を書き出してもらうワークショップを行うのですが、これがなかなか書けないんですね。しかし、これからのマーケティングでは、単なる属性によるセグメンテーションではなく、「その人が持っているナレッジやスキル」を踏まえ、その力を“貸してもらう”というアプローチが必要です。
この考え方をWebサイトに当てはめると、重要なのは「AIを使って、いかに顧客との対話を通じて『価値共創』できる場にするか」という点です。「自分たちが価値を作る」という発想から、「お客さんと共に価値を作る」という視点へアップグレードできるかが問われています。
MZ:「価値共創」とはいえ、やはり自社の詳細な情報をAIチャットで出すことで、問い合わせが減ってしまうことを懸念する企業も多いと思います。
中谷:超短期で見れば、情報をオープンにすることで一時的にリード獲得数が落ちる可能性はあります。まだ「この会社は役立つ情報を出してくれる」という信頼を獲得できていない過渡期には起こり得ることです。しかし長期的に見れば、質の高いコンテンツを継続的に提供し、対話を通じて信頼関係を築いていけば、お客さんは必ずついてきます。一時的なリスクはあっても、長期的には必ず伸びていくと確信しています。

高広:「得られるもの(リード)」だけでなく、「支払っているもの(コスト)」にも目を向けるべきです。営業担当者が顧客対応に費やしている時間はすべてコストです。生成AIを導入し、インバウンド対応が対話型AIに進化すれば、この「支払うコスト」は劇的に減ります。人間が行っていた「説明時間」というコストをAIに置き換え、削減できた人的リソースをより生産性の高い戦略に振り分ける。これこそがAI導入の真のインパクトです。
日本企業こそ「最も生成AI活用に適している」
MZ:日本企業が生成AIを活用して顧客体験を変えるポイントはどこにあるのでしょうか?
高広:日本の営業には、新規獲得よりも既存顧客との関係性を重視する文化が根付いています。「話をしながら関係を作り、モノを買ってもらう」というスタイルは、江戸時代の呉服屋から続く日本型の商売の得意技です。特にBtoBの世界では顕著ですが、この日本のビジネスモデルにこそ、対話型AIは非常にフィットすると考えています。欧米型のセールスは、新規顧客を次々と獲得し、パイプラインを機械的に進めていくスタイルなので、根本的に異なります。
中谷:私もアメリカに住んで感じますが、欧米の過剰な分業制は、顧客体験としては分断を生みがちで、決して良いものとは限りません。個人的には、一人の担当者が寄り添う日本の「THE 営業」が好きですし、良い面がたくさんあると思っています。ただ、その良い面にフタをしてしまうような構造的な非効率性があるのも事実です。AIの力で、日本の営業が持つ「良さ」を引き出しつつ、効率化を図れたら最高ですね。
高広:欧米では契約(クロージング)が終われば、その後のサポートは別部門に移管されますが、日本の営業はその後のフォローも含めて一人が担当しますからね。文脈を理解するAIとの相性は日本のほうが良いはずです。

AI時代、営業とマーケティングの境界線は消滅する
MZ:最後に、AIが当たり前になった世界で、BtoBマーケティングと営業との連携や役割はどう変化していくとお考えですか。
中谷:製品の「最初の説明」のような部分はAIに置き換えられ、そこはマーケティング部門の管轄になるでしょう。営業の役割の一部はテクノロジーに吸収され、領域が凝縮されていくと考えます。その結果、営業にはより「人」としての価値が求められます。コミュニケーション能力や人間的な魅力、そして「人と人との意思決定の難しさ」といった、AIでは対応しきれない領域に、フォーカスされていくのではないでしょうか。
高広:実は私は、中谷さんとは少し違うアングルで見ています。日本型のモデルでは、いっそのこと「マーケティング」という部署をなくし、すべてを「営業組織」の中に統合すべきだと考えています。
欧米は、マーケティングとセールスの分業が進んでしまったことで起きているコンフリクト(仲違い)を解消するため「セールスとマーケティングの統合」が議論されますが、日本では元々、営業企画や営業推進といった部署がマーケティング機能の一部を担ってきました。だから「営業」という大きな組織を作り、その中で役割分担をすればいいのです。たとえば、プロダクトマーケティングやデータ活用(MarTech)の機能などは、営業企画が持てばいい。「マーケティングが遅れているから部署を作る」のではなく、すべての機能を「営業」という大きな枠に放り込んでしまうほうが、日本のビジネス文化には合っています。
顧客との関係性が重視される日本では、組織間の壁を作るよりも、営業という一つの組織内で情報を共有し、顧客対応に一貫性を持たせるほうが、健全なサイクルを生み出すと思うからです。
MZ:非常に示唆に富むお話でした。最後に、これからのBtoBマーケターへメッセージをお願いします。
中谷:今日の議論の根本にあるのは「お客さんとの等価交換」です。製品やサービス、そしてマーケティング情報に関しても、お客さんからいただくデータに見合うだけの「価値」を提供できているかを問い直すことが重要です。「できる限りリードを集めよう」というKPI至上主義は、企業がテイカー(奪う側)になりがちです。改めて「いかに顧客に価値を提供できるか」を主軸に置く視点が大切だと思います。
高広:ビジネスにおいて最も重要なのは、その国や地域の「慣習や文化」の理解です。BtoBビジネスの本質は、独自の商習慣の中にあります。新しい技術やバズワードに飛びつくのではなく、自分たちの国や産業の文化を深く理解した上で、AIという技術をどう組み込むか。その視点を持って活用を進めていただきたいですね。
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