初期仮説はあくまで地図。宝=「真の課題」を特定する分析フェーズ
戦略策定の5ステップのうち、(1)現状分析→(2)初期仮説の設定→(3)初期仮説の検証を、連載の第3回・第4回でお話ししました。今回は、戦略策定において最も重要だと私が考えている「(4)課題設定」について掘り下げます。
<戦略策定の5ステップ>
| カテゴリ | ステップ | プロセス |
| 戦略策定 | (1)現状分析 | 現状分析の解像度を限界まで上げ、マーケットにおける構造とゲームルールを把握する |
| (2)初期仮説の設定 | 現状のマーケット構造とその中に潜むゲームルールから課題を見つけ、初期仮説を立てる | |
| (3)初期仮説の検証 | 初期仮説を数値で検証して解像度を高め、仮説の確度を上げる | |
| (4)課題設定 | 確度を上げた仮説を基に、問題を引き起こす本質的な課題を特定する | |
| (5)筋と数値設計 | (1)〜(4)の情報を基に勝ち筋を創り、強みを活かした戦略として勝てるかを数値で示す |
初期仮説の検証の結果、「この筋は深掘りすべきだ」と判断できたら、ここから課題設定をしにいくための“本格的な分析”に着手します。
ここまで考えてきた初期仮説は、言うなれば「宝のある場所の方角」を決めることでした。ここからは、その方角の中で「宝=課題」が具体的にどこに埋まっているのかを、データとファクトを掘りながら特定していくフェーズです。
この段階で私が特に意識しているのは、「何か観点を見落としているのではないか?」という前提を、あえて持ち続けることです。ネガティブに聞こえるかもしれませんが、自分たちの仮説が“正しい”と信じて分析を進めるよりも、「初期仮説はいつも外れる」と疑いながら進めたほうが、違和感に気づける確率が上がるからです。
実際、仮説への思い込みが強いと、新たな観点や論点を素直に受け取りづらくなり、気づかぬうちに「初期仮説が正しいことの証明」に走ってしまうことがあります。大事なのは、追加で分析すべき観点や論点を漏らさずに拾い、真なる課題に辿り着くことです。だからこそ私は、常に「自分の仮説には見落としがある」と疑いながら進めるスタンスを大切にしています。
「問題」を解いてもイタチごっこ。「課題」の定義が戦略の勝率を決める
では課題設定のプロセスに入る前に、まずは「課題とは何か」を定義します。私の定義では、課題とは「問題を引き起こす再現性のある原因」です。
「課題」と「問題」は似た言葉に見えますが、ビジネスでは大きく異なります。私は、現象・問題・課題を次のように分けて捉えています。
| 分類 | 内容 |
| 現象 | 目の前に起きている事象(例:売上低下・炎上・離職増加) |
| 問題 | 現象として起きているマイナスの事象 |
| 課題 | 時間軸が発生しており、問題を起こす可能性のある原因 |
言葉を解像度高く定義しておくと、課題設定の精度が上がります。ここを曖昧にしてしまうと、「自分は今何を問いとしているのか」が分からなくなり、議論も施策もブレやすくなります。
まず「現象」。これを捉えるには、常に観察することが重要です。観察とは、物事の状態や変化を客観的に注視し、事実をありのままに捉えること。言い換えれば「現状」そのものです。
次に「問題」。問題とは、現象のうち自分たちにとって“マイナス”になっているものを指します。プラスなら問題にはなりません。マイナスの事象として顕在化しているのが問題です。
そして最後が「課題」。課題には「時間軸」があり、同じ問題を再発させうる構造的な“原因”と言えます。放っておくと、過去から続く構造によって未来でも再発してしまう。つまり課題は、過去〜現在〜未来にまたがって存在するものだと捉えられます。
ここで最も気をつけたいのは、「問題」に対して対策を打ってしまうことです。再現性のある原因が別にある以上、対症療法を繰り返してもイタチごっこになるだけです。問題が今後も発生しうる構造のまま残るからです。従って、問題ではなく「課題」を捉えて解決していくことこそが、戦略の起点だと覚えておいてください。
では、身近な例として『ワニワニパニック』で分類してみましょう。複数の穴から素早く出てくるワニを、リアルタイムに叩いて点数を獲得するゲームです。何度叩いても、ワニが次々に出てきます。
これを当てはめると、現象と問題はこうです。
| 分類 | 内容 |
| 現象 | 複数の穴からワニが素早く次々と出てくる |
| 問題 | ワニが出てきて引っ込むスピードが速く、叩けないこと |
では「課題」はなんでしょうか。
問題に対処しようとすると、「穴に引っ込む前に素早く叩く」が対策になります。しかし、ワニは素早く、途中からは同時多発的に出てくるため、スピードでは追いつかない。まさにイタチごっこです。問題が何度も発生してしまうのは、そこに構造的な再現性のある原因が潜んでいるからです。
では、なぜ「叩けない」のか。何がその構造を引き起こしているのか。私なら、ここで「ワニが出てくるタイミングが読めないこと」を課題仮説として置きます。もちろんゲームなので解決困難ですが、こう定義すると対策の方向性は変わります。「反射神経で叩く」のではなく、「出現パターンを分析して読みを作る」という筋が見えてきます。
このように言葉を定義することは、個人だけでなく組織にも効能があります。表層の“問題”に飛びつかず、構造的な“課題”を深掘りする習慣が付くこと。そして、「今やるべきこと(HOW)」の前に「なぜ起きたか(WHY)」を考える思考が定着することです。 現象・問題・課題を分けて捉えることこそが、戦略の筋の良さを高める鍵だと覚えておいてください。
この分類ができるか否かが戦略の質を決めると言っても過言ではありません。習得には場数が必要ですが、思考のショートカットとして有効な“2つの問い”があります。迷った際は、これをチェックリストとして活用してみてください。
【問い1】その「課題」は、時間軸に属するものか?
・問題とは、“現在”に表出した症状(例:売上が減っている)
・課題とは、“過去~現在~未来”にまたがる構造(例:当時の売上を支えていた主要顧客が高齢化し、購買行動が変わって買わなくなっている)
→時間軸を意識すると、「今起きている現象」ではなく「長期的に構造化されたズレ」を課題として捉えやすくなります。
【問い2】その「課題」は、「構造的な再現性」を持つか?
・その問題を解決したら、次は起こらない構造になるか?
(例:売上が減っているから営業人員を増やせば、売上は“ずっと”回復するのか?)
→課題は、問題を再発させる構造的な原因です。それを解決すれば、未来に発生しうる問題を“予防”できると言えます。
私は常にこの2つの問いで分類しています。だからこそ、課題を「時間軸があり、構造的な再現性を持つ原因」と定義しているのです。戦略を考える前提となるこの「課題を捉える力」を、ぜひ武器として持ち帰ってください。
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