「最高の関係」=「ゴルフ接待」ではない。ABMの誤解と本質
ABMとは、「特定の重要顧客と最高の関係を築くことで、強い顧客基盤を構築し、収益を最大化することを目的とした全社的なマーケティング戦略」と定義される手法だ。ABMでは、自社の利益につながる顧客を見定めて、そこに注力したアプローチをしていくことで、売上やLTVを効率的に上げていくことを目指すことになる。
垣内氏は、「『自分たちはABMを採用している』と語る企業の話を聞いていると、『それは本当にABMなのだろうか?』と疑問を抱くこともある」と切り出し、その例を挙げた。
- ターゲット企業のリストを洗い出している
- 大口顧客5社からの売上が大半を占めている
- 営業担当の資料作成をサポートしている
ターゲット企業を洗い出して片っ端からダイレクトメールを送る方法は、昔から様々な企業でなされているだろう。また、たった数社の大口顧客で売上が構成されているのは、ターゲットを絞った結果ではなく、単に販路が広がっていないだけという可能性もある。そして、資料作成のサポートは、果たして戦略的なマーケティングと言えるだろうか。
こうした「なんとなくの関係構築」や「単なる営業アシスタント」と一線を画すため、庭山氏はABMにおけるゴールの定義を明確にする。
「『特定の重要顧客と最高の関係』とは、一緒にゴルフへ行くことではなく、様々な商材・サービスを買ってもらえるということです」(庭山氏)
ABMが向いていない企業の条件
その上で庭山氏は、「すべての企業がABMに取り組めるわけではない」とも述べる。その条件の1つは「自社の商品が1つしかない」、つまりクロスセル商材を持っていない場合だ。
「たとえば会計ソフトのような商品を扱っている場合、一度導入されればリプレイスまでの数年間は売るものがなくなってしまいます。顧客の規模(オポチュニティ)次第では1つの商品で数年間対応できる場合もありますが、基本的には2つ以上の商材がないとABMには向きません」(庭山氏)
また、顧客企業の会社規模や意思決定プロセスも判断要素になりうる。顧客がいわゆる「三ちゃん町工場」と呼ばれるような家族経営の企業である場合、社長と関わりを持っていればビジネスチャンスを取りこぼすことはない。この場合マーケティングは不要で、「アカウントベースでのセールス」をすれば良いのだ。
逆を言えば、部署や事業所が複数あり、キーパーソンが何人も存在するような大企業が相手であれば、組織的に攻略するABMが必要となる。
庭山氏の解説の中で出てきた「アカウントベースでのセールス」という言葉に、垣内氏は反応した。昔から日本企業が行っている「既存の大口顧客へのルート営業」は、まさにそのアカウントベースでのセールスのように見える。
では、従来のルート営業と、いま議論しているABM(アカウント・ベースド・マーケティング)は何が違うのか。垣内氏は、多くの企業が抱く疑問を庭山氏にぶつけた。
その質問に対し、庭山氏は「営業についてちょっとおもしろい結論を見つけましてね」と、逆説的な見解を示した。
