10年分のデータを全分解して見えた「不都合な真実」と「逆転の鍵」
そこで、過去10年分まで時系列を広げてデータを洗い直しました。すると、不都合な真実が見えてきます。長期で見ると、広告認知率の増減とKPI(指名検索)には相関がほとんどなかったのです。さらに、自社のGRP投下量が競合を上回っている時期でさえ、競合のシェアが伸びている期間がありました。「量は勝っているのに負けている」。これは構造的な異常です。
「素材(質)でも量でもないなら、届け方に問題があるのではないか」。そう考え、各TV局への放映配分、時間帯、曜日といった「枠の買い方」を全分解して比較しました。すると、レポート上は「良好」とされていた数値の裏側で、競合とは明確に異なる買い方をしていたことが判明したのです。
ここでようやく、真の課題仮説が浮き彫りになりました。「投下しているCMが、競合相対でターゲットカスタマーにリーチしていないのではないか」。再度、整理し直すとこうなります。
| 分類 | 内容 |
| 現象 | 2~3年の時系列で第一想起率とブランドクエリが毎年2~3ptずつ奪われている |
| 問題 | 広告投資額が拮抗し、自社が毎年2~3ptカスタマーの利用シェアを奪われていること |
| 課題 | 投資しているCMが、競合相対でターゲットカスタマーにリーチしていないこと |
| 対策 | TVCM投資枠の買い方を見直して、ターゲットカスタマーにリーチすること |
※本当はここに、もっと解像度の高い数値が入りますが、抽象化しています。
この仮説に基づき、視聴質データ(REVISIO社提供)を活用して投下枠を最適化した結果、第一想起率などのKPIで競合との差を大きく広げ、シェアを奪還することに成功しました。
もし表層的な「問題(シェア低下)」だけに反応していれば、単に広告費を増額するという消耗戦を選んでいたでしょう。それでは競合も追随し、問題は再発します。構造的な課題を特定するには、時系列を限界まで伸ばし、圧倒的なデータ量で「違和感」の正体を突き止める執念が必要です。正しく課題を捉えさえすれば、正しい戦略はおのずと見えてくるのです。
まとめ:課題設定こそが戦略。問題を片付けるのは「戦術」に過ぎない
今回最もお伝えしたかったのは、「戦略の成否は課題設定の精度でほぼ決まる」という一点です。課題を解決するのが戦略であり、目の前の問題を片付けるのは戦術に過ぎません。
戦略を立てる際は、「現象→問題→課題→対策」の階層で整理し、安易にHOW(施策)へ逃げないこと。特にマーケティングでは、「何をやるか」よりも「なぜ起きているのか」を問い続ける姿勢が成果を分けます。
課題とは、数字だけでなく、現場の制約や暗黙のルールを含めた“ファクトの集合体”です。違和感を起点に深掘りし、解像度を高めれば、戦略は驚くほどシンプルになります。次回は、特定した課題を「勝ち筋」と「数値」に落とし込むステップに進みます。
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