顧客とつながり続ける「CX-Connect」
安成:杉浦さんは2024年1月にdentsu Japanの「CXプレジデント」に就任されました。まず、役割について教えてください。
杉浦:マーケティングを顧客軸で考えたとき、クライアント企業から求められるのは、あらゆる接点での顧客体験をより良くすることです。dentsu Japanには広告やクリエイティブ、ストラテジー、データ/テクノロジーなど様々な専門領域がありますが、CXはそのすべてが交わるため、それぞれの専門性をつないで価値を提供することが必要です。その取り組みを集中的に進めることが、CXプレジデントの役割だと考えます。
dentsu Japan全体でも様々な企業が存在していますが、クライアント企業に伴走して施策の実行までやり切る上で、専門分化している会社をどう束ねるかが重要です。それによってグループとしての最大価値を届けられると思います。
安成:専門性を持ったチームや人、サービスをつなげて、CX向上を目指すのですね。dentsu JapanがCX領域において掲げる「CX-Connect」にもConnect=つなげるという言葉が使われていますが、どのような考え方なのでしょうか。
杉浦:CX-Connectには「クライアント企業が顧客とつながり続けること」を目指すという意味を込めています。顧客接点がデジタルによって多様化し、企業が顧客と直接つながれる環境になりました。ブランドの認知から購入後まで、顧客とつながり続けることができれば、データ活用によって適切なタイミングで顧客に合った体験を提供できるという考え方です。
CXプレジデントが語る、マーケティングの長年の課題と原因
安成:ここ数年で顧客接点の在り方が大きく変化した一方、CRM(顧客関係管理)の重要性は以前からずっと意識されています。杉浦さんはマーケティングの長年の課題について、どう見られていますか。
杉浦:DXが注目される中、システム投資をした企業は多いですが、事業に大きなインパクトを与えられず、縮小均衡(バランスを維持しながら規模を小さくしていくこと)で終わっていくケースがよく見られます。クライアント企業と話していても、アプリやWebサービスを作ったがアクティブ会員数が伸びない、システム導入後の運用がうまく回らない、CRMツールを導入してもメルマガを送るだけで終わっている、DXの効果が業務効率化にとどまっているといった課題をよく伺います。
顧客のインサイトを読み解いて喜ばれる体験を提供し、共感を得てファンになってもらうという本来のCRMを実行できていない企業が少なくないのが現状といえます。その大きな理由は、人手不足と組織の分断です。その両方が複雑に絡み合い、マーケティング業界の慢性的な課題となっているのです。
この課題に対して、dentsu Japanだからこそ貢献できることがあると考えています。たとえば、デジタルに精通したプランナーやクリエイター人材を数千人規模で擁していますから、アセットがあり人材も豊富である強みを活かして、構造的な課題の解決を目指したいですね。
安成:dentsu Japanでは、クライアント企業の組織を変えるサポートも行うのですか。
杉浦:はい。前述の課題に危機感を持つクライアント企業も多く、デジタルやCXというテーマで横串の組織を作るケースが増えています。組織を変えるには時間もかかりますから、伴走できるパートナーが求められていると感じます。
支援の方法も組織開発からプロジェクトマネジメント、データ分析、インハウス運用など様々です。いかに企業と伴走できるかが私たちの力の見せどころであり、頑張らないといけない部分ですね。