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『MarkeZine』(雑誌)

第114号(2025年6月 最終号)
特集「未来を創る、企業の挑戦」

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MarkeZine Day 2025 Spring

セブン銀行の全社データ活用が進む理由とは?DMOがもたらした成果

 データ活用はどの企業にとっても重要な課題だ。白紙からのスタートではない限り、散財する既存のデータやシステムがある。どうやって必要なデータを集めて、活用できる状態にするのか、社員の活用をどうやって促すのかーー「MarkeZine Day Spring 2025」で、DMO(データマネジメント・オフィス)としてセブン銀行の取り組みを率いる西嵜靖子氏(※コーポレート・トランスフォーメーション部 CX推進グループ データマネジメントオフィス 調査役)氏が明かした。※2025年3月時点

小売業初の金融機関として誕生したセブン銀行

 「セブン-イレブンにATMがあったらいいな」というお客さまの想いから2001年に誕生したセブン銀行。小売業が展開する金融機関としては初で、現在では全都道府県に2万8,000台以上のATMを展開している。ATMと繋がる提携先は670社以上、1日約270万人が利用する「社会インフラの1つ」に成長した。

株式会社セブン銀行 コーポレート・トランスフォーメーション部 CX推進グループ データマネジメントオフィス 調査役 西嵜 靖子氏※2025年3月時点
株式会社セブン銀行
コーポレート・トランスフォーメーション部 CX推進グループ データマネジメントオフィス 調査役
西嵜 靖子氏※2025年3月時点

 ここ数年のキャッシュレス化の進展など世の中の変化に対応するため、2023年9月には新サービス「+Connect」(プラスコネクト)を開始した。ATMを単なる現金取引の場から、様々な手続きや認証が可能な「あらゆる手続きの窓口」へと進化させている。

 西嵜氏が所属するDMOは、セブン銀行が立てた2021年から2025年までの中期経営計画が土台にある。ここで同社は「組織とビジネスモデル・プロセスの両面での企業変革の遂行」を掲げ、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)部を組成しデータ活用を促進する。

 目指す姿は、CX部が全体をリードしながら各部と協業し、最終的には各部が自走する状態だ。そこで、全社横断で企業変革を促進する専門のチームとして2022年4月、DMOを組成し活動を開始した。

システム担当と連携して全社データ活用を実現

 DMOのゴールは、「全社のデータ活用状態を作る」こと。各現場がデータを日常的に使えるよう、必要な整備と支援の仕組みを担っている。

 「データ活用は、ツールを渡して”使ってください”といえば進むというものではない」と西嵜氏は語る。そこでDMOの活動は、システム担当としてデータ統合やデータ管理を受け持つDPF(データプラットフォーム)チームと連携して進めている。DMOチーム自身は、活用促進担当としてデータ整備、コミュニティ運営・研修、各部課題解決の伴走、データデザイン、データガバナンスなどを責任範囲とする(※2025年3月時点)。

 「どれか1つでも欠けるとうまくいかない。同時並行で進めるところが重要」と西嵜氏はポイントを紹介する。

 活動開始から約3年、西嵜氏は、同時並行で進めてきた活動を振り返った。最初に、データを使うカルチャーの醸成では、社内外の活用事例を紹介したり、社長が事例に「いいね」をつけて称賛したりするといった取り組みを行った。データ活用への意欲が高まってきたところで、スキルの育成として頻度高く研修を実施。データマートやデータ説明書などの使いやすいデータの整備と提供を進めた。

 活用を定着させるために、人材面では分析担当と一般社員(参照ユーザー)の2軸で育成を進めたという。これにより、「業務を熟知する現場に分析担当がおり、その部の全社員がデータを見てアクションに繋げる状態」を目指したという。

課題だらけからスタートしたマーケティングでのデータ活用

 全社データ活用の定着に向けた取り組みを進めているセブン銀行、西嵜氏は、マーケティングにフォーカスしてアプローチを説明した。

 セブン銀行がマーケティングのデータ活用で目指すことは、「自社データとグループの購買データを活用する、効果的・効率的なマーケティング」「顧客単位でデータを活用する顧客に寄り添ったマーケティング」と西嵜氏は説明する。

 具体的には、「顧客の欲しいタイミングで情報を提供」「顧客にあったメディアでアプローチ」「施策結果の活用と改善サイクルの高速化」が目指す姿となる。

 しかし、そのためにはシステムごとにデータが散在している、データの収集―加工―配信に時間がかかる、スキルの壁など、さまざまな課題があったという。

 そのような課題に対して、1)データプラットフォーム(DPF)へのデータ統合、2)データマートの作成と自動連携などの取り組みで対応していった。

 1)では、データの連携のために、DPFで標準化加工して一元管理することで、即活用できる環境を構築した。2)では、ユーザーがデータの事前処理をせずとも簡単に使える形に加工したデータマートを作成した。使用されているデータには、データレイクにあるマスターデータ、トランザクションデータなどが含まれている。

 このように、データマートとして顧客単位で各情報をまとめることで、ユーザーがすぐに利用できるようにした。それだけでなく、「データ説明書」をつけた。これについて西嵜氏は、「ビジネス的にどのような意味なのか、自分が知りたい情報がそのデータでわかるのかなど、データ活用時の調べる負荷を軽減する」と目的を説明した。

逆引きの「データ要件定義」は重要

 データ活用のための環境はどのように整備したのだろう。西嵜氏は取り組みを6つ紹介した。

 1つ目として、業務運用のためのデータはあるもののマーケティングなど継続的なビジネス活動に必要なデータが取れていないという課題に対して「データ要件定義」を行った。

 開発の時点でシステムに組み込まない限り取れないデータを取得するため、「開発工程で予め必要なデータを想像しながら洗い出し、実装する」という。このデータ要件定義について、新サービスローンチ後のデータ活用をイメージしてもらい、必要なデータを洗い出すためのワークショップを開催したそうだ。

 2つ目は、中級向けの研修「データサイエンスブートキャンプ」だ。それまでの研修は初級者向けで挙手制だったが、各部の分析担当者になってもらうべく、部長推薦で6部署から各部2人が参加する業務要素の強いものにした。研修は半日研修を3日間、その後約3ヵ月かけて自分の部署で活用するBIのダッシュボードを作成してもらうハードな内容だ。

 並行して、全社員対象の初級向けにはハンズオンを揃えた動画研修コンテンツを用意し社内の研修ポータルサイトで提供した。

 初級、中級ともに、実務でイメージでき業務活用できるようにこだわった点が、「内製のプログラムであり、社内のデータを使っていること」と西嵜氏は説明した。

 3つ目は、各部課題解決の伴走だ。具体的には、各部がOODAループ(Observe:観察、Orient:状況判断、Decide:意思決定、Act:実行の順で意思決定と行動をする方法)を回すために業務データを負荷なくタイムリーに参照できるよう、各部のダッシュボードの作成を伴走支援している。数ヶ月単位での支援になるため、各部からの要望や優先度により段階的に進めているという。

次のページ
全社員に経営ダッシュボードを配信、起きた変化とは?

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この記事の著者

末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

フリーライター

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/07/09 08:30 https://markezine.jp/article/detail/48870

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