なぜ今「個」の力が鍵となるのか?パルのSNSを中心としたデジタル戦略
──まず、なぜ販売スタッフの個性を生かした顧客体験作りが、業界を超えて必然になっているのでしょうか?
堀田(パル):テクノロジーの進化、特にスマートフォンの普及が背景にあります。お客様の情報接触の最大のポイントがSNSになる中で、SNSは「共感」を重視する設計に変わってきました。
堀田(パル):企業やブランドのアカウントは、ブランディングの観点からどうしても形式的になり、お客様との距離感にも難しさがあります。一方、個人のアカウントは「私の使用実感」や「私はこれが好き」といったリアリティある体験を発信できます。
今のお客様はそうしたリアリティを求めており、販売スタッフ個人の発信のほうが響きやすくなっている。そこをしっかり発信することがお客様のためにもなり、我々の商品の価値も伝わると考えています。
――パルでは、販売スタッフ個人の力をどのように活用されていますか?
堀田(パル):パルのSNS戦略は2015年頃にスタートしました。現在、1800~1900人のスタッフが「インフルエンサー登録」という形で、個人を主語としてSNSや自社サイトでのコーディネート、ブログ投稿など発信活動をしています。
全員のフォロワー数を足すと、2300万人規模です。その成果は数字にはっきりと表れており、取り組みを開始してからの約8年間で、EC売上は50億円から500億円へと10倍に伸長しました。また、SNSが伸びれば当然、店舗に来てくださるお客様も増えますし、ECでの売上といった計測できている直接的な成果以外にも多様な効果があると感じています。
7,000名の個の力を解放する、資生堂のチャレンジ
──一方、資生堂では、販売スタッフの個の力をどう捉え、活用されていますか?
笹間(資生堂):資生堂の従来モデルは、マス広告で認知を広げ、店舗に訪れたお客様を美容部員が「待つ」形でした。全国の店頭で活動する美容部員(PBP=パーソナルビューティーパートナー、以下PBP)は7,000名弱おり、それぞれの接客が顧客との重要なタッチポイントとなっています。
笹間(資生堂):しかしメディア環境の変化から、PBPの力を店頭の接客カウンターに留めておくのはもったいないという意識が生まれ、このPBPの個の力をどう解放し、活用するかが課題でした。
そこでまず、SNSを中心としたデジタル活動を専任で行う「オムニPBP」というチームを立ち上げました。オムニPBPの活動は、お客様にフォロワーになっていただき、日常的に情報に触れてもらうことでエンゲージメントを深め、リピートにつなげることを狙いとしています。
現在は、30~50人体制で、SNS投稿やライブ配信、ライブコマース、オンラインセミナーなどいろいろな活動をしています。トップのオムニPBPのフォロワー数は20万人超えで、このチームだけでフォロワー総計は130万人規模に達しました。将来的には店頭で活動する多くのPBPによるデジタル活用を目指しています。

笹間(資生堂):とはいえ、Eコマースの売上が伸びても、お客様のLTV(顧客生涯価値)の向上やクロスセルの提案には、PBP個人の介在価値=カウンセリング要素が不可欠です。PBPがデジタルを活用して「自分の顧客を持つ」ことこそが、今後のビジネスに大きくプラスになると考えています。これは単なる情報発信ではなく、デジタル上の「接客」なのです。

