「普段コンビニでお酒を買わない層」のインサイトをどう突いた?
高山:本日は「有頂天エイリアンズ」という大ヒット商品が、どのようにして生まれたのか、その背景にある戦略を深掘りしていきたいと思います。まずは、なぜこの商品を開発することになったのかお話しいただけますか。
畠中:きっかけは、セブン-イレブンとして「松竹梅」の品揃えを強化していこうという方針にありました。商品の「梅」はお客様の生活防衛意識に寄り添う手頃な価格の商品、「竹」は定番のナショナルブランド商品です。そして今、我々が力を入れなければならないのが「松」の商品です。これは少し価格は高くても、「この商品があるからセブン-イレブンに行きたい」と思ってもらえるような、明確な来店動機となる高付加価値商品のことです。
畠中:一方、ビール市場を見ると、日本の市場は「ラガービール」が圧倒的シェアを占めており、それ以外のクラフトビールのようなスタイルはわずか数%に過ぎません。しかし、世界に目を向ければ多様なビアスタイルが楽しまれており、日本でも過去10年でクラフトビール市場は約4.6倍に成長しています。ここに「松」の商品としての大きな可能性を感じ、ヤッホーブルーイングさんとタッグを組むことにしました。
本田:我々ヤッホーブルーイングのミッションは「ビールに味を!人生に幸せを!」です。画一的なラガーだけでなく、多様なビールの楽しさを伝えていきたい。しかし、クラフトビールの飲用者はビールユーザー全体のまだ24%程度に過ぎません。そこで今回の「有頂天エイリアンズ」では、既存のビールファンではなく、あえて「普段コンビニでお酒を買わない層」や「クラフトビールに対して興味はあるが飲んでいない層」をメインのターゲットに設定しました。
高山:結果として、「有頂天エイリアンズ」購入者の約35%が新規顧客であり、また若年層の購入比率は2.3倍という成果が生まれました。「若者のビール離れ」と言われているなかで、このような成果を出せたのはなぜなのでしょうか?
本田:正直に申し上げますと、若年層にこれほど支持されたのは「ほぼ結果論」なんです。私たちが戦略として設定したターゲットは、特定の年代ではなく、あくまで「普段コンビニでお酒を買わない層」であり、「クラフトビールに対して興味はあるが飲んでいない層」でした。
リサーチを進めると、彼らは「生活充実欲求は高いが、失敗したくない」という強い心理を持っていることがわかりました。SNSなどで良いものを見つける感度は高い一方で、自分のお金でハズレを引くことは極端に恐れる。また、昨今の経済状況から「メリハリ消費」の傾向が顕著です。普段の生活用品は節約するけれど、本当に価値を感じる体験や「自分へのご褒美」にはしっかりとお金を払う。この層に響くのは、単なる「安くて手軽なビール」ではなく、「人生を充実させてくれる本物の体験」だったのです。
そこで私たちは、源流の価値を感じられる「本物」でありながら、コンビニで手軽に手に取れるものを作ることにしました。
目指したのは「蒙古タンメン中本」の立ち位置
高山:若年層やライト層をターゲットにする場合、一般的には「苦味を抑えて飲みやすくする」といった、いわゆる“入門編”のような商品設計になりがちです。しかし、今回のお話を聞くと、アプローチが真逆ですね。
本田:たとえば若者向けだからといって「若者向けの商品」を作ると、彼らは手に取ってくれません。ライト層も同様です。彼らが求めているのは、分かりやすく加工された入門編ではなく界隈のプロや愛好家が認める「本物」だからです。
そこで私たちが掲げたコンセプトは、「近くて便利なオーセンティック(本物)」です。コンビニという身近な場所で、本格的な体験ができること。この戦略を私たちは社内で「蒙古タンメンの位置になること」と呼んでいました。
高山:セブン-イレブンの名作カップ麺「蒙古タンメン中本」ですね。これは非常におもしろいメタファーですが、具体的にどういう意図だったのでしょうか?
本田:「蒙古タンメン中本」のカップ麺は、ブランドの個性である強烈な辛さという尖った特徴がありファンやラーメン愛好家に愛されながら、多くのライト層にも支持されています。「あの中本が食べたいからセブン-イレブンに行く」という、強力な来店動機になっている商品です。
私たちのビールも、「なんとなく棚にあるから買う」のではなく、「有頂天エイリアンズがあるからセブン-イレブンに行こう」と思ってもらえるような、指名買いされる存在を目指しました。
中途半端に丸めるのではなく、あえてエクストリーム(極端)な価値に振り切ることで、まずはクラフトビール愛好家たちからの「お墨付き」を得る。その評価が信頼となって、失敗したくない層の興味・関心を惹きつける。この順番が重要だったのです。
