定量データだけでは不十分、直面した「CRMの壁」
エーアンドエスは、サザビーリーググループの中で「agete」や「NOJESS」といったジュエリーブランドを展開する企業だ。同社は2022年頃から本格的な会員分析に着手。MA導入やアプリリプレイスといったCRM施策を推進した結果、「会員化率が50%台から80%弱へ向上」「年度間継続率150%」など、定量的な成果を着実に上げていた。
しかし、ジュエリーという商材の特性が、データ活用の次なる課題を浮き彫りにした。同社の顧客データ分析によると、「顧客の7割は年間4万円以下の購買」「顧客の8割は年間1回の購買」という実態があった。購買サイクルが長く、頻度も低い。それは、ジュエリーが極めて嗜好性が高く、購入の背景には合理性だけでは測れない「非合理な心の動き」が存在することを示唆していた。
「お客様の心の動きが購入に大きく影響していると感じ、そこへの対策が必要だと思いながら、決定的な方向性が見つからなかった、というのが正直な状況です。悩みながら施策を回していました」(飯塚氏)
「何もしなくても買ったのでは?」役員の一言が変えた視点
転機となったのが、ある経営会議での出来事だった。飯塚氏が離反客向けのポイント施策と成果を共有した際、「そもそも、そのお客様たちは何もしなくても買ってくれたのではないか」という本質的な問いが投げかけられたのだ。
「正直に言うと、私自身も『お客様は本当にポイントを動機に購入されているのだろうか』という疑問を抱いておりました。ジュエリーという商材の特性を考えれば、価格やポイントといった合理的な訴求だけでなく、よりお客様のインサイトに寄り添うべきではないかと、改めて考えるきっかけになりました」(飯塚氏)
ここから飯塚氏は、単なる購買促進から「顧客インサイトの探求」へと大きく舵を切った。顧客の内面を深く理解し、一人ひとりに寄り添うアプローチの実現を目指すことにしたのだ。
