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EC売上10倍のパルと、7,000人の個を解き放つ資生堂。AIQと語る「売れるSNS接客」の体制作り

 スタッフの個性を活かしたインフルエンサー化は、「認知」の獲得にとどまりません。アパレル大手のパルは、スタッフの個人SNS活用を推進し、8年間でEC売上を50億円から500億円へと10倍に成長させる驚異的な成果を上げています。一方、資生堂ジャパンは全国約7,000名の美容部員の力をデジタル上で解放し、新たな接客モデルの構築に挑んでいます。 なぜ両社は「個の力」でビジネスを動かせるのか? それを裏側で支えるAIQのプロファイリングAI技術と、巨大組織を動かすための「仕組み」とは。SNSを「広報」から「売れる接客」へと変革させるソーシャルセリングの神髄を3社が語ります。

なぜ今「個」の力が鍵となるのか?パルのSNSを中心としたデジタル戦略

──まず、なぜ販売スタッフの個性を生かした顧客体験作りが、業界を超えて必然になっているのでしょうか?

堀田(パル):テクノロジーの進化、特にスマートフォンの普及が背景にあります。お客様の情報接触の最大のポイントがSNSになる中で、SNSは「共感」を重視する設計に変わってきました。

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株式会社パル 取締役 専務執行役員 堀田覚氏

堀田(パル):企業やブランドのアカウントは、ブランディングの観点からどうしても形式的になり、お客様との距離感にも難しさがあります。一方、個人のアカウントは「私の使用実感」や「私はこれが好き」といったリアリティある体験を発信できます。

 今のお客様はそうしたリアリティを求めており、販売スタッフ個人の発信のほうが響きやすくなっている。そこをしっかり発信することがお客様のためにもなり、我々の商品の価値も伝わると考えています。

――パルでは、販売スタッフ個人の力をどのように活用されていますか?

堀田(パル):パルのSNS戦略は2015年頃にスタートしました。現在、1800~1900人のスタッフが「インフルエンサー登録」という形で、個人を主語としてSNSや自社サイトでのコーディネート、ブログ投稿など発信活動をしています。

 全員のフォロワー数を足すと、2300万人規模です。その成果は数字にはっきりと表れており、取り組みを開始してからの約8年間で、EC売上は50億円から500億円へと10倍に伸長しました。また、SNSが伸びれば当然、店舗に来てくださるお客様も増えますし、ECでの売上といった計測できている直接的な成果以外にも多様な効果があると感じています。 

7,000名の個の力を解放する、資生堂のチャレンジ

──一方、資生堂では、販売スタッフの個の力をどう捉え、活用されていますか?

笹間(資生堂):資生堂の従来モデルは、マス広告で認知を広げ、店舗に訪れたお客様を美容部員が「待つ」形でした。全国の店頭で活動する美容部員(PBP=パーソナルビューティーパートナー、以下PBP)は7,000名弱おり、それぞれの接客が顧客との重要なタッチポイントとなっています。

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資生堂ジャパン株式会社 CSO 笹間靖彦氏

笹間(資生堂):しかしメディア環境の変化から、PBPの力を店頭の接客カウンターに留めておくのはもったいないという意識が生まれ、このPBPの個の力をどう解放し、活用するかが課題でした。

 そこでまず、SNSを中心としたデジタル活動を専任で行う「オムニPBP」というチームを立ち上げました。オムニPBPの活動は、お客様にフォロワーになっていただき、日常的に情報に触れてもらうことでエンゲージメントを深め、リピートにつなげることを狙いとしています。

 現在は、30~50人体制で、SNS投稿やライブ配信、ライブコマース、オンラインセミナーなどいろいろな活動をしています。トップのオムニPBPのフォロワー数は20万人超えで、このチームだけでフォロワー総計は130万人規模に達しました。将来的には店頭で活動する多くのPBPによるデジタル活用を目指しています。

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笹間(資生堂):とはいえ、Eコマースの売上が伸びても、お客様のLTV(顧客生涯価値)の向上やクロスセルの提案には、PBP個人の介在価値=カウンセリング要素が不可欠です。PBPがデジタルを活用して「自分の顧客を持つ」ことこそが、今後のビジネスに大きくプラスになると考えています。これは単なる情報発信ではなく、デジタル上の「接客」なのです。

SNSを購買の場へ進化させる「ソーシャルセリング」の仕組み

──両社のお取り組みをAIQ様はどのようにご支援されていますか?

今井(AIQ):我々が提供しているのは、SNSを「認知の場」から「購買の場」へと進化させる「ソーシャルセリング」の仕組みです。

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AIQ株式会社 Social Selling Div Senior Vice President Head 今井大貴氏

今井(AIQ):支援内容は3つあります。1つ目が、個の力の可視化とマッチングです。「プロファイリングAI(独自AI特許技術)」でスタッフの個性を分析し、「誰から買いたいか」を重視する消費者に合わせ、最適なスタッフとお客様をマッチングさせます。

 2つ目は、SNSの投稿状況や投稿内容の管理、ナレッジシェアのためのツール提供です。

 3つ目が、組織運用の伴走支援です。たとえば資生堂ジャパン様から、プロジェクト開始時に「1年で5,000人規模のSNS体制を作りたい」とご相談いただきましたが、私は「まずは熱量の高い300人から始める」ことをご提案しました。上から指示されて行う「やらされ仕事」では、SNSの熱量は伝わらず成果も出にくいからです。現在は、少数精鋭で生まれた成功体験をPBP全体に広げることを目指しています。

 この組織定着・運用支援が、我々の最大の提供価値です。SNS投稿ルール作成、炎上対策、投稿・撮影方法のレクチャー、インセンティブ設計、マネジメント支援なども、各社の課題に合わせて幅広く行っています。

 これら3つを組み合わせることで、個人のモチベーションやリテラシーに左右されずに、組織としてSNSを売上につなげる体制構築が可能となります。

テクノロジーで、販売スタッフの個の力を可視化し磨き上げ、組織力に昇華

──パルでは、販売スタッフの個の力を組織力にするために何を重要視されていますか。

堀田(パル):10年以上前から徐々に仕組みを作ってきた中で、重視しているのは「教育(ノウハウ提供)」「評価制度」「データ活用」の3点です。教育は、マニュアルの作成や研修の整備、教える人のブラッシュアップ、個人のスキルアップのための1on1や責任者同士の交流などです。評価制度は「会社が成果として認める」との意思表示です。スタッフのモチベーションと収入をアップさせるためにインセンティブを取り入れています。

 そして、特にデータは最大限の活用が不可欠です。SNS運用でいきなりフォロワーを増やすのはハードルが高く、苦しい時間が続くものです。そのため、日々の「保存数が増えた」などのデータの変化に着目し、ステップを楽しみながら継続できるようにしています。

──資生堂ジャパンがPBPの個の力を組織力にする上で重視されていることは何ですか?

笹間(資生堂):弊社も大きく3点あります。1つ目は企業・ブランド・個人のアカウント総体としての「お客様とのつながりのストック(量と種類)」を増やすこと。これにより、顧客動向もわかるため、将来の組織の力になります。

 2つ目は、つながりが生む「メディア価値」です。オムニPBPの年間約5,000投稿は、広告費に換算すると40~50億円ほどの価値があると試算されています。この力があるからこそ、生まれた小さなバズを、「オールウェイズオン」で火を消さずに持続させられるのです。

 3つ目は、将来に向けた「DX/AIに手触り感のある社員の蓄積」です。自分で実際に投稿する経験を積んだ社員の増加は強みになります。かつてのパソコンやExcelのように、いち早く全員ができる状態にすることが、組織の力を向上すると考えています。

個人の力をAIで増幅するソーシャルデータの新たな価値

──AIQは、販売スタッフやPBPの個のセンスや個性、販売ノウハウ、熱量をどのようにサポートするのでしょうか?

今井(AIQ):SNSで得られたデータを、SNS以外で活用する取り組みにも一緒にチャレンジしています。たとえば、SNSの投稿内容からAIで個性を再現する技術を活用して、パルの販売スタッフの個性を反映したAIスタッフによる24時間接客の実証実験を、2023年10月に行いました。

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堀田(パル):2週間の期間限定で実施したところ1万~2万の会話が発生し、実際に売上も上がりました。ただ、ChatGPTの普及でチャットへの慣れが進んだ今、その体験を超えていく必要があります。次の課題は、お客様のことをより深く知った上で、その方に本当に意味のある提案をしていくこと。スタッフが自分のAIを育てるほど、成果につながる仕組みが生まれるのが望ましいですね。

──そうした個の活動によって集まる「データ」をどう活用しているのでしょうか?

今井(AIQ):今、両社とチャレンジしているのは、スタッフの皆様のソーシャルデータを単なるフロー情報ではなく「資産」としてどう利活用していくか、という点です。

 商品数が多すぎる現代では、商品で「第一想起」を得るのは非常に困難です。そこで重要になるのが、「誰から買うか」という視点です

 従来、SNSは「認知」を獲得する場とされてきましたが、我々はそこから一歩踏み込み「購買」までを完結させる「ソーシャルセリング」を提唱しています。これは、プロファイリングAIが、スタッフの個性や価値観を分析し「その商品の価値が本当に伝わる層」を特定して確実にリーチさせる戦略です。

 たとえばアパレルなら、身長・骨格・パーソナルカラーなどの掛け合わせで自分の体型に似たスタッフに相談したいニーズが存在します。企業がマス広告で「この服は素敵です」と画一的に伝えるよりも、AIでマッチングされた自分と似た特徴を持つスタッフの提案のほうが、お客様にとっての「唯一無二の正解」になり、納得して購入いただけるはずです。

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パルが運営する女性向けブランド「prose verse(プロズヴェール)」のスタッフの傾向を、AIQの技術により抽出した図。スタッフとそのフォロワーの特徴が類似していることがわかる
(クリックすると拡大します)

今井(AIQ):このように、スタッフの「個」の力をAIで最大化し、SNSを「重要な売上創出チャネル」へと進化させられることが、我々AIQの強みです。

 この「個性」のデータを資産として、広告やエージェント型ECなどで利活用するチャレンジを堀田さんと一緒に進めています。ソーシャルデータ分析は「誰が」「なぜ」それを利用しているのかが非常にわかりやすいのがポイントで、私としては、ここをもっと磨いていきたいですね。

──データ活用において、現場ではどのような実感がありますか?

堀田(パル):我々本部は、データを整理して現場に伝えるだけ。お客様に喜んでもらえるアイデアの発想は、現場スタッフのほうがよほど上手ですから。さらに、テクノロジーの進化が加われば、本質的な顧客との深いつながりがきちんと構築できる時代になると感じています。

今井(AIQ):我々も同感です。アルゴリズムをハックして、テクニカルなところで視聴完了率を高めてビューが伸びても、視聴者はそのブランドに良い感情は抱かないでしょう。目先のバズより「本質を見失わない」ことを支援する側としても気を付けています。

異業種連携で1人のお客様を幸せに

──パルのスタッフインフルエンサーと資生堂ジャパンのオムニPBPがコラボレーションして、「夏祭り」や「秋のお出かけ」といったシーンに合わせた、メイクとファッションのトータルコーディネートを提案する投稿を行っているそうですね。取り組みの狙いについてお伺いできますか。

今井(AIQ):両社から似たアイデアが出たため、我々でマッチングさせていただきました。実は、両社のフォロワーのデータを見ると、属性や趣味嗜好が似ているお客様は同一人物である可能性が高いことがわかりました。

 たとえば、パーソナルカラーがイエベで体型も近い、パルのスタッフとPBPがコラボすれば、ファッションとメイクのトータル提案が可能になります。こうしたマッチングは、お客様にとって「自分に合った提案」として価値を感じていただきやすく、お客様を同時に幸せにするような取り組みができると考えたのです。

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2社がコラボレーションしてスタイリングを提案。現在は、テスト投稿を実施している段階

笹間(資生堂):トライ段階ですが、フォロワーの方々にとって有益な「出会い」が潜んでいるはずです。継続的に投稿を行うことで、お客様に「この人をフォローしていて良かった」と思っていただける、意味があるものに進化させていきたいですね。

堀田(パル):同感です。企業同士がコラボをしても、ユーザーにとっては「その投稿が自分にとって価値があるのか」がすべてです。その価値の出し方は、データを見て工夫を凝らしていきたいところです。

接客こそ究極のパーソナライズ。AIが拓く「おもてなし」の未来

──最後に、AIと「個の力」の未来について展望をお聞かせください。

堀田(パル):いわば、「接客」こそが究極の「パーソナライゼーション」だと考えています。対面でも画面越しでも、お客様のことを本質的に考え、想像力とアイデアが問われる時代。データやAI、テクノロジーの活用は必須で、最大限活用したほうがいいです。

 しかし最終的には「人」が主体です。データはもちろん商品開発のヒントになりますが、本当にいいものを生み出すのは、まだ人の力のほうが強いと思います。

 私はSNSの活用が接客スタッフの地位向上につながると考えています。日本の接客サービスは非常に質が高いですが、働く人の給与や待遇に十分結びついていません。この眠っている価値をデジタルの力で解放すれば、お客様、我々、スタッフにとって大きなチャンスになると思います。

笹間(資生堂):おっしゃる通りです。我々も、オムニPBPの方々が頑張るほど給料に反映できる報酬体系を一部導入しています。

 資生堂が今後、戦略的にリソースを割いて推進したいのは、まずメーカーとして絶対に重要な「製品・サービス」の開発です。そしてAIでの拡張を目指すのは店頭PBPの力を活用してレバレッジすること。これらが大きな差別化ポイントになると考えています。

 プレステージブランドのマーケティング責任者の言葉ですが、接客で大事にしているのが「最後、接客する人がお客様に魔法をかける」ことだそうです。魔法のような接客体験を磨き上げるための支援を、AIには期待しています。

今井(AIQ):AIはあくまで手段です。個人の活躍をアクセラレートし、ビジネスをドライブする仕組みを一緒に作れると嬉しいですね。

 お二人の話を伺い、スタッフの皆様のSNS投稿はデジタル上の「店舗」における「接客」そのものだと改めて確信しました。スタッフの皆様が持つ「おもてなし」の心や個性を、AIとデータで拡張し、企業の売上という成果に変えていく。そのためのインフラとして、今後も支援を続けていきます。

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この記事の著者

那波 りよ(ナナミ リヨ)

フリーライター。塾講師・実務翻訳家・広告代理店勤務を経てフリーランスに。 取材・インタビュー記事を中心に関西で活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:AIQ株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/12/08 10:00 https://markezine.jp/article/detail/50133