EC導入は「売るため」だけではない。マーケティング観点の狙い
MarkeZine:まずは、花王ヘアケア事業部としてEC領域に注力されている背景をお聞かせください。
野原(花王):大きく3つの理由があります。1つ目は「ヘアケア領域におけるEC市場の拡大」です。現在、ヘアケアのEC市場は1,000億円を超える規模にまで成長しており、ヘアケア市場全体の25%ほどをECが占めるようになっています。この市場を牽引しているのは、ハイプレミアム商品やサロン系のシャンプーで、花王が現在注力している高価格帯商品が参入しやすい土壌が整っています。
2つ目は「収益性の高さ」。ECでどうしてもネックになるのは配送料のコストです。低単価の商品では利益を担保できませんが、ハイプレミアム商品であれば商品価格に対する配送料の比率を下げることができます。一般的な商品より収益性が期待できることは、参入の後押しとなりました。
3つ目は「マーケティングの観点」です。現在はコミュニケーションの大部分をデジタルで展開していますが、SNSや広告の遷移先を単なる商品紹介ページではなくECにすることで、フルファネルをカバーし、認知から購買までを一気通貫でつなぐことができます。また、購買データを基にPDCAを回しやすくなるため、ロイヤルティの向上やLTVの最大化を図ることもできるでしょう。EC導入はどこを取ってもデメリットのない施策だと考えていました。
MarkeZine:前提として、美容EC市場全体のトレンドについても教えてください。
西(CARTA ZERO):Qoo10やAmazonといった主要プラットフォームを筆頭に、市場全体が大きく成長し、幅広い年代に「ECで美容アイテムを購入する」という文化が定着しつつあります。
特にコロナ禍以降、自社でEC旗艦店を持つ動きが加速しました。従来、自社で実店舗を持たないブランドはどうしても顧客接点が間接的になりがちでしたが、ECであれば直接「お客様の声(データ)」を得ることができます。単純に「売るため」だけでなく、「マーケティングのため」にECに注力するブランドも増えている印象です。
物流、ITシステム、CSなど、ゼロベースから体制を構築
MarkeZine: ECモール参入にあたり、具体的にどのような準備や社内調整をされたのでしょうか?
野原(花王):ゼロから必要な機能ラインを整えていきました。ECを本格的にスタートするには、単にモール内にページを立ち上げるだけでなく、バックエンドの物流体制の構築から財務やITシステムとの連携、CS(カスタマーサービス)の整備まで、細々とした対応が必要です。私自身はEC領域の経験があるものの、 ヘアケア事業部としては実店舗を介したビジネスしか経験はなく、ECのノウハウが不足している状態でした。専門家であるCARTA ZEROにサポートしてもらいながら、一つひとつ構築していった形です。
MarkeZine:ゼロベースから体制を構築していくために、パートナー選定は重要だったかと思います。今回パートナーを選定する際に最も重視されたポイントについて教えてください。
野原(花王):2つあります。1つ目は「市場を俯瞰して大きな戦略設計を描ける力」です。当たり前ですが、ECは単に立ち上げるだけでは成功しません。たとえば楽天、Amazon、Qoo10といった各プラットフォームで、それぞれ仕組みも成功要因も異なります。各モールをどう使い分け、MD(商品施策)も含めてどう最適化していくか――全体像を構造的に捉え、戦略に落とし込める力を求めていました。
2つ目は、「ブランド×モールへの深い理解と、PDCAを回せるコミュニケーション能力」です。ECを成功させるためには、ブランドのこともプラットフォーマーのことも、深く理解する必要があります。性質の異なる2つの要素を連結させ、PDCAを回していかなければなりません。また、そのためには円滑にコミュニケーションができるか否かも重視になってくるでしょう。CARTA ZEROは上流の戦略設計も、下流の細かな現場連携もできる理想的なパートナーでしたね。

