海外では今、インフルエンサーの役割が従来のインフルエンサーマーケティングの枠を明確に超え始めている。単なる広告の担い手ではなく、企業価値の形成や経営判断、さらには市場づくりにまで関与する存在へと変化しているのである。本稿では、ユニリーバのソーシャルファースト戦略や、PRなどの影響力を提供する対価として現金ではなく“企業の株式”を受け取る「Influence-for-Equity」モデルの具体化、そしてSidemenによるVC設立という3つの海外事例を通じて、インフルエンサーのキャリアがどのように拡張しているのかを整理する。
予算の50%を移行。インフルエンサーを「意味を作る人」と再定義したユニリーバ

2025年、グローバル消費財大手のユニリーバは、マーケティング戦略の大きな転換を発表した。従来型のテレビ広告や大規模デジタル出稿を軸とするモデルから脱却し、マーケティング予算の約50%をソーシャルおよびインフルエンサー中心の施策へ振り向けるという方針を明確にしたのである。
ユニリーバが掲げているのは「クリエイターファースト」ではなく、あくまで「ソーシャルファースト」という考え方である。特定の個人の人気に依存するのではなく、ソーシャル上に形成された多様な文化やコミュニティを第一に捉え、ブランドをそこへ届けるための「案内役」としてインフルエンサーを起用する、という意味合いだ。したがってこの転換は、単なる配信チャネルの変更にとどまらない。重要なのは、「何を語るか」よりも「誰が語るか」がブランド価値を左右するという認識が、経営レベルで共有された点にある。
消費者は企業の公式メッセージよりも、信頼できる個人の声を重視するようになっている。ユニリーバはこの変化を前提に、インフルエンサーを単発の広告要員ではなく、ブランドの文脈や語り口を形づくる存在として位置づけ始めた。実際、同社はより多くのインフルエンサーと長期的な関係を築き、細分化された文化やコミュニティ単位でブランドを浸透させる戦略を取っている。
この段階において、インフルエンサーの影響力はまだ企業の外部にある。しかし、ブランドがどのように理解され、どの文脈で語られるかを左右する力を持ち始めている点で、その役割は従来より一段引き上げられている。インフルエンサーは「広告に出る人」から、「意味を作る人」へと変わりつつあるのである。
影響力と株式を交換する。「Influence-for-Equity」が変えるスタートアップ調達
ユニリーバの事例がマーケティング戦略の変化を示す入口だとすれば、次に現れているのは、インフルエンサーの影響力が企業の資本構造と直接結びつく段階である。
2025年後半から秋にかけて、この潮流はより明確になった。その象徴が、「OWM」という「Influence-for-Equity型プラットフォーム」の登場だ。OWMは、従来の単発タイアップ契約ではなく、インフルエンサーと企業の関係を長期的な共同体に変えることを目指すモデルである。
OWMはAIエージェント「Andy」を使って、創業者とクリエイターをマッチングする仕組みを採用している。Andyは企業の成長ポテンシャルやクリエイターの専門性・影響力を分析し、最適なパートナー候補を提案する。このAIによる仲介により、従来複雑だった「影響力と株式の交換」という取引を標準化・簡素化している。
OWMは立ち上げ時点から5,000人以上のクリエイターと数百社のスタートアップが参加しているという。VaynerSports、Wasserman、Underscore Talentなどのエージェンシーがパートナーとして関与しており、クリエイターへの株式提供の土台が整いつつあるようだ。
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岡 徳之(オカ ノリユキ)
編集者・ライター。東京、シンガポール、オランダの3拠点で編集プロダクション「Livit」を運営。各国のライター、カメラマンと連携し、海外のビジネス・テクノロジー・マーケティング情報を日本の読者に届ける。企業のオウンドメディアの企画・運営にも携わる。
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