現実世界とは異なる「人格」を持つ「デジタル生活者」
若年層を中心に、デジタル空間上では現実の自分とは切り離された人格を持つことが当たり前になりつつあります。SNSでは性別や年齢、名前などを自由に変え、現実とは異なる自分を表現することが一般化しています。
10~20代の7割が「本名以外の名前で利用しているSNSアカウントがある」と回答し、約半数が「自分の性別を公表せずに利用しているSNSアカウントがある」と回答しました。「インターネット上だけで交流し、直接会ったことがない友人がいる」という回答も、若年層で高い傾向にあり約4割(図表1)と、デジタル空間上ならではの交友関係やコミュニティの存在があることがうかがえます。
さらに、プラットフォームごとに異なる人格を使い分けたり、日常の延長線上とは思えないような自分を自覚的に演じたりする人も少なくありません。

つまり、生活者がデジタル空間で過ごす時間が増える中、企業のマーケティング活動においても、「リアルな属性」だけでは捉えきれない行動や価値観が見え始めているのです。いったい、デジタル空間上で過ごす「デジタル生活者」たちに、どのような意識の変化や、新しい行動が生まれているのでしょうか?
今回はその実態を探るべく、デジタル空間の1つメタバース空間で暮らす15~69歳「メタバース生活者」200名に調査を行いました。これに加えて2024年11月に、株式会社博報堂DYホールディングスが全国の15~69歳79,982名を対象に実施した「メタバース生活者定点調査2024」のデータと合わせて、考察していきます。
デジタル世界の延長線上にある「メタバース世界」
前述した異なる人格の使い分けなど、生活者の多層的な自己表現の延長線上にメタバース空間の利用があります。一見、SNSなどと異なる世界のように捉えられがちなメタバースですが、アバターを通した表現ができる空間ではあるものの、決して閉ざされた世界ではない、同じデジタル空間上の地続きの世界であるという認識が必要です。
「メタバース生活者定点調査2024」によると、全国の約8.7%に当たる推計約687万人が既に国内のメタバース空間を日常的に利用しています。特に、デジタルネイティブである若年層での利用率が高く、10代男性利用率が40.6%、10代女性が19.8%という結果になっています(図表2)。こうした若年層への広がりを考えると、企業が生活者との接点としてメタバースを意識することは、今後ますます重要になるものと考えられます。

最近では、イベントや人気ゲームの中で、独自のアバターを通した交流体験が提供されていることもあり、多くの若者を中心に抵抗なくメタバースを利用することも増えています。ただ、メタバース空間は、現実とは異なる身体性をともなう活動ができるからこそ、肩書や属性からより自由になれる空間であることは間違いありません。これからのデジタル社会を考えるうえで、メタバース空間を利用する「メタバース生活者」を通じて、新たなデジタル生活行動や意識の兆しに注目すべきではないでしょうか。