デジタル空間に眠る「生活者の本音」と、新たな市場の兆し
実際に多くのメタバース生活者は、現実の肩書や役割から解放されることで、むしろ「素の自分」に近づけると感じているようです。調査でも72%が「(メタバースで過ごす自分は)会社や学校などの現実世界で過ごしている時の自分よりも、素の自分でいられていると思う」と回答しています(図表3)。

さらに、メタバース空間では、自分が本当にやってみたかったことや、好きなことに出会うことができます。そうした体験を通じて、現実世界では出会えなかった人や価値観とつながることも増えているようです(図表4)。

マーケティングの観点から見れば、このような空間にこそ、従来の調査では見えにくかった“生活者の本音”が潜んでいる可能性が高いと言えるでしょう。そして、ここまで述べてきたように、メタバース空間で行われる行動は、単なる現実の代替体験ではありません。そこでは、生活者が本音で語り、動き、つながることで、新しいモチベーションが生まれています。
たとえば、現実とは異なる性別のアバターを使い、そのアバターを着飾るために情報収集し、アイテムにもお金をかける人。さらに、現実世界とは異なる職業につき、新しい経済圏が成立することも。筆者がインタビューを行ったある生活者は、メタバース生活者として執筆活動に挑戦しています。「現実世界にとらわれず存分に自分らしさを開放できることにやりがいを感じている」と話してくれました。
多くの「コミュニティ」が形成されるデジタル空間
メタバース空間では、単発的なイベントではなく、継続的な暮らしが営まれています。その中で、生活者は人間関係やつながりを意識しながら過ごしており、自然とコミュニティが形成されています。重要なのは、「メタバース空間=ひとつのコミュニティ」ではないということです。実際には、その空間の中に複数のコミュニティが並存し、生活者はその中から自分に合った場所を選び、所属しているのです。
現実世界のコミュニティを再現するのではなく、メタバース上で独自の新しいコミュニティを作っているケースが多く見られます。メタバース空間で交流している相手を聴取すると、「デジタル空間上で出会った人」という回答が4割を超え、現実世界の知人と同じくらい高いスコアになっています(図表5)。

今なぜ、新しい人格やコミュニティを求めるのでしょうか?
今は誰かとつながろうと思えば、学校や職場以外でも簡単に、常時つながることができる時代です。だからこそ、あえて自分を現実世界と「切り離す」行為が必要になっているのかもしれません。さらに、今はデジタルメディアを中心に、多様な情報に触れることができ、関心領域も多様な時代でもあります。大きなトレンドを追うだけではなく、自分の所属する「界隈」の情報をそれぞれが追う時代でもあります。そのため、自分と合う人が身近にいるとは限らないため、デジタルでコミュニティを作る価値も高まっているのではないでしょうか。