※本記事は、2025年6月刊行の『MarkeZine』(雑誌)114号に掲載したものです
博報堂リサーチ&データ
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─ 若者から広がる「界隈消費」に見るマーケティングの“これから” 前編
─ 若者から広がる「界隈消費」に見るマーケティングの“これから” 後編(本記事)
「界隈」が抱える課題
前編で紹介したように、「界隈」が社会に浸透し、「界隈」に所属しながら情報交換を行い、消費までしている人が出てきている中、生活者が「界隈」について本当はどのように思っているのか、「界隈」に対するイメージ/意識も調査しました。
「界隈」に対するポジティブな意識を図表6に示しています。

「『界隈』にいることは幸せなことだ」という項目には全体で26.4%の人が「そう思う/ややそう思う」と答えています。特に10代男性は、他のどの層よりも「界隈にいることは幸せなことだ」と感じ、「界隈にいると友人が増えると思う」と強く認識していることがわかります。これは、若年層にとって「界隈」が自己肯定感の向上や社会的なつながりを得る上で重要な役割を果たしている可能性を示唆していると考えられます。
一方で、ポジティブな意識以上に、ネガティブな意識があることも調査から明らかになりました(図表7)。

「『界隈』にいることはお金がかかることだと思う」「時間がかかることだと思う」「不安になることや面倒が増えると思う」といった意見は、「界隈」に対しポジティブな印象を抱いている若年層を含む幅広い層で一定の割合を示しています。特に「お金がかかる」「時間がかかる」というコスト意識が比較的高く、「界隈」への積極的な参加が、経済的負担や時間的拘束をともなうイメージが「界隈」への所属意識の有無に関わらず付いていると考えられます。
さらに、「不安になることや面倒が増えると思う」という意見も、特に若年層で高い割合を示しています。今までの「コミュニティ」といった概念よりはゆるくつながれる「界隈」ではありますが、それでも「界隈」中心部における人間関係の複雑さや、情報過多による疲弊などが、心理的な負担となっている可能性が考えられます。「界隈」の一員であることは、喜びやつながりをもたらす一方で、コスト的な負担や心理的な負担を生み出すことも否定できません。
加えて、「今後(も)『界隈』にいたいと思っている人の割合」を図表8に示します。

このデータは「界隈」という概念の持続性や、参加者のエンゲージメントを測る上で重要な指標だと考えられます。
全体として「今後も『界隈』にいたい」と思っている人の割合は22.8%となっており、「界隈」への所属意識53.3%よりだいぶ低い数値となっています。一方で、性年代別に見ると、10〜20代と30代以上で大きな差異が存在することがわかり、特に10代男性は45.9%と顕著に高い数値になっています。これは、彼らにとって「界隈」が単なる一時的なSNSでの流行ではなく、趣味嗜好以上にアイデンティティを確立でき、継続的に帰属意識を持てる場所になり始めていると考えられます。
若年層、特に男性若年層における高い継続意向は、「界隈」が彼らにとって必要不可欠な場所になっていることを示唆する一方で、中年層以降の継続意向の低さは、「界隈」が提供する価値を実感として感じにくく、一方で「界隈」のコスト的な負担や心理的な負担が目につきやすい状況があると考えられます。そのため、「界隈」への所属意識がある4割前後の中高年層に関しても、現状の「界隈」のあり方に満足しているとは言い難いと考えられます。
さらに言えば、「界隈」への関わりに対して、どこか疲労感を抱いている層が一定数存在する可能性も否定できません。今後「界隈」がより大衆化していくには、価値観やライフスタイルに応じた「界隈」の柔軟な進化が求められているのかもしれません。