※本記事は、2025年6月刊行の『MarkeZine』(雑誌)114号に掲載したものです
博報堂リサーチ&データ
─ メディア視聴の新常識、スクリーンとコンテンツ選択の心理を探る
─ 若者から広がる「界隈消費」に見るマーケティングの“これから” 前編(本記事)
個人の“好き”で形成されるゆるいつながり=「界隈」
SNSにおけるアルゴリズムの発達により、我々が見聞きする情報は自分の興味領域に偏るようになりました。これにともない、SNSを中心に同じ“好き”や興味関心を持つ人たちのゆるい集団=「界隈」が形成されるようになっています。
「界隈」という言葉は、元々「渋谷界隈」「銀座界隈」などのように、「そのあたり一帯・付近・近辺」を指す言葉でした。それがだんだんと拡張し、主にSNS上で、特定の趣味を持つ人や業界という意味でも使われるようになっていきました(「K-POP界隈」「美容師界隈」など)。加えて近年では、特定の状況にある人や行動をする人をくくる言葉としてトレンドワード的にも使われるようになっています(「回転界隈」「風呂キャンセル界隈」など)。
「界隈」には他のコミュニティ概念とは異なる、下記4つの特徴があります。
【「界隈」の特徴】
- 明確な中心人物がいない
- 明確な境界線がない
- 一人が複数の「界隈」に所属、回遊している
- 「界隈」に対する理解やリスペクトがないことを嫌がる
そんな「界隈」が形成される背景にあるのは、そのジャンルについてもっと知りたい・応援したいという「熱量」と、同じ“好き”を持つ人と気持ち/情報を共有し合いたい・仲間が欲しいという「共感」です。
その「界隈」での情報のやりとりにより、「界隈」ごとに異なるトレンドが発生し、それに紐づく商品/サービスが消費され、またそのトレンドが他の「界隈」にまで伝播することで、その「界隈」でも消費が発生していきます。これが「界隈消費」です。興味関心や価値観が多様化した現代社会において、「万人受け」を狙うことは難しく、いかに相性の良い人に受け入れてもらえるかが勝負になってきている中、この「界隈消費」という概念が新たなマーケティングの基盤になっていく可能性を秘めています。
では、実際に生活者は「界隈」に対しどのような認識を持ち、どのような「界隈消費」を行っているのでしょうか。本記事を執筆するにあたり、15〜69歳の5,000名を対象に、「界隈」や「界隈消費」に対する認識や実態に関する調査を実施しました。