なぜ今、マーケターは「Fandom」に注目すべきなのか?
MarkeZine編集部(以下、MZ):サッポロビールでは「黒ラベル」においてDAZNとともに、「スポーツファンの熱量」を活かした施策を展開したそうですが、その狙いを教えてください。
黒柳(サッポロビール):近年の飲酒離れによるビール市場の縮小は大きな課題です。既存施策の延長だけでは対応できないため、サッポロビール全体で「ビールに関心のある人」を増やすことを重視しています。そのためには、関心が薄い方との新しいタッチポイントを作り、関心層へ引き上げる必要があります。
そこで鍵になるのが「体験」です。これまでも音楽フェスへの出店などを通じ、熱量の高い場でポジティブな感情とブランドを結びつける接点を創出してきました。今回のDAZNとの施策もそうしたファンの熱量に着目したものです。

MZ:その「熱量」に関連して、今「Fandom(ファンダム)」という言葉が注目されています。DAZNは「Fandom」をプラットフォームの価値に位置付けているとのことですが、これはどのような概念なのでしょうか?
酒井(DAZN):受動的に情報を受け取ることが多い時代だからこそ、今、“何かに夢中で没入する空間”の価値が見直されています。スポーツで言えば、ゴールの瞬間に知らない人とハイタッチして喜びを共有するような、“感情がピークに達する瞬間”が連続するシーンです。私たちは、そうした熱狂の瞬間をいまかいまかと没入している特別な空間を「Fandom」と捉えています。

MZ:Fandomがマーケティングにもたらす価値とはなんでしょう。
酒井(DAZN):まさに“感情のピーク”に寄り添える点です。ブランドがFandomの空気感に自然に馴染むことで、コミュニティの一員のように受け入れられ、メッセージが記憶に深く根付きます。「サッカーのときは黒ラベル」という意識が芽生えたり、ソーシャル上にブランドのことを自発的に投稿してくれるような、ファンがアンバサダーになることもFandomの特徴です。
リアルに次ぐ“第2のスタジアム”「FanZone」の強み
MZ:DAZNでは、Fandomをオンラインで創出するグループ観戦機能「FanZone」を実装していますが、どのような機能なのでしょうか。
酒井(DAZN):FanZoneは2024年4月にスタートした機能で、我々は“リアルに次ぐ第2のスタジアム”であると捉えています。DAZNで試合を観戦しながらリアルタイムでのチャットに加え、投票やクイズ、スタンプなどでファン同士が交流をしながら観戦を盛り上げる、能動的な仕掛けが多数あります。
参加者はコアなファンが中心で、良い意味で“ギーク”な熱量の高いコミュニティです。協賛ブランドに対しても「この試合に協賛してくれてありがとう!」「ハーフタイム中に黒ラベルを買ってきました!」といった、ポジティブなコメントが自然発生しやすいのも特長です。
MZ:サッポロビールでは、どのようなことを期待して「FanZone」の活用を選択されたのでしょうか?
堀内(サッポロビール):情報過多の現代では、広告を“ポジティブに、記憶に残る形”で届ける難易度が上がっています。一方、FanZoneは私たちブランドとファンコミュニティの“密な接着点”を提供してくれます。感情が高ぶるスポーツの場では、コミュニケーションが「体験の一部」として受け取られやすく、私たちのメッセージが前向きに届くチャンスが広がります。この設計に大きな魅力を感じました。

堀内(サッポロビール):とはいえ、広告認知の先の行動変容にどこまで寄与するかは未知数でした。そこで今回はトライアルとして、まずその手応えを確かめたかったのです。また、あえて「スポーツ文脈以外のクリエイティブ」でポジティブな反応を得られるかを検証する狙いもありました。もし良い成果が出れば、今後の選択肢が一気に広がると考えました。