なぜZ世代は「石鹸」をTikTokでシェアしたのか?
「クッキーの香りがする石鹸」がSNSで爆発的に拡散される──。そんな一見ミスマッチな出来事が、Doveブランドをめぐって現実のものとなった。
Doveは2025年、米国で高い人気を誇るクッキーブランド「Crumbl」とコラボレーションを実施。クッキーの香りを再現したボディソープ、スクラブ、デオドラントを限定リリースした。この施策は、単なるフレーバー追加ではなく、「嗅覚体験」をSNSで共有することを前提に、“香り”を武器としたマーケティングデザインがなされていた。
SNS上では、特にTikTokにおいてユーザーの開封動画やリアクション動画が投稿され、Z世代を中心に話題となった。他にもInstagramなどの主要SNSで拡散され、結果としてオーガニックインプレッションは3.5億回を突破。さらに注目すべきは、購入者のうち実に52%がDoveブランドを初めて購入した新規顧客であったという点だ。
@yareli_mrtzz Everything is so cute & smells so good #haul #crumblecookie #dovexcrumblcookies #walmartfinds #crumblecookiebodywash #limitededition ♬ New Drop x Trance - Ian Asher
かつて“差別化が難しい商品”とされていた石鹸カテゴリーで、なぜこれほどの反響が得られたのか。その背後には、従来とは根本的に異なる「作り方」と「届け方」のイノベーションが存在する。
ユニリーバのCEO交代と改革の本気度
この一連の取り組みは、単なるマーケティングキャンペーンではない。ユニリーバが企業構造の根幹から変わろうとしている中で生まれた、「再成長のための実験モデル」なのだ。
2025年2月、ユニリーバは長年CEOを務めたアラン・ジョープ氏から、ハイン・シューマッハ氏へのトップ交代を断行。表向きはスムーズなリレーのように見えたが、実態は数年にわたる成長停滞、そして競争力低下への強い危機感が背景にあった。

特に以下のような課題が、経営刷新の引き金となった:
- 欧米市場におけるブランド成長の鈍化
- デジタルネイティブ世代へのアプローチ不足
- スタートアップブランドによるカテゴリー侵食
- 投資家からの構造改革要求
こうした中でシューマッハ新体制が打ち出したのが、「AI・SNS・生成技術」を企業活動の中心に据えた全社的な変革戦略である。単なるコスト削減やブランド刷新ではなく、マーケティングからプロダクト開発、オペレーションに至るまで、あらゆる企業活動をデジタル化するというものだ。
このキャンペーンは社内だけでなく外部からも注目されており、「デジタルPRの新しい手本」として取り上げられ、ユニリーバの改革戦略やAI活用の象徴的事例として位置づけられている。