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コモディティ市場の勝ち筋:AIで「パーソナライズ at Scale」を実現するユニリーバの戦術

 生成AIの進化は、マーケティングにおける発想と手法の根本を揺るがしている。画像やコピーを大量かつ高速に生み出すだけでなく、ブランドと生活者の接点そのものを再構築しつつあるのだ。中でも注目を集めているのが、ユニリーバ(Unilever)によるDoveブランドのAI活用戦略である。石鹸という成熟市場の象徴的な製品を、生成AI×デジタルツイン×インフルエンサーの力で“Z世代に刺さるプロダクト”へと再定義した。背景にあるのは、2025年のCEO交代とともに進行する全社的な構造改革だ。本稿では、その象徴となるDoveのマーケティング事例を起点に、AIと3D技術による「届け方の革新」、そして日本企業への示唆を探る。

なぜZ世代は「石鹸」をTikTokでシェアしたのか?

 「クッキーの香りがする石鹸」がSNSで爆発的に拡散される──。そんな一見ミスマッチな出来事が、Doveブランドをめぐって現実のものとなった。

 Doveは2025年、米国で高い人気を誇るクッキーブランド「Crumbl」とコラボレーションを実施。クッキーの香りを再現したボディソープ、スクラブ、デオドラントを限定リリースした。この施策は、単なるフレーバー追加ではなく、「嗅覚体験」をSNSで共有することを前提に、“香り”を武器としたマーケティングデザインがなされていた

 SNS上では、特にTikTokにおいてユーザーの開封動画やリアクション動画が投稿され、Z世代を中心に話題となった。他にもInstagramなどの主要SNSで拡散され、結果としてオーガニックインプレッションは3.5億回を突破。さらに注目すべきは、購入者のうち実に52%がDoveブランドを初めて購入した新規顧客であったという点だ。

 かつて“差別化が難しい商品”とされていた石鹸カテゴリーで、なぜこれほどの反響が得られたのか。その背後には、従来とは根本的に異なる「作り方」と「届け方」のイノベーションが存在する。

ユニリーバのCEO交代と改革の本気度

 この一連の取り組みは、単なるマーケティングキャンペーンではない。ユニリーバが企業構造の根幹から変わろうとしている中で生まれた、「再成長のための実験モデル」なのだ。

 2025年2月、ユニリーバは長年CEOを務めたアラン・ジョープ氏から、ハイン・シューマッハ氏へのトップ交代を断行。表向きはスムーズなリレーのように見えたが、実態は数年にわたる成長停滞、そして競争力低下への強い危機感が背景にあった。

画像を説明するテキストなくても可
ユニリーバのハイン・シューマッハ新CEO(画像出典

 特に以下のような課題が、経営刷新の引き金となった:

  • 欧米市場におけるブランド成長の鈍化
  • デジタルネイティブ世代へのアプローチ不足
  • スタートアップブランドによるカテゴリー侵食
  • 投資家からの構造改革要求

 こうした中でシューマッハ新体制が打ち出したのが、「AI・SNS・生成技術」を企業活動の中心に据えた全社的な変革戦略である。単なるコスト削減やブランド刷新ではなく、マーケティングからプロダクト開発、オペレーションに至るまで、あらゆる企業活動をデジタル化するというものだ。

 このキャンペーンは社内だけでなく外部からも注目されており、「デジタルPRの新しい手本」として取り上げられ、ユニリーバの改革戦略やAI活用の象徴的事例として位置づけられている。

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AI×インフルエンサーでSNSバイラル化

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この記事の著者

中井千尋(Livit)(ナカイ チヒロ)

大学卒業後、金融機関勤務を経て、イギリスへ留学。そこで培った語学力を活かし、帰国後は企業の語学研修コンサルティングに携わる。シンガポールに渡り、大手日系商社に転職。シンガポール人、インド人、オーストラリア人、モンゴル人、中国人など多国籍社員が集う場でのビジネスを経験。その後、オランダに渡り、ライターとして独立。分野...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/10/09 08:00 https://markezine.jp/article/detail/49897

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