AIエージェント導入の裏側に広がる「接続の罠」
「AI同士のエージェント接続」が増えれば増えるほど、システム攻撃の侵入経路も指数関数的に拡大する。今年は日本の有名企業でも大規模なランサムウェア感染が報道された。AIエージェントの普及は歓迎すべき動きである一方、安易かつ拙速な接続拡大にはリスクが潜んでいる点に留意したい。
単体業務における各部門でのAI活用から広がり、相互接続にて企業全体で「AIエージェント」へ投資する動きが加速している。技術的には2024年11月に、Anthropic社が「MCP(Model Context Protocol)」を提唱・オープンソース化したところ、競合であるOpenAIが同調したことが火付になった。同時にGoogleが提唱する「A2A(Agent-to-Agent)プロトコル」にも既に50社以上のテクノロジーパートナーが参画している(図表1)。
MCPやA2Aは「AI同士を接続・会話させるための共通プロトコル」で、AI同士を共通接続させる「USB-Cポート」や「AirDrop」の役割にも例えられる。これにより社内外の専門AIが容易に接続し、組織全体の「AIオーケストレーション(連携)」が実現する。つまり、企業の意思決定を行う「AIエージェント」を機能させる基盤技術だ。
組織全体での利便性が格段に向上するAIエージェント導入の成否は、コスト効率やスピード向上の前に、企業の「基盤体力」に左右される。すなわち、高品質なデータの有無を精査する体制(データは何でも集積ではなく)、APIの整備、堅牢な社内ガバナンス(倫理)体制、そして長期投資を支える資本基盤──これらを備えた「強靭な鍋底」が求められる。
これらの基盤構築をすっ飛ばしたまま、「いち早くAIを導入しよう」と目先の(安い)技術導入に走ってしまうと、結果として鍋底に穴が空き、AI活用の持続性を損なうリスクを抱えることになる。特に、「AI導入に力を入れていこう」と掲げる中規模事業(1,000〜5,000人)ほど、急ぐがあまりに安易に走ってしまう可能性がある。
