多様性から潜在的なニーズを得る、インクルーシブデザイン
生活者が抱える潜在的なニーズから製品・サービスに取り組む新しい手法として、「インクルーシブデザイン」が注目されています。インクルーシブデザインとは、「言語、文化、性別、年齢、障害、マタニティなど人間の多様性を活かして、多様な人から洞察(インサイト)を得て製品・サービスを発想するアプローチ」です。
現代の成熟したマーケットでは、平均的なユーザーの声を聴くことから独自性あふれる差別化されたプロダクトを創造することが難しくなっています。特にコモディティ化の著しい市場ではイノベーションの創発は困難で、企業は成熟から衰退という流れの渦に巻き込まれやすいとされます。インクルーシブデザインでは、従来の製品企画や開発のプロセスから排除されてきた人々の視点から新しい課題の発見や次の社会を捉え、サービスやプロダクトの新たな価値を創出します。
最近では、海外の先進企業において、製品開発プロセスにインクルーシブデザインの手法を取り入れ、高齢者や障害者、LGBTQの方々の多様な視点を得て改善に取り組む事例も増えています。
たとえば、Microsoftでは、開梱しやすいパッケージを作るために障害を持つゲーマーに様々なプロトタイプのテストをしています。MicrosoftのXboxアダプティブコントローラー用の箱を身体障害のあるゲーマーにもかんたんに開梱できるものにするという課題に取り組み、片手または片腕しか使えない人たちが難なく箱を開けてコントローラーを取り出せるようなパッケージをデザインしました。ハサミがないと切れない分厚いプラスチック、指にまとわりつくテープを使った梱包はどんな人にとってもわずらわしいものです。このパッケージは障害者だけでなく、面倒なく開けられれば誰もがうれしい製品となりました。
ユニバーサルデザインとの違いとは?
似た言葉でユニバーサルデザインがあります。「多様な人が使いやすいデザイン、アクセスしやすいデザインを目指す」という点は共通した考えです。では、両者の違いはなんでしょうか?
ユニバーサルデザインは、一般的に多くの人が「使える」ものを作ることで社会から排除される人々をなくそうとするデザインです。たとえば、公共性が高い施設・建築などで多くの人が使えるようにしなければならない条件に利用されます。あるデザインに対して、できるだけ多くの人が使えることに焦点を当てます。特に、身体的または認知的な障害を持っている人を対象にしていることが多いです。製品・サービスで取り入れることも可能ですが、新しい事業やイノベーションを目的とした手法で捉えられることは少なく、公平性に重きを置いた考え方です。
一方でインクルーシブデザインは、「自分たちの事業やサービスからどういった人が排除されているのか」を考えることから始める点が特徴です。「Solve for one, extend to many(1人の課題を解決することで、多くの人々にとっての価値となる)」とも表され、多様なニーズを持つユーザーを巻きこんで一緒に事業を推進する手法です。大きなペイン(尖った課題)を抽出し解決することで、その解決策が多くの人々の価値提供に寄与するデザインアプローチとしても注目されています。
たった1人のユーザーの課題を解決することで、多くの人々の「わかりやすさや使いやすさ」が向上するイノベーションを志向しているのです。