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企業の取り組みから考えるインクルーシブデザイン

老舗水泳用品メーカーが「軽く感じる通学カバン・RAKUSACK」を作った理由

 毎日の通学で「重いカバン」に悩む小中学生は多い。フットマーク社は、重さを感じにくい通学カバン「RAKUSACK(ラクサック)」シリーズの提案で、その問題の解決に挑んでいる。インクルーシブデザインスタジオ「CULUMU」を率いる川合俊輔氏が、RAKUSACKを開発したフットマークの佐野玲子氏に商品で社会課題解決を試みる姿勢をたずねた。

現場の声から課題を見つけ、プロダクトに落とし込む

川合:まずはフットマークと佐野さんについて教えてください。

佐野:当社は1946年創業、社員58名のメーカーです。創業当時は赤ちゃんの布おむつ用のカバーを製造していました。その後、布おむつカバーの防水加工技術と素材を生かして水泳帽子を開発し、現在では、ベビーからシニアまで幅広い層と用途に水泳用品を製造販売するようになりました。

フットマーク株式会社 学校教育事業部 佐野 玲子氏
フットマーク株式会社 学校教育事業部 佐野 玲子氏

 また、おむつカバーのノウハウを生かして大人用の介護おむつカバーを開発。そこから、お年寄りのシーツやねまき、エプロンなどの介護用品なども展開しています。ちなみに「介護」という言葉も「介助」と「看護」を組み合わせて当社が生み出し、商標登録したものなんです。

 私自身は東北芸術工科大学のプロダクトデザイン学科を卒業し、新卒でフットマークに入社しました。自分で課題を見つけ、それをプロダクトに落とし込める会社に入りたいと考え、この会社を選びました。

 入社後はいくつかの部署を異動しながら多様なニーズに応える水泳用品の企画、開発、デザインを担当してきました。2016年に現在の学校教育事業部に配属となり開発したのが「RAKUSACK(ラクサック)」です。

RAKUSACK

身近な人の意見を聞く「1/1(いちぶんのいち)の視点」が開発の鍵

川合:フットマークさんは「1/1の視点」を大切にしていると聞きました。これはどのようなものですか?

佐野:話は1970年頃に遡ります。当社の近所にお住まいの方が夜中にこっそりやって来て、「おじいちゃんのために大人用の大きなおむつカバーを作ってほしい」と相談されました。そこで、赤ちゃん用を参考にして作って差し上げたんです。

 当時、大人用のおむつカバーというジャンルはありませんでした。しかし、もしかしたらご近所さん以外にも必要な人がいるのでは?と考え、商品化したところ、多くの方に喜んでいただけました。

 この1件から、「1人の声」に潜在的なニーズがあり、それに真摯に向き合うことがユーザーに求められる製品の開発につながると当社は気づきました。新商品は新しい文化の創造や市場拡大にも寄与します。現在も私たちはその想いをもって開発に取り組んでいます。

 1/1の視点は、「売れ行きは未知数でも、必要とする人がいるから作ってみる」という姿勢でもあります。布製ランドセルのRAKUSACKもこの視点に基づき展開し、支持を得て新たな市場ができつつあると感じます。

子どもたちは肩紐が壊れるほど重いカバンを背負っている

川合:では、RAKUSACKの概要をうかがえますか。

インクルーシブデザインスタジオCULUMU CDO 川合 俊輔氏
インクルーシブデザインスタジオCULUMU CDO 川合 俊輔氏

佐野:RAKUSACKは、2017年発売の中高校生向け通学カバン(全6種)と、2020年発売の小学生向け布製ランドセルRAKUSACK JUNIOR(全2種)の2ラインがあります。

 開発のきっかけは、お客様からの「壊れない通学カバンを作ってほしい」との声でした。お客様から「肩ベルトの付け根が壊れやすい」と指摘があり、まずは肩ベルトの付け根幅を太くしたリュックを販売しました。

 ただ、なぜそんなに肩ベルトが壊れるのか?と疑問に思い、中学生親子を対象にヒアリングやグループトークをしたところ、時には荷物が10㎏にもなると知りました。カバンが壊れるほど重い荷物を毎日背負う子どもたちの体への負担が見過ごされていると感じ、なんとかしたいと考えました。

 荷物の量はメーカーでは変えられないので、「重くても、構造で軽く感じるカバン」というコンセプトの通学カバンを作ることにしたのです。

川合:荷物が重いという課題から、軽く感じるカバンというコンセプトへはどのようにたどり着いたのでしょう?

佐野:まずは販売中の学生カバンを集め、実際に教科書を入れて背負ってみるところから始めました。子どもたちと同じ体験から「カバンによって体にかかる圧力が痛みや負担の原因だ」との仮説が立ちました。圧力試験などを実施して原因を数値で把握した結果、カバンの構造を工夫することで同じ重量でも感じ方を変えられると考えました。そこで、「重くても、構造で軽く感じるカバン」につながったんです。

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この記事の著者

那波 りよ(ナナミ リヨ)

フリーライター。塾講師・実務翻訳家・広告代理店勤務を経てフリーランスに。 取材・インタビュー記事を中心に関西で活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/07/11 09:30 https://markezine.jp/article/detail/45447

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