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MarkeZine Day 2025 Retail

企業の取り組みから考えるインクルーシブデザイン

老舗水泳用品メーカーが「軽く感じる通学カバン・RAKUSACK」を作った理由

顧客の声からより使いやすく、不安も解消する製品へ

川合:RAKUSACKの開発時、軽く感じるために考慮したポイントを教えてください。

佐野:参考にしたのは登山用バックパックです。軽く感じるには、荷物をいかに固定し、体に密着させるかが鍵でした。3Dパターンの専門家と検討を重ね、中学生の体型に密着する形状の肩ベルトと背面パターンを作成しました。

 肩ベルトの付け根を従来の位置から変えたことで、体の幅にぴったりと合い、腰回りを包み込むようにフィットさせました。また、重たい教科書や水筒などをブックストラップで背中にくっつけて固定できるようにしました。これはありそうでなかった機能で、特許も取得しています。さらに、通学カバン、特にランドセルでは装備されていなかったチェストストラップを必須で付けています。

RAKUSACKが軽く感じる工夫
RAKUSACKが軽く感じる工夫

 こうした小さな工夫を積み重ね、できるだけ体に密着するような構造を作り、軽く感じてもらえるカバンに仕上げています。発売した2017年には、全国紙でも中学生のカバンの重さが社会問題として提起され、RAKUSACKを採用する中学校が増えていきました。

川合:発売開始後も改良を重ねているそうですね。改良内容や、改良後の反応などをお聞かせください。

佐野:たとえば第1号のORIGINALは開口部2面が斜めに開くデザイン(逆L字型)でしたが、さらに大きく開くように、次に発売したBASICでは開口部を3面にし、コの字型に開くようにしました。

 RAKUSACK JUNIORは「今までになかった」と好評な一方で、「革ランドセルの集団の中で一人だけ違うカバンだと、いじめの対象にならないか」と心配する親御さんや、「みんなと違うのは嫌だ」というお子さんが一定数いらっしゃることも把握していました。そこで2020年にかぶせ蓋が合皮のタイプも発売すると、多くの方から先行でご予約いただき「待っていました」との声をいただきました。

 また、1週間無料で貸し出しするサービスを行っているのですが、そこから寄せられる声も参考にしています。たとえば2024年1月、RAKUSACK JUNIOR PLUSシリーズに従来の想定よりさらに小柄なお子さんに向けた「100サイズ」という新モデルを発表しました。

 体にフィットさせることを目的に、現在では3サイズ展開をしています。100サイズモデルを作るにあたっては、小柄なお子さんを対象に何度もモニターテストを繰り返し改良したので、今まで体に合うサイズのなかった小柄なお子さんの負担を少しでも取り除けたらと願っています。

3サイズ展開のラクサック
体にフィットさせることが前提なので、RAKUSACK JUNIORは買い替えを想定している。

 他にも、タブレットやノートパソコンが収納できるGIGAスクール対応モデルなど、様々な要望に合わせたモデルを発売してきました。

顧客の声とプロダクト開発をつなぐ存在が重要

川合:RAKUSACKの改良を行う際に、社内ではどのような思索や試行錯誤が行われていたのでしょうか?

佐野:RAKUSACKだけではなく当社の特徴として、各部が少数構成で、部員全員で意見を出し合って納得するまで改良案を検討しています。お客様に一番近い営業担当者が商品開発にも積極的に加わっているので、常に新しい情報が入ってきます。また、私もお客様からの問い合わせ対応やヒアリング、インタビューを担当しているので、声を拾いやすくもあります。

川合:製販一体なのですね。その中で佐野さんのように顧客の声を集約して分析し、プロダクトに反映させられる役割の方がいることは大きいですね。特にどのようなお客様の声を拾うのか、意識されている基準はありますか。

佐野:最も大切にしているのは、実際にカバンを使う子どもたちの声です。貸出サービスや利用者様アンケート、レビュー、問い合わせなど、多くの声に触れています。

 BASICモデルを使用する自閉症の男の子にヒアリングをしたことがあります。開口部が広いこと、内側が真黄色で明るくて視認性が高いこと、いろいろなポケットがあることなど、「なぜこのカバンがいいのか」を説明してくれました。それらは障害の有無に特別配慮したものではなかったのですが、インクルーシブデザインを意識することで誰にでも使いやすくなると気づいたきっかけですね。

 今年は障害のあるお子さんにも意識してお話を聞いています。その困りごとは、他の多くの方の課題も解消すると思いますので、次回の改良に反映させていきたいですね。

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切磋琢磨し、布製ランドセルを選びやすい世界へ

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この記事の著者

那波 りよ(ナナミ リヨ)

フリーライター。塾講師・実務翻訳家・広告代理店勤務を経てフリーランスに。 取材・インタビュー記事を中心に関西で活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/07/11 09:30 https://markezine.jp/article/detail/45447

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