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MarkeZine Day 2012 Social Analytics Special(AD)

ソーシャルブームはひと段落、次はいかにビジネスへつなげるか ソーシャルデータとビジネスデータ連携の最前線

 今や一般的に使われている“ソーシャル”という言葉。TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアによるコミュニケーションを切り口に語られることが多いが、分析しうる顧客情報としても膨大な量の蓄積を可能にする。11月21日(水)に開催されたMarkeZine Day 2012 Social Analytics Specialは、ソーシャルメディアを通して得られる顧客の声をビジネスに反映させることをテーマに、2つの講演とパネルディスカッションを行った。

「顧客の声に耳を傾けること」が商品開発のベース

 最初の講演は、「MUJI デジタルマーケティング3.0」と題し、良品計画の川名常海氏が登壇。ソーシャルメディアが登場するずっと以前から、「顧客の声に耳を傾けること」を商品開発のベースに据えている同社が、デジタルマーケティングを取り入れて現在のようなソーシャルメディア先進企業といわれるまでに至る経緯が語られた。

良品計画 WEB事業部 コミュニティ担当 課長 川名常海氏
良品計画 WEB事業部 コミュニティ担当 課長 川名常海氏

 「わけあって、安い」をキャッチフレーズに、同社の母体である西友の自社開発ラインとして1980年に誕生した無印良品。その最初の商品群は、ターゲットである主婦層を集めて行ったヒアリングからヒントを得たという。

 「当時、缶詰のマッシュルームには見栄えが悪いので端の部分を入れていなかったが、『なぜ入っていないのか、もったいない』という意見があった。そこで端を取り除く工程を省き、その分安く提供することに。そんな考えから最初の40品目が生まれ、その後も顧客の要望に応える形で、必要十分な機能を備えながら共感、納得のおまけ付きで安価という市場にないさまざまな商品を生み出してきた」と川名氏は語る。

リアル店舗とWebを横断的に利用する顧客の姿を捉える

 このように、顧客との対話にそもそもの事業の発端を置く同社が「デジタルマーケティング1.0」と位置づけるのは、2001年に「モノづくりコミュニティ」を開設したことだ。「体にフィットするソファ」「持ち運びできるあかり」などのヒット商品を世に送り出し、現在は「くらしの良品研究所」として活発なやり取りを続けている。

 当時から、このような同社の取り組みは注目を集めたが、しかしネットの事業的には難航したという。顧客との対話には一定の成果があったが、並行して進めていたネットストアの売上や会員数が伸びなかった。

 「オンラインで購買する顧客とリアル店舗に足を運ぶ顧客が異なると思い込み、本当の顧客行動をつかめていなかったのが原因。また、当社の店舗は一部フランチャイズ運営のため、オーナーに『ネットストアに客を取られる』と思われてしまったのもネックになった」。

 図らずも“店舗 vs Web”という対立構造が生じたことを踏まえ、03年よりリアルとWebを横断して顧客行動を把握。「店舗とWebという2つの顧客接点の相乗効果を上げることが、よりよいMUJI体験の提供になる」との考えの下に実施した、オンラインクーポンを使った店舗送客などの施策が奏功した。これが同社の「デジタルマーケティング2.0」であり、今でいうO2O(Online to Offline)だ。

売上とメンバー数の推移。2003年が転機となった(講演資料より)
売上とメンバー数の推移。2003年が転機となった(講演資料より転載。以下同)

企業の側から歩み寄り、顧客の声は年間17万件にも上るまでに

 そして、今まさに展開中の「3.0」と位置づけるのは、言わずもがなソーシャルメディアのビジネスへの活用だ。09年よりTwitter、翌年よりFacebookの運用を開始した。

 「情報もモノもあふれる時代、顧客に商品を選んでもらうのはますます難しく、購買行動も複雑化している。そこで重要なのは、企業の側から顧客に近づいて関係を構築する姿勢。ずば抜けてイノベーティブなわけでも、最安値を争えるわけでもない我々の商品が支持を得るには、企業の顔がしっかり見えるコミュニケーションを図ることが大事だ」と、川名氏は指針を語る。それを実現した結果、同社には年間17万件もの声が寄せられるようになった。

 ひとつの“顧客の声”はあくまで個人的な意見であり、一般化するのは難しいが、同社ではテキストマイニングによって広く生活者の間に存在するイメージを分析している。例えばLEDライトに関するコメントに「子ども」「枕」などのキーワードが挙がったら、次の広告に子どもの枕元で使用されているビジュアルはどうか、といった具合だ。

 「生活者から見ると企業の実体はよく分からないものだが、結局は商品をつくる人や売る人の集まり。それら企業やブランドと生活者の間をつなぐのに広告が大きな役割を果たしているが、今ではそこにSNSが加わった。SNSやWebサイト上での対話を重ねて商品開発などの実際の事業に反映させることが、愛されるブランドになるための道になっている」。

B with Cを実践し、最高の“MUJI体験”の提供を目指す

 今年6月に行ったキャンペーン「ぜんぶ、無印良品で暮らそう。」では、無印良品が商品として家も扱っていることの認知を広げるために、2年間暮らす無料モニターへSNSアカウントでの応募を募った。MUJIのロゴにかざすと家の内部が見られるアプリなども展開し、SNS上での話題を醸成。たくさんの顧客接点を包括し、ブランドと生活者との距離を縮めている。

 「顧客と商品やサービス、そして企業の中で働く我々の間での対話を通して、最終的に目指しているのは顧客に最高のMUJI体験を提供すること。広告によって100万人に一気にメッセージを届けるだけでなく、ブランドとの距離が近い100人の顧客に伝え、それをまた100人、次の100人へと波及させていく。それを実現するために、一番の顧客と直接話せるプラットフォームづくりが大事。顧客とつながることを重視し、そこに投資していく。フロー型からストック型へのシフトが、これからの新しいコミュニケーションのあり方だろう」。

 最後に川名氏は“B with C”というキーワードを挙げ、「これからは生活者や世の中のために、共に何をするかという視点で事業に取り組むことが必要」だと提示。顧客の声を捉えやすくなった今、積極的に近づいて顧客理解を深めようとするブランドが生き残ると展望を述べた。

“With”が重要なポイント(講演資料より)

企業に求められる「スマイルカーブ」の両端の強化

 次に登壇したのは、企業のビジネスプロセスを最適化するさまざまなソリューションを提供しているSAPジャパン の瀬尾直仁氏。「アナリティクスの新たな潮流~SNSをより効率的に分析しビジネスにつなげるには?~」と題し、最新事例を交えた内容が展開された。

SAPジャパン ソリューション営業統括本部
ビジネスアナリティクス営業部 マネージャー 瀬尾 直仁 氏
SAPジャパン ソリューション営業統括本部 ビジネスアナリティクス営業部 マネージャー 瀬尾 直仁 氏

 ドイツに本社を置くSAPは、55,700人の従業員により世界120カ国で活動、75カ国に現地法人を有している。グローバルでは約10万社、SAPジャパンが対応する日本のユーザー企業は2,000社に上る。

 同社は長らく基幹業務システムを手がけてきたが、近年はデータ分析の領域を強化し、またモバイル対応を推進、いずれもクラウドで提供することでビジネスのリアルタイム化を進めている。Business Objects社統合後の2010年よりSAPはビジネスアナリティクス市場でもNo.1のシェアを獲得している。

 多様なクライアントに接する中で、最近の日本企業を取り巻く環境について瀬尾氏はJMAマネジメント研究所による調査(※)を挙げる。これによると、経営者が感じている2012年の課題として1位は「売上・シェア拡大」、次いで収益性向上と人材強化、4位が「新製品・新サービス・新事業開発」。瀬尾氏は「研究開発と、販売・サービスの両面、つまりスマイルカーブの両端の強化に課題がある」と指摘する。

JMAマネジメント研究所「第34回当面する企業経営課題に関する調査」より
JMAマネジメント研究所「第34回当面する企業経営課題に関する調査」より抜粋

ソーシャルメディア×ビジネスデータ

 この両方に、ソーシャルメディアは大いに活用できる。顧客の声からニーズを捉えて新たな開発に活かし、またソーシャルメディア上での伝播によって販売を伸ばしたり、購入後のコミュニティー運営などによってサポートや顧客育成につなげたりすることも可能だ。

 「顧客の声を事業に活かすことは昔から行われていたが、ソーシャルメディアの双方向性やリアルタイム性によって、得られる情報量は劇的に豊かになった。だが、ビジネス側がその量やスピードに対応できているかというと、まだとても十分とは言えない。企業もコンセプト開発から市場導入まで、またその反応を次の開発に活かすまでのビジネスプロセスを最適化し、できる限りリアルタイム化することが求められる」。

 例えば、SAPがサポートしたある食品メーカーでは、ソーシャルメディア上の声をビジネス上の意志決定に活かしている。刺激的な表現が含まれる新CMキャンペーンを同社が展開したところ、コールセンターに否定的な意見や放送中止を求める意見が殺到した。一方、ソーシャルメディア上のデータとコールセンターのデータを統合して分析したところ、むしろターゲット層には「革新的」だと高く評価されていることが分かったという。

 「一時はキャンペーンの中止も検討されたが、この結果を受けて続行が決まり、売上に大きく貢献した。キャンペーンそのものをリアルタイムで分析し、判断材料として採用した事例となった」と瀬尾氏。

自然言語解析を実現した「SAP Social Media Analytics by NetBase」

 「顧客や生活者の声をリアルタイムに得られるというスピードをビジネスに活かすには、売上や在庫、POS、コールセンターのログなどのデータ収集や活用もリアルタイムにしなければいけない。こちらの支援については、当社で現在特に注力している分野」だと瀬尾氏は話す。例えばソーシャルメディア上の情報とビジネスデータを掛け合わせて集計し、その関連を可視化すると、より立体的な分析ができる。

 「『売上が伸びていない』といっても、不評なのではなく、ニーズはあるのに入手経路が乏しい場合もある。ソーシャルメディアでは『購入しなかった』人の意見も捉えられるので、実際に当社のクライアントでは『買わない』のではなく『買えない』状況を検出し、販売を大きく伸ばしたケースもある」。

 では、数値のように単純には集計できないソーシャルメディア上のデータを、どのように扱うのだろうか。同社の支援事例では、分析ソリューション「SAP Social Media Analytics by NetBase」を活用している。

講演の中で実演した『iPad』の分析イメージ。キーワードに関するサマリ(画面上部)や
頻出頻度(画面左下)、ポジネガ傾向(画面右下:緑がポジティブで右がネガティブを表す)
講演の中で実演した『iPad』の分析イメージ。キーワードに関するサマリ(画面上部)や頻出頻度(画面左下)、ポジネガ傾向(画面右下;緑がポジティブで右がネガティブを表す)

 コメントのポジティブ・ネガティブ判定を超えて、気持ちの強さや、それがどういう行動につながっているかなどを特定して分析する自然言語解析を整備しているため、客観性の高いデータとして抽出することが可能だ。全世界で1.5億以上、日本固有のサイトでは60万のソーシャルメディア上のデータを過去1年分蓄積し、網羅的かつ時系列での把握を実現した。

ソーシャル・エンゲージメントの形成が事業の推進と連動する

 これを活用してビジネスデータと連動させると、ポジティブなコメントが多いのに売上に反映されていない理由は何か、あるいはネガティブ発言が目立っても売上に影響していない場合にどう対応するか、といった細かな考察ができ、ソーシャルメディア上の情報を最大限ビジネスに反映できるようになる。

 「コメントの投稿数や内容と売上などの関連が見えるようになれば、需要の予測や在庫管理もしやすくなる」と瀬尾氏。インフルエンサー分析や競合分析、また現在多くの企業が取り組んでいるFacebookページの分析などの機能も、導入企業には効果的に活用されているようだ。

 企業のソーシャルメディア活用における今後の方向性について、瀬尾氏は「ソーシャル・エンゲージメントの形成が加速する」と述べる。ソーシャルメディア上の声に耳を傾け、リアルタイムで対応しながら、ビジネスデータと連動させて顧客を深く理解することが、そのまま事業の推進に結びつくようになるからだ。「ソーシャルメディア上の声という大量かつ貴重なデータソースを使って、ビジネスプロセスの最適化にさらに注力したい」と、瀬尾氏は講演を締めくくった。

顧客の本音といかに向き合い、どう付き合うか?

 最後の講演は「顧客の本音といかに向き合い、どう付き合うか? 先進企業がリアルに語る、これからの時代のソーシャル戦略とは」と題し、パネルディスカッション形式で実施。MarkeZine編集部 押久保剛編集長をモデレーターに、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン 渋谷正利氏、電通 石谷(いしがい)聡史氏、ブレインチャイルド 池野成一氏、SAPジャパン 瀬尾直仁氏の4名を迎えた。事業会社、広告会社、BIコンサルティング会社、ソフトウェアベンダーという異なる立場から、活発な議論が展開された。

ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン マーケティング部
デジタルマーケティング課 チーフ 渋谷正利氏(写真上段左)
電通 プラットフォーム・ビジネス局 事業1部
コミュニケーション・プランナー 石谷 聡史氏(写真上段右)
ブレインチャイルド 執行役員 事業開発部 池野成一氏(写真中段左)
SAPジャパン ソリューション営業統括本部
ビジネスアナリティクス営業部 マネージャー 瀬尾直仁氏(写真中段右)
MarkeZine編集部 編集長 押久保 剛(写真下段)

 先の2つの講演を踏まえて、押久保編集長は「インターネットのない時代は実店舗やアンケートなどリアルな場で捉えた顧客の声、また売上データや各種ビジネスデータを事業に活かしていた。それが現在では、ネットが顧客の声を捉える場として確実に機能しており、特にソーシャルメディアの意義が大きくなっている。企業と生活者が直接コミュニケーションでき、リアルタイムでその声が分かるという環境が整っている」と解説する。

 かつては得られなかったこうしたリソースを事業展開に活かすには、顧客満足向上のために地道なコミュニケーションを重ねる一方で、今回のセミナーの主題に掲げたソーシャルアナリティクスに着手し、さまざまなデータを“使える”形にしていくことが必要だ。

共感を得られ、拡散するトピックを企画段階から組み込む

 実際に、事業会社では今どのような取り組みが進んでいるのだろうか。ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンの渋谷氏は、自身が取り組むゲーム機やゲームソフトのプロモーションにおけるソーシャルメディアの活用について次のように話す。

 「活用の目的は、プロモーションにおける効果を最大化すること。プロモーションの内容を広く伝え、また顧客からの反応を分析するために、ソーシャルメディア上の拡散状況は常に意識している。企画段階から拡散してもらえるような共感性の高いトピックを盛り込み、リリースしたらリアルタイムの反応を捉えて施策を実施しながら最適化に取り組んでいる」。

 以前も、例えばテレビCMを放映した後に認知や商品理解がどう進んだかを調査し、次に活かしていたが、タイムリーにはできなかったと渋谷氏。企画を実行しながら改善していける点は、以前と今とで大きく変わった点だと見解を述べる。

 このようにソーシャルメディア上の反応を施策の改善に活かしているのは、まだ一部の先進企業に限られるだろうと、電通の石谷氏は指摘する。

 「“リアルタイムで行っている”といっても、半年ごとの分析を1か月単位に縮めていることを指しているケースもある。クライアントと接する際は、まず何のためにソーシャルメディアを活用するのかを確認することが大事だと感じている」(石谷氏)。

素早くフィードバックできるバックエンドの基盤づくりが必要

 文脈を伴う顧客の声のような情報は、数値データのように単純に分析することができない。そこで今、高度なデータ分析ツールや分析に関するコンサルティングが活況の兆しを見せている。

 こうした領域で企業にソリューションを提供しているブレインチャイルドの池野氏は、先の石谷氏の意見に賛同し「これまでできなかったリアルタイム分析などの手法は、『できないこと』を前提に考えていた以前の状態に甘んじていると活かせないので、この文化から変えていくのが確かに大きな前提になる」と話す。顧客の声を客観的なデータにするには、今や分析ツールは欠かせないが、まずは企業の側の意識を変えることが必要だ。

 実際に顧客の声を客観的に扱えるデータにした上で、企業が直面している課題は、具体的な分析方法だ。顧客の声と、ソーシャルメディアへの投稿数を初めとする数値化できる指標を組み合わせ、そこから何を読み取りどう施策へ活かすかはケースバイケースであり、定石がないのが現状だ。

 さらに、「分析したデータをマーケティング部門だけでなく事業部門に活かせる、バックエンドの意思疎通や基盤づくりも課題」だとSAPジャパンの瀬尾氏は指摘する。「分析ツール自体はクラウドベースでの提供などにより手頃になっているが、社内のビジネスプロセスが整っているかどうかで成果は大きく変わってしまう」。

 リアルタイムで情報を得られても、それを素早く判断しフィードバックしなければ、施策や事業の改善に十分に活かせないわけだ。

データの収集・分析・活用 社内で連携すべき3つのレイヤー

 こうした状況について石谷氏は、3つのレイヤーがあるとして解説する。

 「まず、データを集めるフェーズ。次に、それを分析し、必要な結論を効率的に導くというフェーズ。そして、それをビジネスに反映させるフェーズ。当社では必要に応じてクライアント内の各フェーズを担当する部署に関与するが、ここでネックになるのは各フェーズのスペシャリストの連携がスムーズにいっていないこと。収集、分析、活用を結びつけていかにいい解決策を出せるかが、最終的な成果を左右する」。

 収集のフェーズでは、顧客の声をできるだけノイズの少ないデータに整える、データのクレンジングが必要だ。池野氏は「ソーシャルメディア上の声のすべてが売上に影響するわけではない。その価値を見極める必要はある」と指摘する。「顧客の声と従来の数値データをひも付けて読み解くにも、POSデータなどは結果的に得られるデータであり、分析しやすい形になっていない。こうした部分の改善も必要だろう」。

 また、データ収集の仕組みの見直しや分析ツールの効果的な導入に加えて、最後の活用のフェーズでは、企業の側に分析結果を見極められる知見を蓄積することが重要だ。

 データ量が増えるほど、得られる示唆が充実する一方、注目する部分が違えばまったく逆の方向へ舵を切ってしまうこともある。「同じ分析結果でも捉え方によって事業への貢献度も差が開くので、ソーシャルアナリティクスで勝負するなら活用のセンスを磨くことが不可欠になる」と石谷氏。

ソーシャルデータとビジネスデータ連携を実現する際の課題に対して
それぞれの立場から意見交換を行う
現在浮き彫りになっている課題に対してそれぞれの立場から意見交換を行う

分析結果を他部門にもフィードバックし、全社的な取り組みへ

 その指摘を受け、瀬尾氏も「最終的にはビジネスに活かすことが目的なので、非構造化データを扱う場合でも適切なKPIを設定し、PDCAを回すことが大事」だと話す。だが、リアルタイムで顧客の反応が得られることは単純に施策に携わる者にとって興味深く、それ自体がモチベーションの維持向上にもつながっているだけに、多くの企業で「ソーシャルメディアを重視している=見ているだけ」という状態にも陥りがちのようだ。

 では、すでにソーシャルアナリティクスに積極的に取り組んでいるソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンでは、KPIなどの指標をどう捉えているのだろうか。渋谷氏は、「これまでもプロモーション実施時にアクセス解析などは行っていたが、それに加えて戦略的に施策に込めたキーワードの拡散状況、反応がポジティブかネガティブか、などソーシャルメディア上のコメントを多面的に捉えている」と話す。もはや、PVやUUだけでは、施策の効果を評価しきれないという。

 「そうして分析した顧客の声を他部門にもレポートすると、やはり活発な反応が返ってくる。まだ試行錯誤の状態だが、今後も客観性のあるデータや分析結果をカスタマーリレーションや商品企画などさまざまな部門にフィードバックし、全社的な活動にしていきたい」と、現在の取り組みをさらに推進する意向を述べる。

熱心に耳を傾ける来場者
熱心に耳を傾ける来場者

リアルタイムに対応しながら、最終的な事業の推進を見据える

 顧客の声をリアルタイムで捉え、客観的に分析して事業に活かせる環境が整った今、石谷氏は“ゆだねるコミュニケーション”を実行する姿勢がカギになる、と話す。「企業の側から顧客に近づけば、それこそMUJIの事例のようにこちらの活動に積極的に参加してくれる顧客も現れてくる。顧客と企業、あるいは顧客同士での発展的な議論や製品の改善へのプロセスを楽しんでもらい、そこから得た声をまた事業に反映させていく。海外にも、スターバックスやドミノピザなどで成功事例がある」。

 “ゆだねる”過程においては、企業の都合のいい意見ばかりが上がってくるとは限らない。だが、それらも含めて真摯に受け止めて対応すれば、それが信頼や親近感を生み、ファンを育てることにもつながるのだ。「ある程度の余地を残して、顧客と共に考えるという構えがポイントになる」と石谷氏。

 そうした取り組みを進めるためにも、効果的なツールの導入と体制の整備を両輪で検討すべきだろう。その展望について瀬尾氏は「顧客対応や施策の最適化はリアルタイムで行いながら、事業の推進という最終的な目標を見据えて動くことが求められる」と話す。加えて、池野氏は「データ活用で成果を上げている企業に共通するのは、PDCAをしっかり回せていること。粘り強く先へつなげる意識が大事だ」と提言した。

 「データの扱い方だけでなく、それを最大限に活かせる社内連携やコミュニケーションの重要性も強く感じられた」と押久保編集長。さまざまな視点からの意見によって、事業会社にもソリューション提供企業にもこれから注力すべき部分が浮き彫りになったディスカッションとなった。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2013/09/09 12:36 https://markezine.jp/article/detail/16834