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業界キーパーソンと探る注目キーワード大研究(AD)

大きな差が開き始めているデジタル広告の運用品質 大規模ブラックリスト運用で広告パフォーマンス改善も

 プログラマティック広告の存在感が大きくなる中、広告価値の毀損につながるリスクが発生していないかを正確に把握し、対策を講じるアドベリフィケーションは、ブランド広告主、そして広告代理店にとって喫緊の課題である。国内の広告代理店はこの課題にどのように対応しようとしているのか。ADKマーケティング・ソリューションズの信濃伸明氏とMomentumの高頭博志氏が語り合った。

広告主企業とプラットフォームによる「良い広告在庫」定義のズレ

――海賊版サイトへの広告掲載やアドフラウドといったネット広告の負の側面についてのマスメディア報道が話題を呼んでいますが、広告主企業におけるアドベリフィケーションへの注目度も高まっているのでしょうか。最近の動向を聞かせてください。

信濃:前職のGoogle時代に、不適切な動画への広告出稿が問題視され大手グローバル企業がYouTubeへの出稿を控えたことがありました。それから数年たち、ADKのお客様である国内の広告主企業から頂くRFP(Request for Proposal)においても、アドベリフィケーションが必須項目になった印象です。

高頭:私が2014年にMomentumを設立した当時は、広告主企業のRFPにアドベリフィケーションという項目はあまりなかったように記憶しています。それは、当時プログラマティック広告の市場がまだ小さかったからではないでしょうか。今は当時よりも幅広いリーチを望んで、幅広い媒体への出稿が求められるようになり、アドベリフィケーション対応の必要性が増していると感じます。

信濃:これまで、より多くのクリックやコンバージョンといった効果につながるものが「良い広告在庫」だという考え方のもと広告配信プラットフォームは設計されてきましたが、アドベリフィケーションの問題が顕在化するにつれ、広告主企業が考える「(アドベリフィケーションの観点からも)良い広告在庫」と、広告配信プラットフォームが前提とする「良い広告在庫」との間にズレが出てきたと思います。

――こうしたズレが存在する以上、広告主企業として何らかの対応をしないと、効果的でかつアドベリフィケーションの点でも基準を満たしている広告在庫に出稿することはできないわけですね。広告主企業がアドベリフィケーションに対応すると、どのようなメリットを享受できるのでしょうか。

信濃:大きく二つあると考えています。一つは不正クリックやロボットの操作によるアドフラウドを排除した純度の高い成果が得られるようになること、もう一つは問題のあるサイトへの広告配信を防ぐことでブランド毀損のリスクを最小化できることです。

アドベリフィケーション・ソリューションには3種類ある

――具体的にどうすればアドベリフィケーションを実現できるのでしょうか。広告主企業側にはどのような選択肢があるのでしょうか。

高頭:私たちは3通りのソリューションを提供しています。第一に、弊社が1日あたり約1億URLを解析して不適切・不正だと判断したドメイン単位のリストを広告代理店に提供して、広告代理店から各アドプラットフォームに適用してもらう「ブラックリスト」ソリューション「HYTRA DASHBOARD」があります。

 第二が、国内の主要な広告配信プラットフォームとAPI接続して配信前に検知したリスク情報をもとにリスクある広告配信を回避する「プレビッド(入札前ブロック)」ソリューションの「HYTRA API」です。

 第三は、広告主企業に第三者配信タグを提供して配信を制御し、配信後に顕在化したリスク情報もリアルタイムに採り入れることができる「ポストビッド(入札後ブロック)」ソリューション「HYTRA for Advertiser」です。

――広告主企業がアドベリフィケーション対応を考える際に、初めに導入するのにふさわしいのはどのソリューションなのでしょうか。

高頭:URL単位で不適切・不正なサイトを検出でき、最もきめ細やかなカスタム対応が可能なのがポストビッド(入札後ブロック)になりますが、これは広告主企業が配信リクエストごとに発生する一定のコストを負担して実装する方法になるため、広告主企業によっては導入へのハードルが高いかもしれません。

 したがって、広告代理店にコストを負担いただくことで幅広い広告主企業にアドベリフィケーションに対応いただける、エントリーモデルともいうべきソリューションがブラックリスト方式となります。ADKさんはブラックリスト方式を導入しており、ADKさんを通じて広告出稿するすべての広告主企業はブラックリストを除外した広告出稿を行えます。

 この場を借りて信濃さんに聞いてみたいのですが、先ほどのお話に出てきたRFPの中で求められるアドベリフィケーションはどのような要件を含んでいるのでしょうか。

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ 事業役員 アドテクセンター長 信濃伸明氏
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ 事業役員 アドテクセンター長 信濃伸明氏

信濃:いまのところ「どう対応しているか」よりも「対応しているか否か」が問われていると感じています。お客様としてはアドベリフィケーションに対応していない広告代理店には依頼できないということで対応の実態があるかどうかを確認されている印象です。

アドベリ対応の判断基準、Agency Certification Program

――広告主企業としてはどのような基準で広告代理店がアドベリフィケーションに対応しているかどうかを判断できるのでしょうか。

信濃:わかりやすい基準の例としては、Momentumさんが運営する認定プログラム「Agency Certified Program(ACP)」に参画しているかどうかですね。

高頭:ACPは、広告代理店事業者が広告主企業に対して信頼性の高いデジタル広告配信サービスを提供しているか、そしてアドベリフィケーションへの取り組みを積極的に行っているかを評価し、ACPパートナーとして認定するものです。

 業界団体がプログラムを立ち上げるのを待つという選択肢もありましたが、アドベリフィケーションは早急に対応が求められる課題であり、この分野のリーダーである私たちが主体となって信頼性の高い事業者を保証する方がより早くアドベリフィケーションの課題が解決に向かうと考え、プログラムを立ち上げました。

Momentum株式会社 代表取締役社長 高頭博志氏
Momentum株式会社 代表取締役社長 高頭博志氏

信濃:ADKがACPに参画したのは、Momentumさんがアドベリフィケーションのソリューションを提供しているからというより、Momentumさんのアドベリフィケーションの「標準」を整備するというビジョンに共感したからです。

高頭:ACPは2019年1月から始まったばかりですが、広告代理店側にアドベリフィケーションのプロフェッショナルを増やす人材育成に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

HYTRA DASHBOARDでアドベリ対応の「標準」を整えたADK

――アドベリフィケーションのプロフェッショナルとして、広告代理店にはどのような取り組みが求められるのでしょうか。

高頭:アドベリフィケーションに対応しないリスクについて、広告主企業に説明を行っていくことが重要です。私たちは「アドフラウド」「ブランドセーフティ」「ビューアビリティ」の3つの要素に対策を講じることが安全で効果的な広告出稿を行う上で欠かせないと考えています。選ぶソリューションで実装手段、コスト、そして得られる効果が変わりますから、広告代理店と広告主企業がよく話し合ってベストな手段を選べるのが理想です。

信濃:広告代理店がアドベリフィケーションの価値を広告主企業に示していくことが大事ですね。現段階では、アドベリフィケーション対応をしているか否かが広告代理店の選択基準になっていますが、いずれは「どんなアドベリフィケーション対応をしているか」が問われるようになり、市場競争を通じて業界のアドベリフィケーションへの対応レベルがさらに上がることが望ましいと思います。

 そのためにも、HYTRA DASHBOARDの導入効果をもとに、アドベリフィケーションが広告パフォーマンスに与える積極的効果、ROIについても広告主企業に発信していくことが重要だと考えています。

――ADKとしてHYTRA DASHBOARDを導入されたのはどのような狙いがあったからでしょうか。

信濃:ADKは総合広告代理店というビジネス特性から、ナショナルブランドの広告主企業を多く抱えています。先ほどもお話しした通り、アドベリフィケーションがRFPの項目として常に盛り込まれるようになり、会社としてアドベリフィケーションに対応する「標準」を持っておく必要が生じました。すべての広告主企業に対して「標準」としてサービス提供する上で、コストと導入の手軽さが決め手となってHYTRA DASHBOARDの導入を決めました。

 会社として一律に取り組むのか、個別の広告主企業に最適なものを提案するのかでは選ぶソリューションが変わります。今回の取り組みは「標準」装備としての第一歩という位置付けです。

企業によってはGDN配信の10%がブラックリストに該当

――HYTRA DASHBOARDを導入することで、どのような効果が出ているのでしょうか。

信濃:まず、日次でモニタリングしているブランド毀損率が改善しました。この事例では、HYTRA DASHBOARD導入後にブランド毀損率が半減しています。

 また、一部案件においてGDN配信URLとブラックリストの一致率を独自で調査したところ、4案件で3~9%ものURLが一致する結果になりました。これはブラックリストを導入すればかなりのブランドセーフティを担保できることを意味します。

 さらに、前出の調査では、ブラックリストと一致するURLと、一致しないURLのデータの比較も行いました。結果は、ブラックリストと一致するURLのCPAよりも、一致しないブランドセーフなURLのCPAの方が11~15%も低かったんです。これは、ブラックリストを導入しても必ずしもパフォーマンスが下がるわけではなく、マーケティングROIが良くなる可能性もあることを示唆するものだと考えています。

 この成功ケースが他の広告主企業に適応できるかを検証し、スケールさせていきたいです。それができれば多くの広告主企業にアドベリフィケーションの価値を実感してもらえると思います。

より先進的な「ホワイトリスト」運用

高頭:もっと多くの広告代理店にHYTRAを使っていただくためには、広告代理店のお客様である広告主企業にとっての価値、ROIを示すことが重要と考えています。ADKさんとはその型を作るトライアルの話を進めています。

 現在力を入れているのは、広告主企業ごとにカスタマイズした配信セーフリストである「ホワイトリスト」をご提供する取り組みです。アドベリフィケーションのデータと、それぞれの広告主企業が持つ広告パフォーマンスデータを組み合わせることで、最適な配信媒体リストの作成が可能になります。

 一部の広告主企業は、配信先を厳しく制御し、安全なドメインだけに配信する「ホワイトリスト」の活用を進めています。企業で作成した「ホワイトリスト」にMomentumが解析して安全だと判断した配信先を追加することで、パフォーマンスを向上させることができます。

信濃:アドベリフィケーションを加味した広告最適化の運用をしようということですね。これまでの広告運用では広告ランクを前提としていましたが、より広告主企業の特性を鑑みた柔軟な最適化ができるようになりそうです。

高頭:今はアドベリフィケーション対応の標準的な型ができ、最初の一歩を踏み出したばかりの状態です。さらにその先のアドベリフィケーションの価値を運用する時代が来ることに備え、私たちはより柔軟な最適化ができるソリューションを提供することを目指します。

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/09/30 11:00 https://markezine.jp/article/detail/31921