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顧客体験をAIで変革するキーワードは「顧客理解」と「体験価値」 電通デジタル住岡氏×アドビ安西氏対談

 大量のデータから顧客インサイトを発掘したり、膨大なアセットを管理してチャネル別にクリエーティブを用意したりすることは大変な労力を必要とする。AIを利用してこうした作業を省力化してマーケターの創造力を最大化したり、AIにしかできない発見を活かして魅力的な顧客体験を提供することが可能になりつつある。顧客体験のためのAIとはどのようなものなのか、電通デジタルの住岡洋光氏、アドビ システムズの安西敬介氏にうかがった。

顧客体験の向上に特化したアドビのAI「Adobe Sensei」

――AIについての関心はマーケティング関係者の間でも高まる一方です。優れた顧客体験を実現するために必要なAIとはどのようなものなのでしょうか。

安西:アドビのAIは「顧客体験」の向上に特化したものです。AI(人工知能)と機械学習のフレームワークを、私達は総称して「Adobe Sensei」と呼んでいて、この技術は多くのアドビのソフトウェアやサービスに搭載されています。

 「Adobe Sensei」が活躍する場面は大きく分けて「企業が提供するサービスやコミュニケーションを魅力的なものにする」、「マーケターの業務を飛躍的に改善する」の2つになります。この2つの場面において、“隠れた何かを見つけ出す”、“時間のかかる作業の高速化”、“意思決定のサポート”といった機能が効いてきます。

アドビ システムズ デジタルエクスペリエンス営業本部 プロダクト エバンジェリスト 兼 シニア ソリューション コンサルタント 安西敬介氏
アドビ システムズ デジタルエクスペリエンス営業本部 プロダクト エバンジェリスト 兼 シニア ソリューション コンサルタント 安西敬介氏

――その3機能の具体例としてはどういうものがありますか。

安西:“隠れた何かを見つけ出す”だと、たとえば、「Adobe Analytics」の異常値検出機能があります。トラフィックの予期しない急増や急減があった場合に自動的に知らせてくれるのですが、異常値検出後に過去の膨大なデータを詳細に分析し、原因の特定をします。

 他には「Adobe Target」というパーソナライズソリューションの中で、「Adobe Sensei」を活用した自動パーソナライズ機能を提供しています。何かオファーを出すとき、どのパターンが一番その人の状態に合っているかを判断してくれるものです。

 「Adobe Sensei」と人間とを、パーソナライズの設定で競わせたことがあったのですが、結果として「Adobe Sensei」が勝ちました。人間がパターンを設定した場合にはそれまでの成功体験でバイアスがかかっていたことが原因でした。「Adobe Sensei」の場合、学習期間の中で無数パターンを試して効果的なものを見つけていくので、バイアスのかからない判断が可能になります。

――住岡さんは元々大手テーマパークを運営する企業にいらして、顧客体験のデザインにも取り組まれてきましたが、その経験をふまえて顧客体験にAIをどう活用できるとお考えですか。

電通デジタル データ/テクノロジー部門 ソリューションディベロップメント事業部長 住岡洋光氏
電通デジタル データ/テクノロジー部門 ソリューションディベロップメント事業部長 住岡洋光氏

住岡:テーマパーク時代には「すべての取り組みが顧客体験価値向上のため」と言ってもいいほど顧客体験を重視して業務に取り組んでいました。「顧客体験価値」とは何かと考えたときに、「製品やサービスを選定・購入するプロセスや購入後の問い合わせ対応やアフターサービスから得られる体験」と「製品やサービスそのものの使用から得られる体験」の2つの軸があると思うんです。

 前者は顧客体験価値を高めるために、個に対する対応力を高めていくことになるが、そのためには徹底的な顧客理解が必要であり、様々なデータを使って顧客像の解像度を上げていくプロセスの中で、AIは大きな助けになるはずです。

 後者は、たとえばテーマパークならば入場者予測の精度向上でしょう。入場者予測によってパーク上の様々な配備が変わってくるため、お客様がサービスを体験するときの価値向上にダイレクトに結び付くのですが、AIを使って予測精度を高めることは大きな価値を生み出すはずです。

安西:住岡さんのお話は「顧客理解」「体験価値」を2つに分けて考えるとわかりやすいかもしれませんね。「顧客理解」では、膨大なデータを集めて分析してインサイトを導いたり、類似オーディエンスを探して配信先を拡張する「ルックアライク」も視野に入ってきます。こうした面はAIがさらに活躍できる舞台でしょう。「体験価値」には色々な見方がありますが、コンテンツを最適なタイミングで迅速に展開できるかが企業にとって大事なこと。それをAIがサポートしていけると思います。

 CMSやDAM(Digital Asset Management)の領域でいくと、デジタルアセットを管理する「Adobe Experience Manager」というツールがあります。このツールは、様々なタッチポイントでコンテンツを提供するにあたり、チャネルに合わせたクリエーティブを用意する必要があるところを大幅に省力化してくれます。

 たとえば、画像認証技術を使って自動的にクリエーティブのフォーカスすべき部分を切りだして色々なパターンを作成することができる機能が入っています。また、時間と手間のかかるアセットに対するタグ付けを支援するようなこともできるようになっています。

 これらはコンテンツを制作し、世に出ていくサイクルを早く回す、「コンテンツベロシティ」実現に向けたAI活用のわかりやすい例だと思います。

マーケターの仕事をもっとクリエーティブに

――これら「Adobe Sensei」の機能を使うことで優れた顧客体験を実現できるようになっていくわけですが、逆にAIにはできない、人間だからできる部分は何でしょうか。

住岡:私にはテーマパーク時代に同僚から聞いた印象に残っている言葉があります。先ほどの入場予測の話で、僕がいた当時AIなどはなかったので、予測を担当しているデータアナリストの方がチケットの予約状況や天気情報などのデータから予測を出していたのですが、その方に「変数が決まっているのだから、○○さん以外でも予測できますよね」と聞いたら、「できない」と言う。なぜなら、最後の最後に、データアナリストの経験に基づいた微調整をかけているからなんです。

 この“微調整”というエッセンスを実現できるかどうかが、AI普及の鍵になると思うんです。

安西:我々としては、AIがマーケターの仕事を奪うとは考えていません。これまでマーケターが人力でやって手間がかかっていたことや、手間がかかるからできていなかった点をAIで効率化していこうと考えています。

 一方でマーケターには、住岡さんのおっしゃるエッセンスの部分もそうですし、顧客体験のデザインにきちんとフォーカスしていただきたい。そうすることで、より良い体験価値をつくり出せるようになると思っています。

住岡:マーケターの仕事は、一言で言えば「ブランドを作ること」。そのためにAIを使ってカットできる手間をカットして、クリエーティブな仕事にいかに時間を使っていくかが重要ですよね。

 AIに関する技術は様々なものが出てきていますが、マーケターが最良な顧客体験をデザインしやすくなることは優れたツールの絶対条件だと思います。

安西:また、これからのマーケターにはいわゆるBTC型人材に必要な3要素「ビジネス・テクノロジー・クリエーティビティ」がスキルセットとして求められますね。顧客体験を提供していく中で、今はビジネスだけではものを語れなくなっているので、クリエーティブやテクノロジーを組み合わせて考えられるということがマーケターにも求められていますし、我々としてもその一助になっていきたいと思っています。

Azureとの連携で広がる可能性

――今回両社がコラボレーションして、「Adobe Experience Cloud」とマイクロソフトの「Microsoft Azure」を連携させたソリューションの提供を開始されましたが、提供の背景をお聞かせください。

住岡:きっかけは、金融系企業様の支援の中で、クリエーティブバナーを人に合わせて変えていくことでCVRが高くなるという分析をさせていただく中で、パターンが300通りできたのですが、これを人力で設定してカスタマージャーニーに乗せるのはほぼ不可能という課題認識がありました。

 そこにマイクロソフトとアドビの提携のニュースが届いたので、ターゲットに対して自動的に最適なバナーを出し分けられるソリューションを共同開発しようと考えたんです。

安西:今回の場合、顧客理解、セグメントの分割、スコアリングなどはAzure側で実現しています。各セグメントが購入に至る代表的な行動パターンを抽出した上で、「Adobe Target」の自動パーソナライズ機能を使って、最も購買につながりやすいシナリオにコンテンツを配信し、さらにはそのクリエーティブの検証も可能になっています。

――両社はどんな役割分担で関わっているのでしょうか。

住岡:あえて分けるなら、顧客体験をデザイン・施策まで落とし込むのが電通デジタルで、その実現をアドビのプラットフォームで支えていただくような関係で進んでいます。

安西:僕らはあくまでプラットフォーマーです。しかしそのプラットフォームはお客様のサービスや状況に合わせられるよう、カスタマイズ性が高いものなので、価値を引き出していただけるかは、プラットフォームに載せる顧客体験のデザイン・施策にかかっているという部分があります。その部分を最大化していただけるパートナーが電通デジタルさんだと思っています。

 かつ、電通グループのマーケティングプラットフォーム「People Driven DMP」とのソリューション連携など技術的な連携もしていますし、当社のWebサイトであるadobe.comの運用も、その連携を使いながらご協力いただいているという実績があります。一緒に取り組みをしながら、ナレッジを貯めて成長していける関係にあると感じています。

AIがつくり出す未来の顧客体験とは

――まだ実現していないけれど、近い将来にAIで可能になる顧客体験についてお聞かせください。

安西:ひとつおもしろい例として、当社のイベント内で「Sneaks」という、研究開発中の最先端テクノロジーを披露するセッションがあるのですが、7月に公開されたものの中に、カスタマージャーニーの未来予測ができるというツールがありました。

 どういうことかと言うと、これまでのデータから解約の可能性が高い行動パターンが導き出されたときに、解約を阻止するために送るメールを過去のメールから3パターン抽出して、その中からマーケターが選んで解約防止していくというのをコミュニケーションフローの中で考えていきます。

 これまで、どうしても過去のデータを見て施策を考えるしかなかったのを、AIに助けられながら次の施策を試していけるという好例ではないでしょうか。

住岡:エクスペリエンスの観点から言うと、パーソナライズは今はデジタルの世界でしか実現できていないですが、オフラインもオンラインも関係なく、データに基づいて、すべてのチャネルがその人に向けてパーソナライズされていくような世界が実現するのではと思っています。

 今のところリアル店舗は誰が見ても同じ景色ですけれど、今後はオフラインの世界でもオンラインのように一人ひとり見える景色が変わってくる時代が来るのではないでしょうか。興味を持った人が店舗に入ると、ダイナミックに商品の並べ方が変わるみたいなイメージです。

安西:オンラインとオフラインを統合した顧客体験をどう提供していくかは、今後重要なポイントです。

 それと近い話として、ヒースロー空港でフライトまでの動線をARで表示するという実証実験を行った例があります。その中ではフライトに向かう道すがら、その人に合ったお店のレコメンドを出したり、案内表示板をその人の言語に対して変えたりして、最後はフライト情報の掲示板にその人自身のフライト情報を強調表示できるようにしています。

 そんな感じで、マーケターが簡単に設定できるような仕組みができれば、ARを通してリアルな場所におすすめ情報を出したり、レコメンドしたりが可能になります。こうしたレコメンドの裏側はAIがサポートしています。

 現段階では、AIはデータの処理や予測をいかに加速させるかが大きな役割となっていますが、その領域が今後どんどん増えてきて、オフラインも含めて、AIを使った顧客体験を届けられるようになると想像しています。

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/03/12 12:42 https://markezine.jp/article/detail/32416