短時間でフルアテンションを取れる強み
MZ:これだけTikTokの人気・影響度が大きくなっているのは、なぜだと思いますか。
天野:世の中の流れとTikTokの特徴が起因しています。世の中の流れに関しては、ユーザーの情報発信・取得が動画にシフトしていることが挙げられます。スマホの性能、通信速度が向上し、誰もがいつ・どこでも動画をストレスなく見ることができるようになりました。
LINEリサーチの調査によると、「スマホで調べものをするときに使っているものは?」という設問でTikTokやYouTubeなどの「動画アプリ/サイト」と答えた割合は5割弱となっており、情報収集の手段としても主要なものになっているのがわかります。
そして、TikTokの特徴に関しては、フルスクリーンでフルアテンションを取れる点があります。TikTokは縦画面でフルスクリーンの音声ありと、視聴者が注視するフォーマットになっています。TikTok For Businessの調査からも、他の主要プラットフォーム3社のユーザー平均よりも、「音声ON」が160%、「全画面視聴」が162%という調査結果が出ていて、主体的な視聴態度だと言えます。
これまでもVineなど短尺動画に関するサービスはありましたが、タイムラインの中に動画を埋め込むという発想で、既存のプラットフォームの範疇を超えるものではありませんでした。フルスクリーンというのはスマートフォンのポテンシャルを活かす一つの発明だったということです。
さらに、前述したようなTikTokのレコメンドの精度の高さにはこういった現代的意義もあると考えています。話題を呼んだ一冊『中動態の世界』(東京大学大学院准教授・國分功一郎著、医学書院、2017年)では、私たちのよく知る能動態/受動態という二項対立にはあてはまらない「中動態」がテーマとなっています。
ここでは単純な整理にとどめますが、能動態と受動態は、行為と行為する主体そのものを切り離して対立させるようなありかたを指す一方で、中動態は行為する主体がその行為の過程に含まれるような形式を指している。私たちの行動履歴が機械学習データとなり、それが「おすすめ」として戻ってくるという再帰的な情報との出会い方こそ、まさに中動態なのです。
受動的に情報を受け取るだけでは飽き足らず、能動的に情報を探しつくせない現代において、若者を中心に求められているのは中動的な情報との出会いに他ならないのではないでしょうか。
広告メディアとしての価値も高まっている
MZ:最近では、企業によるTikTok活用も増えていますが、どのような活用法が考えられるのでしょうか。
天野:TikTokと言えばハッシュタグチャレンジの印象が強い方もいるかもしれませんが、TikTokでは様々な広告プロダクトなどの整備が進んでいます。そのため、基本的には他の動画プラットフォームと同じような構造で活用できるようになっています。
公式アカウントの開設や予約型と運用型の広告配信、TikTokクリエイターを起用した広告キャンペーン、UGC創出を目的としたキャンペーンなど、他の動画プラットフォーム活用で行われてきたことはほとんどできる状況です。
MAU(16歳以上)も1,700万近くまで増加しリーチも拡大しているため、広告メディアとしての価値も高まっています。テレビCMや動画広告を制作し、その素材をTikTokで広告配信することも可能です。これまでだとテレビCMとYouTubeやTwitterの広告を並行して配信することはありましたが、今後のメディアプランニングにおいてはTikTokも選択肢に入るのが定着してくると思います。
また、TikTokのコンテンツレコメンデーションを応用した興味ターゲティングも活用できるため、的確なリーチが可能になります。広告を配信すればターゲットの反応がわかるので、それを踏まえた上でインフルエンサーマーケティングなどの施策に広げていくのが良いと思います。