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『MarkeZine』(雑誌)

第100号(2024年4月号)
特集「24社に聞く、経営構想におけるマーケティング」

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MarkeZine RESEARCH(AD)

人に寄り添うデータ活用による「需要喚起」と「ブランドエクイティの管理」が今後の統合マーケティングの鍵

 MarkeZine編集部が刊行した『マーケティング最新動向調査 2023』では有識者による論考を5本収録しています。今回、その中から「統合マーケティング」をテーマにした論考を特別公開します。オンオフ統合を実現するために重要なポイントを7つの論点から考える本稿、ぜひ御覧ください。

考えるべきは、デジタルマーケティングではなくマーケティングのデジタル化

 現在マーケティングの大きな変化として、押さえておきたい点が2つある。1つは新型コロナ発生以降に加速した生活様式の変化による“デジタル接点で捉えることのできる生活者”の増加。もう1つはプラットフォーム事業者の提供するデータ分析環境の進化だ。

 この2つにより、マーケティングのオンオフ統合が顧客のIDベースで進み、市場機会の発見から戦略立案、施策の実行、改善までが一気通貫でマネジメントできるようになる。また、生活者の“潜在的なニーズ”を見つけ、その“需要を喚起”し、購入を促し、購入後の商品利用の満足度を高めるところまで、より顧客視点で統合されたマーケティングも実現することができる。

 ここから数年は、単なるデジタルメディアを活用したマーケティングではなく、本格的にオンオフを統合しマーケティング自体をどうデジタル化していくかが問われていくだろう。このマーケティングのデジタル化に際して、重要と思われる論点を7つ述べていきたい。

1.デジタル接点の拡大が、IDベースのマーケティングを加速する

 生活様式の変化により、顧客接点はオンライン化やアプリ化が加速し、IDに紐付くデータの種類が格段に増えてきている。たとえば、スマートフォン端末ごとの広告識別子やメールアドレス、SNSのログインIDなどのデータに加えて、テレビのオンライン結線による視聴ログの取得、キャッシュレス決済による“購買データ”など、統合され得るデータも飛躍的に増加。大規模なIDをベースに、マーケティング戦略の立案から施策の実行、効果検証までをマネジメントできるようになり始めている。

 この影響は、デジタル中心の業界(アプリゲームやEC商材など)だけに及ぶものではない。市場規模が大きく、デジタルだけで顧客を捉え動かすことが難しかった消費財カテゴリーなどへ与える影響が大きいことが注目すべき点だろう。

2.データ分析環境の進化は、様々なデータの統合を可能にする2つ目の変化である

 データ分析環境の進化とは、個人情報保護の意識が高まる中、プラットフォーム事業者が提供を始めたデータクリーンルーム(以下、DCR)が代表的だ。

 各プラットフォーム事業者が許諾を取得したデータや、その他の外部データを個人が特定できない環境で統合・分析しながら、高度なデータマーケティングを可能にするDCR。この活用が非常に重要になってくるだろう。また、自社で蓄積するデータとその分析の基盤としてのカスタマー・データ・プラットフォーム(以下、CDP)の普及も目覚ましい。購買データや調査データ、広告関連の接触データも、DCRやCDPでのID連携が行われており、個人情報を保護した上で、統合的にデータマネジメントできるようになってきている。

 このように、様々なデータがIDベースで分析可能になることで、これまでは“自社で取得したお客様データ”をCRMで活用するにとどまっていたものが、まだ自社の顧客になっていない、あるいは顧客だがIDを把握できていない“自社の外のお客様データ”を精度高く捉えマーケティング活用できるようになってきているのだ。

本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、 「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2023』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。
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本記事でご紹介した他、4本の論考に加え、MarkeZine読者を中心に実施したアンケート調査の結果とクロス集計の結果に加え、「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2023』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。

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3.新たな分断に備えたデータマネジメントの必要性

 データ分析環境の進化は、統合マーケティングにおいて大きな変革点だ。反面、プラットフォーム事業者ごとにDCRが存在することで、分析に必要な仕様などが異なり、結果、プラットフォームごとにマーケティング施策が分断されてしまう面もある。

 この点に関して、たとえば電通は、複数のDCRを一元管理するシステム基盤「TOBIRAS」を開発。データ転送や集計、各DCRにおける分析結果が、プラットフォーム横断で比較・評価できるようにしている。

4.需要の「刈り取り」発想から、需要の「創造」へ

 では、具体的に「自社外のデータがマーケティングに使える」とどのようなことが起こりうるのか?

 これまでデジタルマーケティングでは、既に顕在化した需要を捉え購入に導く、いわゆる「刈り取り型」とよばれるアプローチが多く行われてきた。たとえば過去の購入履歴に基づいて配信するリターゲティング広告などで、いわば「買いそうな人を見つけるためのデータ利用(需要の消費)」と言えるかもしれない。

 一方で上流の、たとえば「車が欲しい」という需要を喚起する部分にデジタルで着手する企業は少なかった。自社が創出した需要が、上記の「需要の消費型マーケティング」を実施する他社に刈り取られる可能性も高く、投資対効果が見えづらいためだ。

 しかし、外部データを上手く活用することで、需要創造型のアプローチが可能になる。

 まずは「潜在的な需要を顧客視点で見つけること」が第一ステップだ。行動ベースの外部データから、たとえば「自動車はこれまで検討していないが、アウトドア好きかつ屋外で1人でリモート会議をすることが多いビジネスパーソン」など自動車業界の外にいる潜在顧客を抽出し、IDベースのアプローチにより「その人の志向性にあったニーズや価値」を提示することで、需要を喚起していく。

 必然的に、生活者をしっかりと見つめ、その志向性に合う形で需要を喚起するため、生活者に寄り添った、プロダクトアウトではないマーケティング発想になっていく点も、この「需要創造型マーケティング」のメリットだと言える。

5.喚起した需要を自社に導くための、データドリブンの顧客体験デザイン

 これまでは、需要創造型アプローチの後の行動は“お客様任せ”になっていた。自動車のCMを見たらお客様が来店してくれるだろう、という希望的観測でキャンペーンを組み立て、店頭の演出などで「待ち構える」しかなかった。

 しかし、IDベースでのマーケティングでは、「需要喚起された人」に直接かつ継続的にアプローチができる。「CMで欲しい気持ちが高まった人に、その人の志向性に合わせたWEBコンテンツを届ける」ことや、「デジタル広告で、その人が求める絞り込まれた情報がランディングページとして表示される」おもてなしを実現し、また「SNSで商品の話題にコメントしたIDを捉えて、より詳しい情報をお届けする」ような動線づくりをも可能にする。

 喚起した需要を基点に、より生活者のニーズに合わせた情報構造設計、結果としてのマーケティング目標の達成という、寄り添い型のアプローチに大きく変化していくのだ。

6.企業発想ではなく、真に「生活者に寄り添う」マーケティングへ

 このようなIDベースのマーケティングの進展に伴い、特に、改正個人情報保護法やGDPR(EU一般データ保護規則)、Cookieの規制など、法的・技術的にも個人情報の取り扱いには注意が必要だ。

 合法でも、生活者が忌避感を示す使い方は決してできない。生活者にメリットがないような企業視点での使い方はもちろん、メリットがあったとしても、受容されるかどうかはまた別の話だ。生活者に近い所にデジタル接点が入ってくれば来るほど、どれだけ情報を届ける人に寄り添い、ポジティブな変化を促せるかという、本質的な課題に向き合わなくてはならない。

 これまでの企業発想のマーケティングから脱却し、顧客に寄り添うPeople-Driven(人基点)のマーケティングを組み立てること。つまり、幅広い人のデータを扱うことを前提にした、本当の意味での生活者中心のマーケティングが企業に求められているのだ。

本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、 「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2023』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。
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7.データエンジニアリングをマーケティングに統合する

 「People-Driven」のマーケティングを実践していくためには、データエンジニアリングと融合した顧客体験の設計が必要となってくる。

 現在は顧客データが「たまった後」にその活用を検討する会社も少なくないが、実は「マーケティング活用の許諾の有無」や「データの統合的運用につながるID取得をしているか」「自社の市場にインパクトのあるIDやデータ量を見込めるか」など、事前に設計しなくてはならないことが多い。

 これからは蓄積されたデータをどのように利活用していくのかとともに、データを利活用しやすいようにどう蓄積していくのかという、エンジニアリングの視点での設計が必要だ。

 つまり、顧客のどの体験を高めるために「どのデータを」「どう取得し」、「どのように統合していくことになるのか」をマーケティングのプランニングの段階から設計する必要がある。そして、データの利活用や統合を顧客に納得してもらい、マーケティング部門とエンジニアリング部門が分断することを防ぐためにも、その企業として、どのような顧客体験を提供するために、データを取得しマーケティングを統合していくかの「ビジョン」が強く求められている。

 たとえば、マーケティングのデジタル化を推進するに際して「購入前から購入後まで顧客に寄添った体験設計をする」という「ビジョン」を示すことで、マーケティング全体が、プロダクトアウトから、顧客中心へと変わっていくなどだ。

人に寄り添うデータ活用による「需要喚起」と「ブランドエクイティ(資産)の蓄積」が鍵

 ここまで、マーケティングのデジタル化に際しては、オンライン・オフラインの顧客接点を通じて「顧客に納得感をもってデータを提供してもらう」体験の設計が必要であるとともに、データを預かった後、「顧客体験がより良くなり、結果として自社の商品を使い続けてもらえる」ような、データマネジメントの重要性について述べた。

 特に、IDベースのマーケティングで効果的・効率的に新しい需要を喚起していくことは、今後、マーケティング担当者にとって重要なミッションになるだろう。

 統合的なデータマーケティングと人中心の体験設計は、データをストックして活用することで推進されるのだ。

 一方で、データのストックは手段に過ぎない。忘れてはいけないのが、IDベースで「ブランド」のストック(資産)を管理することだ。どんなにテクノロジーが進んでも、その先にいるのは一人の生活者だ。データをため、顧客インサイトを導き、施策を打った結果、ブランドと生活者の気持ちの中に何がストックされ、ブランドの資産となったのか。その人は、需要が喚起され、ブランドに共感し、次も選びたいと思ってくれているのか。これからは、データの利活用という手段から、ブランドエクイティという商品や事業の付加価値向上という目的にむけて、データマーケティングのマネジメントも統合して考えていかなくてはならないのだ。

本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、 「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2023』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。
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この記事の著者

江頭 瑠威(エガシラ ルイ)

株式会社電通 データマーケティングセンター PDM推進部 部長/シニアディレクター 2006年株式会社電通入社。広告のアカウンタビリティ研究部門を経て、戦略プランニング部門に異動。ブランドコンサルティング、コミュニケーションプラン、PRコンサルティング等を、幅広いクライアントに提供。2012年ビジネ...

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MarkeZine(マーケジン)
2023/07/14 15:21 https://markezine.jp/article/detail/42507