消費には「好循環」が起こることがある
本連載の3回目で、「心が動く消費の好循環」について、その構造を包括的に解説させていただきました。振り返りとして概略だけお話しすると、人々は心が(前向きに)動くような消費をすると、そこから派生して次の消費をする。つまり、心が動く消費は、また次の消費に繋がり、好循環をもたらすという構造がDDD実施の『心が動く消費調査』の結果からわかっており、第3回では調査内の実際のアンケート回答とともにこれを解説していました。
今回は、この「消費の好循環」にさらに深く踏み込みます。前半では、定量的なアプローチから消費の好循環をマクロに捉え、これが消費者や企業にもたらすメリットや、好循環に繋がる際の具体的な要素についてご紹介します。さらに後半では、『心が動く消費調査』の具体事例を基に、帰納法的なアプローチで好循環が生まれる時の要素を整理した結果をお伝えしたいと思います。
さて、DDDでは、消費を以下のように類型化しています。
①単発消費:心は動いたが、その後に消費に至らなかった状態
②好循環消費:心が動いた結果、何らか次の消費意欲が掻き立てられた状態
さらに、②の好循環消費を分類したのが次の2つです。以降では、この類型に沿って「好循環消費」を詳しく見ていきましょう。
①リピート消費:心が動く消費をし、また同じものを利用したり購入したりしたいという気持ちになった状態
②派生消費:消費で心が動いた結果、そこから派生したモノ、あるいは一見まったく関係のないものを消費したい気持ちになった状態
単発消費は、消費者にも企業にもメリットが少ない
「単発消費」「リピート消費」「派生消費」の3類型に分けて、『心が動く消費調査』を分析した結果、興味深い傾向が見えてきました。図版①は、心が動いた買い物をきっかけに、どういう気持ちの変化があったかを聴取したものです。それを「単発消費」「リピート消費」「派生消費」の3つに分けて分析しています。
図版①を見ると、単発消費よりもリピート消費、さらには派生消費のほうが「気持ちが前向きに・元気になった」「その商品やサービスのブランド、メーカーがより好きになった・関心を持った」というスコアが高くなっていることがわかります。つまり、心が動く買い物をしても、それが単発的な消費で終わってしまうと、消費者側の意識としては気持ちが前向きになりにくく、企業ブランドに好意を寄せることになりにくいという傾向が見て取れます。
たしかに、筆者の体験談でも、とある推しのグッズを購入した後、その関連グッズをとめどなく購入してしまうということがありました。しかし、単発的に(別の意味では衝動的に)購入したものについては、それを入手しただけで満足したように思います。そういった買い物のほうが、消費に対する後ろめたさや空虚さを感じてしまうものです。
こうした傾向からマーケティングにおいて得られる示唆は、心が動く消費を創造することはもちろん、その後にさらに心が動くような仕掛け、要は次の消費の意欲を掻き立てるような施策が非常に重要であるということです。これにより、企業側だけでなく、消費者にとっても好ましいサイクルを生み出すことができると言えそうです。