CXMとは何か
CXMは「Customer Experience Management(カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント)」の略語で、「顧客経験」や「顧客体験」を意味しマーケティングでよく使われます。
昨今のマーケティングでは、価格やスペックといった機能的価値での差別化が難しくなりました。企業が自社と競合他社の類似商材との差別化を図るためには、商品・サービスによって得られる「心地よさ」や「満足感」「感動」などの体験価値を提供する必要があります。体験価値の提供は、企業のロイヤリティやブランドイメージ向上につながります。
サブスクリプション型モデルの場合、顧客の利用継続率が最も重要です。商品・サービス購入時の体験価値だけでなく、継続利用まで考慮した体験価値を提供できるように意識しましょう。
CXMの取り組みを継続し、顧客ロイヤリティを向上させることで商品・サービスのリピーターを生み、中長期的な収益確保につながります。
CRMとの違い
CRMは「Customer Relationship Management(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)」の略語で、「顧客関係管理」を意味します。顧客との関係性構築に重点をおいたマーケティング手法や、顧客の属性情報などを収集・管理するツールを指します。
CXMは、顧客が商品・サービスを購入してから購入後の利用シーンなどを想定した体験価値を付加して、ロイヤリティを向上させることが目的です。一方で、CRMは顧客一人ひとりの詳細なデータを収集・管理して、それぞれの顧客に最適なアプローチを行い長期的な関係性を構築することを目的としています。
CRMは、属性情報や購買行動におけるデータを収集し分析できるため、マーケティング活動の効率化が可能です。しかし、顧客の気持ちや顧客の声といった「感情」にフォーカスした意思決定は難しいでしょう。
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CSとの違い
CSは「Customer Satisfaction(カスタマー・サティスファクション)」の略語で「顧客満足度」を意味します。商品・サービスに、顧客がどれくらい満足したかを表す指標です。
CSは多くの企業でKPIの一つとして採用されています。CSの向上はリピーターが増え、売り上げの拡大につながるでしょう。しかし、CSはあくまで顧客一人ひとりの「体験」にフォーカスしたものなので収益性との相関性は曖昧です。
CXMの重要性
デジタル化の推進にともない、消費者の購買プロセスは複雑化しました。消費者は商品・サービスを購入する際にWebサイトやSNSを使い情報収集を行います。情報は企業が発信しているものから、顧客がSNSに投稿した口コミなど様々です。
競合他社の類似商材との差別化が難しい中で、商品・サービスを選んでもらい収益を得るためには顧客一人ひとりに寄り添ったアプローチが必要です。CXMを実施しロイヤルカスタマーを増やすことで、安定した収益を長期的に得られます。また、ロイヤルカスタマーがSNSで商品・サービスの口コミを投稿することで、認知の拡大にもつながるでしょう。
CXMは企業の収益拡大に大きな影響を与える取り組みとして重要視されています。様々なタッチポイントでの顧客体験戦略を立てて競合他社との差別化を図りましょう。
CXMの戦略の立て方
CXMの取り組みを進めるには、どのように「体験価値」を提供するのか戦略を練る必要があります。戦略を立てる際には、以下の4つを整理しましょう。
- KGI・KPIを設定する
- 顧客のセグメントを明確化する
- カスタマージャーニーマップを作成する
- セグメントごとに施策を立案する
それぞれについて詳しく説明します。
1.KGI・KPIを設定する
まずはKGI・KPIを設定しましょう。KGI・KPIについて簡単に説明します。
- KGI:「Key Goal Indicator」の略。「経営目標達成指標」を意味し、経営やビジネスにおける最終目標を指します。
- KPI:「Key Performance Indicators」の略。「重要業績評価指標」を意味し、最終目標を達成するための中間目標を指します。
KGI・KPIを設定することで目標に対しての進捗度合いを可視化でき、対応すべきことの優先順位の整理を行うことが可能です。
一点、注意すべきはあまりに大きな目標は立てないことです。目標が大き過ぎると達成するまでの道のりがイメージできません。KGI・KPIを設定する際には、商品・サービスの内容を考慮して進めましょう。
2.顧客のセグメントを明確化する
次に顧客のセグメントを明確化しましょう。商品・サービスを購入している顧客のデータを分析し属性ごとの特徴を明確にし、整理することもCXMを成功させるためには重要です。顧客のセグメントを明確化し整理することで、ロイヤルカスタマーの特徴を可視化できマーケティング戦略の立案に役立てられます。
顧客データはCRMツールを導入すると、収集・分析が容易です。人の手でも顧客データの分類はできますが、工数が掛かり効率的でないことや集計を誤れば意味をなさないデータとなります。CRMツールを導入していない場合は、正確さや作業効率を考え導入を検討しましょう。
3.カスタマージャーニーマップを作成する
CXMで成果を出すには、カスタマージャーニーマップの作成も大事です。カスタマージャーニーは、顧客が商品・サービスを認知してから購入するまでの道筋を可視化するものです。顧客の行動を「認知」「検討」「購入」などのフェーズに分類し、フェーズごとに目的やどのようにアプローチするか整理するために活用します。
顧客目線で商品・サービスを見直すので、新たな気づきを得られることもあります。フェーズごとに適切なアプローチを図れるように、カスタマージャーニーマップを作成しましょう。
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4.セグメントごとに施策を立案する
最後にセグメントごとの施策を立案しましょう。カスタマージャーニーマップで整理したフェーズごとに、セグメントに適した媒体や訴求メッセージ、提供する体験価値などを考えます。
セグメントごとに、購買行動の中で重要視しているポイントは異なります。また、フェーズごとでも届けるべきメッセージを変えましょう。セグメントやフェーズごとの特徴を把握せずに施策を立案しても成果につながりません。顧客やフェーズごとの態度変容を深く理解して、施策を立案するように意識しましょう。
CMXを成功させるポイント
CXMを成功させるポイントは4つあります。取り組みを進める際には、ポイントを抑えましょう。
- 顧客理解を深める
- 継続的に効果測定を実施する
- A/Bテストを実施する
- 影響度が大きい項目を可視化する
それぞれのポイントについて、詳しく紹介します。
1.顧客理解を深める
CXMは顧客の「体験価値」を起点にマーケティング施策を行うので、顧客理解を深めることが大事です。
顧客の購買行動や購買履歴などのデータの他に、商品・サービスに対しての口コミなどを収集してマーケティング施策に活かします。顧客が「何」に価値を感じるのか、「何」に感動するのかを分析して、顧客を理解しましょう。
顧客理解を深め、各タッチポイントごとに「体験価値」を提供できるようにカスタマージャーニーマップを作成し、マーケティング施策に落とし込むことをお勧めします。
2.継続的に効果測定を実施する
CXMを成功させるには、継続的に効果測定を行い改善を図ることが重要です。顧客体験は多岐にわたり、かつトレンドも変化します。同じ施策を続けていても、効果は減衰することが考えられます。継続的に効果計測を行い、顧客の動きに変化があれば、いち早く次の施策を打って質の高いCXMを維持するように心がけましょう。
効果測定を通してタッチポイントごとの現状把握だけではなく、各タッチポイントが顧客に与える影響も把握しましょう。顧客に与える影響については、NPSを活用して計測することをお勧めします。
NPSは「Net Promoter Score」の略で、顧客ロイヤリティを計測する際に使用される指標です。収益性との相関性が認められているため、ベンチマークとして役立ちます。
顧客アンケートを取り、0~10の11段階で回答を集めてスコアリングします。スコアごとに回答者を「批判者」「中立者」「推奨者」の3つに分類し、計算式を用いて値を算出します。顧客アンケートの質問例は以下のとおりです。
- あなたは商品やサービスを家族や友人にお勧めしたいと思いますか?
- 商品やサービスの価格についての満足度
- 商品やサービスの機能面についての満足度
NPSを実施する際には、結果を社内で共有し分析して今後の改善につなげましょう。
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3.A/Bテストを実施する
マーケティング施策を進めるうえで、Web広告を実施する企業は多いでしょう。Web広告ではA/Bテストを実施して顧客の反応を計測し改善を図ることが大事です。
セグメントごとに広告のデザインやコピーを何パターンか用意し、広告を配信しましょう。Web広告はリアルタイムで数値が計測されるので、配信量によっては短期間でA/Bテストの実施が可能です。一定期間、広告を配信し反応がよい広告を勝ちパターンとして残し、ブラッシュアップを図りましょう。
また、WebサイトもCXMでは重要になります。Webサイトに訪れたものの、内容がわかりにくいものや、操作性が悪いもの、購入・申し込みの動線が複雑なものは顧客が途中で離脱してしまいます。Webサイトの数値も定期的に計測し、改善を図るように意識してください。
4.影響度が大きい項目を可視化する
CXMを成功させるには、特に影響度が大きいポイントに注力し効果を高めましょう。顧客が重要視しているが、NPS調査の評価が低い箇所が影響度が高く注力して改善すべきポイントと言えます。
NPS調査の結果を基にドライバー分析を行いましょう。ドライバー分析は、4象限の表を使ってNPSを向上するための優先度の高いポイントがどこにあるのかを導き出すものです。4象限は以下の通りです。
- 重要維持項目(強み):顧客満足度を得やすく、推奨度への影響が多い。重点的な維持が必要
- 優先改善項目(弱み):推奨度は大きいが、顧客満足度が低い。CMXの取り組みを成功させるためには優先的な対応が必要
- 基本維持項目(基本価値):顧客満足度は高いが、推奨度への影響は低い。
- 注意項目:顧客満足度、推奨度ともに低い。
ドライバー分析における分類は、施策の内容や時流によって変動する可能性があります。定期的に分析を行うことで、効率のよい施策実施につながるでしょう。
CXMツール選定ポイント
CXMは、顧客一人ひとりに合わせた「体験価値」の提供が大事になります。効果的な「体験価値」を提供するためにツールを導入している企業もあります。ツールは、顧客の属性や過去の購買行動のデータに基づき、個別に最適化されたメッセージやサービスの提供が可能です。
ツールの導入を検討する際には、以下4つのポイントを考慮しましょう。
- 費用対効果が合うか
- 目的に合っているか
- ツールは使いやすいか
- サポート体制は充実しているか
それぞれについて、詳しく紹介します。
1.費用対効果が合うか
CXMツールは多岐にわたるため、導入するツールを比較検討することがあります。その際に、まず上がるのが費用対効果面での検討でしょう。
ツールは、機能が多いほどコストが掛かります。また、CXMツールは目的や用途に合わせたプラン設定が多いため、オプションを追加してコストがかさむこともあります。
ツールを導入するための予算上限をあらかじめ設定しましょう。その上で、高い費用対効果を期待できるツールを選ぶことをお勧めします。
2.目的に合っているか
CXMツールの種類は多く、ツールごとに機能性が異なります。ツールを導入する目的が何か、解決したい課題が何かを解決したいのかを明確にしましょう。目的や課題が明確になれば、必要最低限の機能が把握できます。
目的や課題を整理せずに機能数の多さでツールを決めてしまうと、使わない機能ばかりでコストだけが掛かってしまい費用対効果が悪くなります。自社の目的や課題の解決に適した機能があるツールなのか、しっかりと確認しましょう。
3.ツールは使いやすいか
CXMの取り組みで成果を上げるためには、中長期的に仮説と検証を繰り返すことが重要です。導入したツールが使いにくい場合、運用が難しくなり成果を上げることが困難になる可能性があります。
導入を検討しているツールは操作しやすいものか、事前に操作性を確認することを推奨します。検討しているツールで、無料トライアルやデモ画面があれば実際に触れて操作が難しくないか使いにくくないか確認しましょう。
4.サポート体制は充実しているか
ツール導入後のサポート体制が充実しているか、どのようなサポート内容なのかサポート対象範囲はどのようなものなのかもツール選定のポイントになります。
CXMは、顧客データの統合や分析・解析など多くの作業に対応することが必要です。ツールを導入した際には操作方法はもちろん、初期設定や運用のしかたなどでつまずく可能性があります。そうした時に、サポート体制が充実しているツールではスムーズに解決できるでしょう。
検討しているツールの中に併走サポートの体制を敷いているものがあれば、積極的に導入を検討しましょう。
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CXMの成功事例
CXMの取り組みで成果を出している企業はいくつかあります。その中から2つの成功事例を紹介します。成功事例の取り組みをそのまま真似することは難しいですが、考え方の参考にしてみてください。
Netflix
1つ目はNetflixでの成功事例です。NetflixがCXMで取り組んでいるのは、精度の高いレコメンド機能になります。具体的には、過去に見た作品の続編や同じ監督や役者が出ている作品のみでなく、ユーザーが好むカテゴリーの作品をレコメンドする機能です。
この機能により、ユーザーは自分が探したい作品以外にも気になる作品や好みに合った作品を見つけられます。これによって、ユーザーが得る「体験価値」の質は高く、継続的なサービス利用につながっているでしょう。こうしたレコメンド機能は、動画配信に限らずECサイトでの商品購入にも効果的です。
スターバックスコーヒー ジャパン
2つ目はスターバックスコーヒー ジャパンの成功事例です。スターバックスコーヒー ジャパンでは「Mobile Order & Pay」というモバイルオーダーのCXM施策を2019年から実施しています。
店舗で商品を購入する際の「列で待つ時間」という課題を解消するために、アプリから商品やカスタマイズ内容を選択し、注文・支払いを事前に済ませて受け取り時間に店舗で商品を受け取れるサービスです。「列で待つ時間」という課題の他に、店舗での注文では後ろに並んでいる人が気になり、ゆっくり注文できないといった課題も解決できるため、一度モバイルオーダーを利用するとその後の利用頻度が増える傾向があります。
また、モバイルオーダー時に注文した顧客を番号で識別するのではなく、最大10文字の「ニックネーム」を指定できる機能もあります。「ニックネーム」があることで、お店のスタッフと顧客のコミュニケーションのきっかけや、特別感を体験してもらうことが可能です。こうした「便利」と「楽しい」という「体験価値」を提供しています。
他にもタンブラーの利用促進を促すための「タンブラー部」の活動や、公式アプリや登録済みのスターバックスカードで商品を購入するとスターがたまる「スターバックス リワード」というポイントプログラムも実施しています。
スターバックスコーヒー ジャパンのCRMの取り組みについては別の記事で紹介していますので、ぜひそちらもご覧ください。
まとめ
本記事では、CXMについて紹介しました。昨今のマーケティングでは、商品・サービスの価格やスペックといった機能的価値での差別化が難しいため、顧客にどのような「体験価値」を提供するかが鍵となります。
商品・サービスの売り上げを拡大させるためには、顧客がファンになるような「体験価値」を提供する必要があります。そのためには、顧客の理解を深めて、カスタマージャーニーマップを作成して各タッチポイントごとの施策を考えましょう。
また、CXMは仮説と検証を繰り返す中長期的な取り組みになります。顧客データの収集や分析なども必要になるので、ツールの導入をお勧めします。紹介した選定ポイントを参考に検討してみてください。CXMの取り組みを行い、売り上げの拡大を図りましょう。