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リアル店舗と一体化したオムニチャネル施策を実行 直営サイト売上を4倍にしたパルが目指すCX向上の基盤

 約50に及ぶ、幅広い価格帯・顧客層のファッションブランドを擁するパル。グループ全体で2期連続の過去最高益を達成、そのけん引役となっているのがEC事業だ。ECサイト「PAL CLOSET ONLINE STORE」には、CXプラットフォームの「KARTE」を導入してCX向上を推進。パルが強みとする店舗スタッフの力も活かして、オムニチャネル化を志向する戦略に、「KARTE」はどう寄与しているのか? パルでWeb事業を統括する堀田覚氏、「KARTE」の事業開発を担当するプレイドの田中悠氏に取材した。

実店舗と一体化したオムニチャネル戦略を実践

――アパレル業界では伸び悩む企業も多い中、パルでは近年右肩上がりの成長を実現されているそうですね。まず、パルのWeb事業を統括されている堀田さん、御社の近年の状況をうかがえますか?

堀田:当社は手ごろな価格の雑貨ブランド「3COINS」から高価格帯・高品質のファッションブランドまで、非常にバラエティに富んだ約50のブランドを展開しています。近年はEC事業に注力しており、直営サイト「PAL CLOSET ONLINE STORE」のCX向上や、店舗とオンラインの会員統合などを進めてきました。

 私は元々、新卒では別のアパレル会社でMDなどを経験し、メディア企業でEC事業立ち上げに携わってから2014年にパルに参画したのですが、当時はまだEC化率はかなり低かったんですね。翌年に全社を挙げてEC強化の方針が出され、この3~4年で直営サイトの売上は約4倍になりました。今年は他社サイトを含めた売上200億円、EC化率は20%を目指しています。

パル 執行役員 WEB事業推進室 室長 堀田 覚氏
パル 執行役員 WEB事業推進室 室長 堀田 覚氏

――ECを順調に拡大されてきたのですね。その中で、直近の方針は?

堀田:ECは確かに順調に伸びていますが、会社全体でも成長していて、これまでの要因はどちらかというとブランドと店舗数の拡大によるところが大きいです。ECは、時代の流れとともに拡大してきたので、今後はさらに力を入れていきます。

 当社の強みはあくまで実店舗に基盤があること、そこでお客様としっかり接点を持っているスタッフがいることだと考えています。スタッフの力を考慮せずにテクノロジー偏重でEC事業を進めると、当社の本来の良さが活きないので、オムニチャネル施策も店舗と一体化した形で展開していく方針が根底にあります。

店舗スタッフの強みも活かしたOne to One目指す

――店舗と一体化したオムニチャネル施策とは、具体的にはどのようなことですか?

堀田:店舗とECの会員統合や共通ポイント化もそうですし、最近だと店舗スタッフのInstagram活用を推奨したりしていますね。元々、スタッフがみずからコーディネートを投稿してフォロワーを増やしていたので、その流れを会社としても後押ししています。

 また、店舗で接客してECで購入された場合に、ちゃんと店舗スタッフの寄与が把握できるよう、スタッフとお客様の関係の可視化も検討中です。当社ではプライベートDMPを入れていませんが、顧客データをすべて「KARTE Datahub」という機能を使って蓄積し、他にも複数のサービスを活用しながらOne to Oneのコミュニケーションを模索しているところです。

――なるほど。「KARTE」はいつごろから導入されているのですか?

堀田:4年くらい前になりますね。当初は“Web接客プラットフォーム”という括りでしたが、どんどん進化していますし、我々の使い方も変わってきています。

――確かに今の印象は“Web接客プラットフォーム”ではないですね。プレイドの田中さん、どうお考えですか?

田中:そうですね、最近では統合的なマーケティングプラットフォームとして十分機能するようになっていますし、そういった例も増えています。私はメーカー企業のマーケティングを経て2015年、まだプレイドが20人ほどの規模だったときに入ったのですが、常にクライアント企業のフィードバックを受けながら機能開発や外部アライアンス締結などに携わってきました。なので、まさに進化させている実感があります。堀田さんとも初期から取り組ませていただいて、いつも気づきをもらっています。

プレイド Business Development 田中 悠氏
プレイド Business Development 田中 悠氏

「ABテストだけでは単調化する」拡張性が決め手に

――「KARTE」を導入した決め手をうかがえますか?

堀田:当初はEC強化という旗を掲げながらも、具体的にオムニチャネル化を描けていたわけではありませんでした。その時点では、商品が閲覧できてカートがあって、というごくシンプルなECサイトだったので、もう少し積極的な働きかけをしたいと考えてツールを探しました。その中で「KARTE」を選んだのは、拡張性があったことが大きいですね。当時主流だった“ABテストをして寄せていく”といった使い方が中心だと、いずれ打ち手が絞られて単調になると思ったので。

――実際、今では顧客データベースとしても活用されているというお話がありました。拡張性や自由度といった部分を含めて、パルさんの「KARTE」の使い方を田中さんはどうご覧になっていますか?

田中:拡張性や自由度の高さは、「KARTE」開発当初から目指してきたことです。大まかには、スキームレスなデータ取り込みと抽出、サイト内外のアクション手段の幅広さ、MAやBIなど多様な外部サービスとの連携、さらにデザインの自由度という4つの観点があるのですが、これらを網羅的に、そして徹底的に使い倒していただいているのがパルさん、という印象です。堀田さんの采配自体がすごく柔軟なので、ツール側もついていかなければ、と。

――なんと、さながら「KARTE」マスターですね。

堀田:(笑)。私は見ている範囲が広いので、基本的に商品開発以外は投資の選択と集中がしやすいんです。ビジネス環境の変化が早い中、スピード感を持って柔軟に打ち手を試して変えていくのは不可欠だと思います。

「変動通知」でメール開封率は通常の2.5倍に 複数の新機能を追加

――実際に、直近でも「KARTE」の新たな機能を相次いで取り入れられているそうですね。いくつかうかがえますか?

田中:昨年12月、お気に入りに入れた商品の価格や在庫の変動をお知らせする「変動通知機能」と商品ページに顧客が過去に購入した商品のサイズを表示する「サイズ補助機能」を実装しました。先ほど堀田さんからお話しいただいたKARTE Datahubを活用したもので、通知はメールやLINE、アプリのプッシュ通知で届きます。いずれも先行してパルさんに導入いただいています。

「変動通知機能」の概略図。商品をお気に入りに入れた利用者に、商品の価格や在庫数が変動した場合、その情報をKARTE Datahubを通じて通知する
「変動通知機能」の概略図。商品をお気に入りに入れた利用者に、
商品の価格や在庫数が変動した場合、その情報をKARTE Datahubを通じて通知する

堀田:アパレルでは12月から1月がセール時期なので、価格の変動は多くのお客様が求められている情報です。そのためいち早く導入しました。他に、予約商品の販売開始や再入荷のお知らせも追加しています。

 まだ導入して間もないですが、価格変動の通知は通常のブランドメールよりも開封率が2.5倍以上になっていますね。この機能実装と並行して、お気に入り自体をしやすくするようにサイトをチューニングしています。

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「サイズ補助機能」を導入したPAL CLOSET ONLINE STOREの画面表示
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――これから実装予定のものなどは?

田中:先ほど堀田さんから店舗スタッフの強みも活かしたOne to Oneを強化していくという話がありましたが、販売員さんと顧客をつなぐ外部サービスの「STAFF START」を活用したコーディネート提案施策を実施予定です。EC購入を起点に、購入翌日に該当商品を使ったコーディネートを紹介します。

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コーディネート提案施策を用いたサイト画面・アプリ画面イメージ。
利用者がカートに入れた商品(画像ではデニム)と同商品を使ったスタッフのコーディネートを画像で表示する
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 次に、これを店舗購入起点でも実現していく予定です。さらに、店舗で接客したスタッフから「昨日はありがとうございました」といったメッセージや購入した商品を使ったコーディネートが届く仕組みも開始します。

スタッフから顧客へOne to Oneのメッセも可能に

――サイズ補助や値下げ通知などは、オンラインで衣服を購入する際にユーザーとして気になる点ですよね。コーディネート提案も、うれしいサービスだと思います。

田中:そのプッシュ通知も、各顧客がこれまでよく開封している曜日や時間帯に届けられるように最適化できるようにしました。会社員や学生などの属性でライフスタイルが異なることも想定されます。一人ひとりに合わせて、その人がよく活動しているタイミングでメッセージを届けることができます。

配信タイミング最適化の概略図。頻繁に特定のアクションをする時間帯をユーザー毎に解析することで、適正化された時間帯にメッセージを届けることが可能になる
配信タイミング最適化の概略図。頻繁に特定のアクションをする時間帯をユーザー毎に解析することで、
適正化された時間帯にメッセージを届けることが可能になる

 また、これは堀田さんとの「どうやったら顧客の体験をより良くできるか・店舗スタッフという”人”の価値を最大化できるか」という議論から開発に至ったのですが、店舗スタッフから直接、特定の顧客にプッシュ通知を送れるようにもする予定です。例えば、店舗独自に実施するキャンペーン情報を過去にご利用された方だけに店舗スタッフの方が自らメッセージを送るなどのイメージですね。

――それは、「先日お話したこんな商品が入りましたよ」といった、本当にOne to Oneのメッセージも可能なんですか?

堀田:そうですね。あまりそちらに偏ってもスタッフの負担になりますし、手ごろな価格のブランドも多いので、基本的に打ち手の多くはオートメーションで回すべきだと考えてはいます。ただ、高価格帯でスタッフにお客様が付いているようなブランドでは、ロイヤル顧客の顧客満足度の向上は重点項目です。以前から紙のDMやオファーという手段はありますが、もっとタイムリーなOne to Oneのコミュニケーションが必要だと思っていました。

 そうした部分をフォローする策として、オンラインでの個別の働きかけには期待していますし、スタッフにも活用を勧めていくつもりです。

デジタル活用を“文化”として浸透させる立体的取り組み

――店舗とオンラインの連携を、そこまで進められているんですね。

堀田:そうですね。昨年末、リアル店舗のPOSデータもすべて「KARTE」へ蓄積するよう整備したので、立体的な取り組みが可能になりました。データのリスク管理と、店舗スタッフも必要な情報を簡単に確認できることを両立するために、「KARTE」からGoogle データポータルにデータを移し、お気に入り数などを見られるようにしています。

田中:さらにこれも堀田さんと相談中ですが、今マシンラーニングにも注力していて、これを需要予測や在庫配分の最適化、そして顧客ロイヤルティ分析にも活用する予定です。

KARTEに蓄積可能なオン・オフのデータとその活用先を示す概略図。前述の変動通知を含む顧客向けの活用に加え、データポータルへのアウトプットにより、ブランド部門の仕入れや企画、在庫配分、プロモーションといった社内向けの活用も期待できる。
KARTEに蓄積可能なオン・オフのデータとその活用先を示す概略図。
前述の変動通知を含む顧客向けの活用に加え、データポータルへのアウトプットにより、
ブランド部門の仕入れや企画、在庫配分、プロモーションといった社内向けの活用も期待できる

――では最後に、今後顧客とどのような関係性を築きたいかうかがえますか? また支援側としては、それをどうサポートしていきたいですか?

堀田:ようやく理想的なオムニチャネル基盤が整ってきたので、個々の顧客をもっと理解し、最適なタイミングで最適なメッセージを届けるその精度を高めていきたいです。加えて、ブランド全体のファンを増やす一方で、能力と魅力ある店舗スタッフそれぞれのファンも増えるように、人と人との長期的な関係構築を目指します。同時に社内には、デジタル活用が当たり前の文化になるよう、浸透させたいですね。

田中:単機能の開発も大事ですが、いずれも「One to Oneのコミュニケーション」と「店舗スタッフと顧客の関係強化」という思想に根差しているものです。今後も、現在パルさんで進められているオムニチャネル全体を支援していきたいと思っています。これからはますます、購買行動全体を捉えた顧客体験の設計が重要になるので、オンライン・オフラインを超えて顧客の気持ちに注目して、引き続き柔軟に進化させていきたいと思います。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

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MarkeZine(マーケジン)
2020/03/04 11:23 https://markezine.jp/article/detail/32894