バイラルマーケティングとは?
まずは、バイラルマーケティングの意味やメカニズムを解説します。
バイラルマーケティングの意味・定義
バイラルマーケティングとは英語で「Viral Marketing」と表記されます。Viralは「Virus(ウイルス)」の派生語となり、日本語では「ウイルス性の」といった意味があるように、ウイルスのように増殖して広まっていくことを指す言葉です。
こうした意味合いから、バイラルマーケティングとは人から人へと口コミによって情報を広めていくマーケティング手法を指します。特にSNSを中心としたインターネットメディアにおいて親和性が高いマーケティング手法で、X(旧:twitter)やInstagramなどを介して投稿が拡散されていくことを目的としています。
グリーエックス株式会社(旧名:Glossom株式会社)の調査では、ユーザーが商品・サービスを購入する際に参考にする情報源はインターネット広告よりもSNSや口コミのほうが高いという結果です。そのため、ユーザーの購買意欲を後押しする手法の一つとして、ユーザー同士で口コミやコンテンツを広めていくバイラルマーケティングに注目が集まっています。
バイラルマーケティングのメカニズム
バイラルマーケティングでは、どのように情報が広まっていくのでしょうか。そのメカニズムを見ていきましょう。
企業は、ユーザーが興味を持つような、価値の高い情報や魅力的な商品・サービス、ユニークな動画などのコンテンツを作り、SNSに投稿したりWebサイトで公開したりします。その投稿を見たユーザーが「誰かにも教えたい・共有したい」という気持ちになり、SNSや動画投稿サイトなどで拡散していきます。さらに、その投稿を見た他のユーザーも情報を共有していき、自然な拡散が実現するという仕組みです。
企業側が意図的に情報を広めていくのではなく、ユーザー自らが情報を拡散していくのが大きな特徴です。自然な拡散を実現するためのポイントとなるのが「UGC」です。
UGCとは「User Generated Content(ユーザー生成コンテンツ)」という意味で、ユーザー自らが作成したコンテンツを指します。具体的にはSNSの投稿や口コミサイトのレビューなどが該当し、UGCの増加は拡散が実現していることを裏付けています。
UGCについては以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてみてください。
バズマーケティング・インフルエンサーマーケティングとの違い
バイラルマーケティングと混同・比較されることがある「バズマーケティング」と「インフルエンサーマーケティング」との違いについて解説します。
バズマーケティングとの違い
バズマーケティングとは、人為的に口コミや投稿を発生させ、情報拡散に企業側が積極的に介入していくマーケティング手法です。
「バズる」という言葉を日常的に耳にしている人も多いのではないでしょうか。Buzz(バズ)とは「ざわめき」「ガヤガヤ言う」といった意味があることから、バズマーケティングは特定の商品・サービスや投稿などの爆発的な拡散を狙います。
バズマーケティングの具体的な施策としてはハッシュタグ投稿キャンペーンやリポストキャンペーンなどがあり、企業側が働きかけてユーザーの情報拡散を促します。こうした点において、ユーザーの自然な情報拡散を狙うバイラルマーケティングとは違いがあると言えるでしょう。
インフルエンサーマーケティングとの違い
インフルエンサーマーケティングとは、SNSなどで影響力のある人「インフルエンサー」を起用して宣伝してもらうように依頼し、企業側も積極的に介入して情報拡散を狙う手法です。
多くのファンやフォロワーを持つインフルエンサーが商品・サービスを紹介していると、ユーザーは「あの人がお勧めしているから私も使ってみたい」といった心理になり、多くの人の興味を得られるでしょう。
ただし、広告であることを隠しているとステルスマーケティング(ステマ)に抵触してしまうため注意が必要です。ステルスマーケティングとは一般のユーザーがわからないように商品・サービスを宣伝することで、ユーザーの意志決定の弊害になるとして2023年10月から景品表示法で禁止されています。
インフルエンサーに依頼する際には「PRであること」を明記してもらい、適切に投稿しているか必ず確認しましょう。

バイラルマーケティングの3つの手法
バイラルマーケティングを実際に行うにはどのようにしたらよいのか、気になる人もいるのではないでしょうか。そこで、3つの手法をお伝えします。
1次的バイラルマーケティング
ユーザーの自発的な共有を促して、自然に情報拡散を狙うのが1次的バイラルマーケティングです。企業側が魅力的なコンテンツを作成し、ユーザーの「誰かに教えたい」という意欲を高めて拡散してもらいます。ユーザーによる自発的な拡散につなげるため、価値の高い情報やインパクトのある画像、感動する動画などを作成する必要があります。
2次的バイラルマーケティング
2次的バイラルマーケティングは、ユーザーの共有に対するインセンティブを用意し、UGCを作成して拡散してもらう方法です。たとえば、友だち紹介キャンペーンや、ハッシュタグ投稿キャンペーンなどがあります。情報拡散の効果は高いですが、企業側が介入する側面もあるため強制的だと感じさせない工夫が重要です。
紹介埋め込み
紹介埋め込みとは、Webサービスやメールサービスに広告を埋め込み、ユーザーがそのサービスを利用すると広告が表示される方法です。ユーザーが利用するほど多くの人に拡散されていき、宣伝効果が向上していく仕組みです。
たとえば、iPhoneでメールを送るとメール本文に「iPhoneから送信」というテキストが挿入されます。これにより、メールを受け取った側がiPhoneという商品を認知するため、宣伝効果があると言われています。
バイラルマーケティングのメリット・効果
バイラルマーケティングを行うことで、様々なメリット・効果が得られます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
費用対効果が高い
バイラルマーケティングは高い費用対効果が期待できます。宣伝やPRなどの活動は、膨大な広告費がかかるのが一般的です。多くのユーザーにリーチしようとするほど多くのコストがかかり、顧客一人あたりの獲得単価も高額になりやすい傾向があります。
一方、バイラルマーケティングはユーザーが自発的に情報を拡散してくれるため、高額な広告費は必要ありません。拡散効果の高い魅力的なコンテンツを作るためのコストはかかりますが、情報拡散自体にはコストがかからないため、うまくいけば低コストながら高い効果が期待できるでしょう。
ターゲット層へアプローチできる
情報拡散は、興味関心やライフスタイルなどが似通った層のグループから拡散が広まっていきます。特定のターゲット層に向けたコンテンツを発信することで、その層のグループ間で情報拡散が発生していくため、ターゲットを狙ってアプローチできるのもメリットの一つです。
不特定多数にアプローチするよりも、ターゲットを絞ってピンポイントでアプローチするほうが、短期間でしっかりとした効果を狙えるでしょう。
自然と興味を持ってもらえる
バイラルマーケティングは友人や家族などから情報が拡散されていくため、広告よりもユーザーが興味を持ってくれる可能性が高まります。
マイボイスコム株式会社の調査では、インターネット広告が表示された際、半数以上のユーザーが「広告を閉じた」「インターネット広告を、間違えてクリックした」と回答しています。一方、「インターネット広告をクリックした(意図的に)」は約2割となっており、インターネット広告が表示された際にポジティブな反応をするユーザーは少ないことがわかるでしょう。
バイラルマーケティングは自然な形での情報拡散のため、広告よりもユーザーに不快感を与えることなく興味を持ってもらえます。
未開拓層との接点を作れる
バイラルマーケティングでは、今まで接点を持ったことがない層にも情報を届けられます。情報拡散はコントロールできないため、どこまで広まっていくか未知数です。人から人へと次々に拡散されていけば、今までリーチできていなかった層にも情報が届くでしょう。
これまでは自社と関係性のないと思っていた層でも、実はニーズがあるかもしれません。情報が広まっていくことにより、新たな顧客層の獲得という大きな可能性を秘めています。

バイラルマーケティングのデメリット・注意点
コスト面や情報拡散の力によるメリットがある一方で、バイラルマーケティングにはデメリットや注意点もあります。実施の際には、以下のポイントに気を付けましょう。
ターゲット分析にリソースがかかる
バイラルマーケティングは自然発生的な情報拡散を狙う手法のため、当然ながら「拡散したい」と思われるような魅力的なコンテンツを作らなければなりません。ありふれたコンテンツでは他のコンテンツに埋もれてしまうため、価値の高いコンテンツや感動を与えられるコンテンツなど、インパクトのある一手が必要です。
ターゲット層に興味を持ってもらえるコンテンツを作るには、ターゲットに関する調査・分析を行って十分にニーズや興味関心を理解する必要があります。しかし、調査・分析には時間やコストがかかる場合もあるため、一定のリソースがかかる点は理解しておきましょう。
必ずしも拡散されるとは限らない
魅力的なコンテンツを作ったからと言って、必ずしも拡散されるとは言い切れません。ユーザーがその情報を共有してくれるかどうかは企業側が介入できないため、期待しているほどの情報拡散にならないという事態も考えられます。
コンテンツ制作にかかったリソースに見合わない成果であるケースも少なからず起こりえるため、PDCAを回して精度をコンテンツの内容や発信方法、ターゲット層などの精度を高めていく必要があります。
ネガティブな投稿が広まる可能性がある
情報拡散のスピードや広まり方は企業側でコントロールできないため、思わぬ方向へと広がっていく可能性もあります。作成したコンテンツに対する誤解や、商品・サービスに対する批判的な意見などのネガティブな投稿が拡散されていけば、すぐに沈静化させるのは困難でしょう。ネガティブな情報の拡散により、企業の信頼を一気に失墜させてしまう可能性もゼロではありません。
ブランドイメージの不一致を引き起こす恐れがある
情報拡散が思わぬ方向に広まっていけば、狙ったターゲット層にコンテンツが届かず、意図しない層に届いてしまうことも考えられます。ターゲット層にとっては魅力的なコンテンツであっても、ターゲット層以外の層にとっては不快感や嫌悪感を与えてしまうリスクもあり、ブランドイメージの乖離を引き起こしてイメージ低下につながる恐れがあるでしょう。
法的なリスクをはらんでいる
バイラルマーケティングの方法によっては、法律に抵触してしまうケースもあるため注意が必要です。
1次的バイラルマーケティングは、ユーザーによる自発的な情報拡散のため違法性はありません。また、紹介埋め込みもサービス内に元々埋め込まれており、違法とはされないでしょう。
しかし、インセンティブによって情報を拡散する2次的バイラルマーケティングの場合、広告と同様に見なされます。「このコンテンツは広告です」など広告である表示をしなければ、景品表示法のステルスマーケティングであると判断される可能性があります。
また、コンテンツ制作にあたってイラストや写真などを使う場合にも、著作権や肖像権に抵触しないか確認しなければなりません。インターネット上にある画像を気軽に使ってしまうと、著作権や肖像権を侵害してしまい法律違反になることもあるため注意しましょう。
リスク管理と炎上対策が必要となる
バイラルマーケティングのようにユーザー間での情報拡散では、常に炎上のリスクを念頭に置いておかなければなりません。時として、企業側が意図した内容とは違った意味でコンテンツの内容を捉えられたり、思わぬ誤解を招いたりしてしまうこともあるからです。炎上してしまうと、ブランドイメージにまで影響が及んでしまい、大きな損失につながるケースもあります。
そのため、バイラルマーケティングを始める際には想定されるリスクを洗い出し、あらかじめ予防策を講じておきましょう。
炎上した際の対策を事前に決めておかなければならない
事前に炎上を予防できればよいですが、いつどこで炎上が起きるかは予想できません。予想外のところから炎上に発展するケースもあるため、炎上が起きたことも想定して対策を練っておく必要があります。
炎上が起きたときの対応手順をまとめたマニュアルを整備しておくと、もしも炎上が起きてもスピーディーに対応できます。また、炎上トラブルに強い法律事務所と事前につながりを持っておくことで、万が一の事態にも備えられるでしょう。
バイラルマーケティングの成功ポイント
バイラルマーケティングは炎上リスクや法的リスクもありますが、うまくいけば大きな効果が見込めるマーケティング手法です。成功させるためのポイントをまとめたので、取り組む際には参考にしてみてください。
共有されやすいコンテンツを設計する
情報を拡散してもらうバイラルマーケティングにおいて、共有されやすいコンテンツ作りは基本的な要素です。ユーザーが「共有したい」と思ってくれるような、魅力的なコンテンツを設計しましょう。
たとえば、単に商品の写真を投稿するのではなく、競合他社と差別化できるポイントや使ったときのメリットなどの情報も付け加えると、ユーザーにとって価値の高い情報となるため拡散されやすくなります。また、その商品の製造過程をまとめた動画や、ユニークな使い方を紹介した記事、開発の裏話の記事など、ユーザーの心に響くコンテンツは拡散される可能性が高いため、積極的に取り入れましょう。

各SNSの特性を理解して活かす
SNSと一口にいっても、その種類は多岐にわたります。SNSは種類によって特性が異なり、利用しているユーザー層や親和性の高いコンテンツの種類も変わってくるため、それぞれのSNSにマッチしたコンテンツを作るのが成功のポイントです。
たとえば、Xは拡散性が高いためうまくいけば大きな効果を得られますが、そのぶん炎上のリスクも高いと言えます。また、短文での投稿がメインとなるため、短い文章でインパクトを与えなければならないでしょう。
Instagramは、華やかで目立つ写真の投稿が主流です。ファッションやメイク、グルメ、ペット、旅行など写真映えするコンテンツが人気で拡散されやすいため、写真でアピールできる商品・サービスとの親和性が高い傾向にあります。
また、動画に関しても媒体によって特性が異なります。縦画面のショート動画がメインのTikTokと、長尺動画が主流のYouTubeでは、動画の内容や編集方法なども変わってくるでしょう。TikTokは短くインパクトのある訴求が向いており、YouTubeはストーリー性のある訴求が適しています。
それぞれのSNSのユーザー層や親和性の高いコンテンツなどを理解し、その特性にマッチした施策を講じる必要があります。
効果測定してブラッシュアップする
バイラルマーケティングを始めたからと言って、すぐに成果が得られるとは限りません。一度実施して成果が得られなくても諦めず、効果測定をして結果を分析し、使用するSNSやコンテンツの種類・内容、ターゲット層などを変えてみることをお勧めします。施策をブラッシュアップしていくことでコンテンツの質も高まっていき、拡散されやすくなっていくでしょう。
多様なリスクへの対策を練っておく
バイラルマーケティングは炎上リスクや法的リスクなどをはらんでいるため、何も知らずに実行すると大きなトラブルに発展する恐れがあります。景品表示法でステルスマーケティングについて理解したり、炎上対策のマニュアルを整備したりするなど、事前に対策を練っておきましょう。あらかじめ対策を考えておくことで、万が一の事態になっても焦らずに対応でき、被害を最小限に食い止められます。
バイラルマーケティングの成功事例
最後に、バイラルマーケティングに成功した企業の事例を紹介します。
Hotmail
バイラルマーケティングに成功した有名な事例に、Hotmailがあります。
Hotmailとはメールサービスで、無料で利用できることから多くのユーザーを獲得しました。Hotmailの認知度が広まったのは、紹介埋め込みのバイラルマーケティングを行ったからだと言われています。
Hotmailから送ったメールには「Get your own free Hotmail at www.hotmail.com(ホットメールで無料の電子メールを手に入れよう)」というテキストが挿入されているため、そのメールを受け取ったユーザーはHotmailというサービスを認知します。ユーザーが増えてメールの件数が増えるほど情報は自然と拡散されていき、多くのユーザー獲得という成果につながりました。
Dropbox
クラウドストレージサービスのDropboxも、バイラルマーケティングによりユーザーを増やした事例です。Dropboxは友人を紹介すると無料で追加容量をもらえるキャンペーンがあるため、ユーザーが積極的に紹介したことで情報が広まりユーザーが増加しました。
ロッテ
ロッテは、ガムブランド「Fit's」でバイラルマーケティングを行いました。人気タレントを起用した「2年F組Fit's組~日本最強のクラス~」というタイトルの動画シリーズを公開し、XやYouTubeで大きな話題を集めたのです。若者に人気のタレントを起用し、ポップで明るい動画にしたことで、若者たちの間で情報拡散が促された例です。
まとめ
バイラルマーケティングは、ウイルスのように情報拡散が広まっていくマーケティング手法で、企業側がほとんど介入せずユーザーの自発的な共有が原動になっているのが特徴です。膨大な広告費をかけなくても情報が自然と広まっていく点や、広告のような宣伝色がないためユーザーに受け入れられやすい点などがメリットですが、炎上リスクや法的リスクがある点には注意しなければなりません。
バイラルマーケティングを実施する際には、まずはターゲット層を理解したうえで魅力的なコンテンツを制作することと、あらかじめリスクへの対策を講じておくことが重要です。本記事を参考に、バイラルマーケティングを取り入れてみてはいかがでしょうか。